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障害とバイオメカニクスからみた投球動作(1) 全体から下肢へ

2015.03.16

 今回は、2011年にお届けした「肩のコンディショニング」(第35回〜第42回)シリーズの、障害とバイオメカニクスから見た投球動作について解説していきます。

投球動作を分析

1.フォームを分析する

 まずはフォームの一連の流れについて説明をいたします。

ワインドアップの瞬間

(1)第1段階(ワインドアップ:足が上がるところ)

 ここでは軸脚に対して体を捻り込み、回転エネルギーと脚を上げることで重力の加速を使い、フォームの加速、エネルギーをためる段階である。そのための準備ができているのかチェックする必要がある。
脚の上げる高さとひねる角度。つまり体幹のトルク(回転している物体の回転軸の周りに働く力のモーメント)が増しているか。両腕は軸の安定のためバランスの良い位置にある。ワインドアップは脚が最も高くあがった位置とする。

(2)第2段階(コッキング:ワインドアップ期〜あげた足を接地するまで)

 横への重心の移動が大きく出て、フォームを加速させる位置。
上体がまっすぐに体軸をキープしてテイクバックがはいり、重心が下がりテイクバックのポジションをとったならば、重心が最も下がった位置であり、そこからキャッチャー方向への重心移動がメインとなる。接地した時は体重移動が行われ、ふみ込み脚に体重がうつり、ここでの上肢、下肢のバランスとリズムとタイミングの連続性が狂うと、運動連鎖がきれて、一部分に負担がかかり障害の原因となる。

(3)第3段階(アクセレレーション:加速期)

 第2段階を終えて、前足が接地してから第3段階に移行する。接地時につま先、膝は投球方向に向き固定。足関節、膝と固定されていき、投球方向にボールを投げる滑走路となる。土台が固まり、臼関節の肢関節が水平回転にとまり、次に背骨がまわりながら、体幹はまっすぐにキープして体が正面を向くときには、腕は最大外旋位をとるため後ろに残される。

 ここから体が前傾しながら回転することで、大胸筋がストレッチショートニングサイクルで肩を内旋させて肘、手首、ボールとムチをしならせるような動作でボールが投げられる。

 このリズムが守られず、特に軸脚に体重が残り、腕が投球プレーンでふられる時に前脚に体重がのらずに沈み込み、体軸の回転が出ないとリリースポイントが水平外転位に残り、肩の前方が伸張され、インターナルインピンジメント(投球障害)になり肩の求心位を保てず前方の軟部組織が伸張してルーズになる。スローイングの加速で骨頭が前方に抜けていき、第二関節での前上方のインピンジメントになる。これで前後肩不安定症の完成である。

(4)第4段階(フォロースルー:最後に腕を振る)

 リリースから腕の振り切る所までで体重をしっかり前脚にのせ、体を連鎖で振りぬくことが大切です。この時、軸脚に体重が残り体幹が回りきらず腕だけリリースすると肩の後方構成体に伸張され、負担がかかってくる。

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[page_break:プロ野球選手が投球動作の各期に要する時間や数値を説明!]

プロ野球選手が投球動作の各期に要する時間や数値を説明!

 ここまで基本的な動作を説明したが、今度はプロ野球選手の投球動作にかかる時間を例に出しながら説明をしていきたい。

2.投球分析 プロ野球選手の平均

(1)第1段階(ワインドアップ:足が上がるところ)

 全体での投球時の時間は1.67秒かかり、第1段階では0.53秒(32%)で、移動距離は前方に11%、上方に2%である(前方は身長比の79%、上下は10%)。知ってほしいのはピッチングにおいて後方にいくことはないということ。重心はすでにキャッチャー方向に1割移してフォームがスタートしている。上方へ2%移動して位置エネルギーもわずかながら蓄えている。体軸は逆に15度傾いている。

