殖栗正登のバランス野球学

筋肉の作り方とプログラムの実際2010年05月07日


第9回~第10回でトレーニング実践編をお届けしましたが、少し解説を加えようと思います。

まず、筋力テストをする必要性があります。ビック3と言われる①ベンチプレス②スクワット③デッドリフトです。ピッチャーならランジクリーンも測ってもよいと思います。第12回で示した通り、筋力と筋の周径囲はピッチングパフォーマンスと強い相関性がありました。 筋力の大小を決めるのは筋断面積です。周径囲と横断面積はそれぞれの直径の1重と2重に比例するので、トレーニングにより周径囲が10%増すことで、筋断面積と筋力が20%増大します。

アメリカメジャーリーガーのホームラン王マークマグワイヤは現役時上腕囲が51cmでした。日本人は36cm位だとすると、40%も違います。筋力は2倍近く違うのです。彼が筋肉増加剤を打っていたのもわかる気がします。

また、筋のパワーも上がります。筋のパワーは「仕事率」1秒あたり筋が作り出す力学的エネルギーの大きさです。ピッチングにおいて第13回でお話したように運動エネルギーの大きさが大変重要になります。簡単に言えば、パワーは力×速度や力×距離÷時間で表すことができるので、体重が同じであれば、より大きいパワー、また、運動エネルギーを生産できる人の方がより速くボールを投げることができるのです。

このページのトップへ


特異性の原則

トレーニング効果において、特異性の原則があり、例えばスクワットのトレーニングを8週行った後、スクワットとレッグプレスを測定すると、スクワットは70%筋力が上がり、プレスは半分でした。このように、そのトレーニングをした種目に効果がでるのです。また、特異性を考えれば、単関節のトレーニングより複関節のトレーニングの方がピッチングには適しています。単関節は障害予防という点で大切になってきます。トレーニングメニューでも肩、肘、手首の単関節のメニューは入れてあります。トレーニング効果は①筋断面積の促進②神経系の抑制と言えます。人は普段70~80%位の力しか最大でも使っていません。(筋が発揮する力は、時間に対して筋全体の運動単位=一個の運動神経とこれが支配する筋繊維の集団が何%活動するかで決まります。)トレーニングのスタートではまずこれがこのようなリミッターがとれていきます。筋力の20~30%の上乗せが神経系の抑制ででてきます。筋トレをして始めの1ヶ月は神経系の反応が起こり、その後2ヶ月位からは筋肥大が始まります。

そのため、ピッチャーのトレーニングプログラムを立てるときに大切な事は、オフのスタートでまず2~3ヶ月は筋肥大をさせて、その後1~2ヶ月で神経系の発火と筋力を高め、よりパフォーマンスを出しやすい状態でシーズンに入ることです。要はオフのトレーニングは4ヶ月位かかるのです。

このページのトップへ


筋の肥大化のしくみ(トレーニングの役目)

さて、神経系の適応が十分なされたとすれば、あとは筋の横断面積を高めていかなくてはなりませんが、ではどのように筋は肥大していくのでしょうか?

まず、筋肉は「ミオシン」と「アクチン」という筋タンパクに分けられますが、これらは細胞なので遺伝子を持っています。トレーニングをする事により、筋繊維の中に「転写因子」と呼ばれるタンパク質が作られ、筋タンパクの遺伝子のミオシン遺伝子に結合すると①「転写」が始まります。転写とはDNAを鋳型にして「メッセンジャーRNA」に写すことです。次にこのメッセンジャーDNAが核の外にでて「リボソーム」で「メッセンジャーDNA」を読みとり、タンパク質を作り出していきます。これを「翻訳」と呼びます。以上、これらの過程を②「転写後過程」と呼びます。 そして細胞が古くなったり、エネルギー不足になったりすると、プロテアーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素の働きで筋は分解されてしまいます。これを③「分解過程」と呼びます。

すなわち、トレーニングの役目とは、このトレーニングによる刺激によってDNAの①「転写」②「転写後過程」③「分解過程」 を起こすことといえます。これらの要素を高めるトレーニングは「発揮筋力を高め、筋力発揮時間を高める」ことです。それでは筋に刺激を与える方法とはどのようなものでしょうか?

このページのトップへ


①メカニカルストレス(筋や筋繊維の構造に作用する力)

 トレーニングにおいて最大筋力を100%とするとこれを1Rmといいます。 90%(~3Rm)では「神経系の抑制が起き」、85~70%(8Rm~12Rm位)筋の肥大、60~20%で筋持久力