骨盤を回転させる意識で

 胸と腰は、胸は12度閉じて、腰は28度閉じている。回転エネルギーを蓄えている。
軸脚は24度屈曲でまっすぐではない。

(2)第2段階(コッキング:ワインドアップ期〜あげた足を接地するまで)

 所要時間は0.82秒で全体の49%を占めて0.6秒時にテイクバックが傾いている。
体軸はテイクバックで24度逆に、接地では6度逆にほぼまっすぐ左には10度傾いている。

 へその移動は前方へ49%、下方へ25%と最も移動が大きい段階である。下方への移動はほぼこの段階で終わっている。すなわち第1段階でためられた位置エネルギーは踏み込み脚の振り出しとともに下方へ移動しながら前方へ移動して運動エネルギーへと変換されている。

 このきり返しのポイントがフォームでは大切であり、下方から前方へ重心をスムーズに移動させ、ここで一気に重力加速も使いながらフォームを加速させていく。腕をテイクバックさせて下肢も上肢も下方に移動して一気に下肢、上肢を開くことで運動エネルギーに変換して位置エネルギーを使い切る。

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[page_break:プロ野球選手が投球動作の各期に要する時間や数値について説明 その2!]

プロ野球選手が投球動作の各期に要する時間や数値について説明 その2!

リリースの瞬間

(3)第3段階(アクセレレーション:投球肩が最大外旋した状態から、ボールがリリースされるところまで)

 所要時間は全体の0.12秒(7%)である。
へその移動は前方へ9%、下方へ1%、体軸は23度、左へ17度、体の開きはテイクバックでは腰は平行、胸は28度閉じて接地で腰は37度開き、胸は12度開く。リリースで胸は81度開き、胸は118度開く形となっている。

 ここで知ってほしいのは、閉じていないということである。野球の指導でもっと多く聞かれるのが開くなである。しかし腰が閉じているのは脚を上げた時のみ。
テイクバックでは、すでに投球方向に平行になりつつある。胸はテイクバックで閉じているが、接地では開いており、この時、回転運動が始まり上胴の回転への連鎖は始まっているのである。ここを止めては腕が出てこないフォームになってしまう。

 下肢においても腰は開いている。体が開くのは当たり前のことで、接地する前に下胴が回転して力の進む方向を決めないで接地してしまっては慣性が回転方向に働かず、直線運動に働き重心が決まらず回転運動のでない並進運動方向に慣性の働いた、俗にいう突っ込んだフォームになる。

・スタンスは身長の86%
・接地した脚は61度屈曲、リリースでは65度
・腕の角度はテイクバック時で52度挙上、水平外転時22度、肘屈曲時15度、接地時94度、挙上22度、外転したときの肘の角度は100度になることが多い。
・ここで知ってほしいのはテイクバックより奥には肩はひかれていないということだ。リリースは肩挙上110度、肘屈曲20度。

 腕を振るスピードは、肘は53%の時にピーク、手は66%、ボールは65%の時に速度が急に上がり、フォロースルーではリリース直後から、15m/秒低下する。これが俗にいう「ムチ動作」である。力の発生源の肩は同じスピードで終了するというのがポイントである。

・段階は0.12秒と最も加速されている段階である。ここがピッチングのメインなのはデータからも間違いないことである。

(4)第4段階(フォロースルー:最後に腕を振る)

・所要時間は0.19秒(12%)で急速に減速させている。
・中心の移動は前方に10%上方に10%
・腰、胸のひねりは胸は162度開き、腰は98度、開いている。

 リリースで120度、腰は80度だから、フォローの減速は、腰が20度、胸が40度でまわり、あとは腕で行われる。すなわち、肩の後方のストレインや骨頭が減速時前に移動して、インピンジメントになるのは第2段階で体重移動がきちんと行われず、腰と胸の回転量が足りず腕だけでフォローをとった結果、痛めたといえる。なので肩の治療を行う際に大切なポイントは肩そのものの治療だけでなく、その最たる痛める原因のフォームの理由を知り、フォームを治すというのが大前提である。

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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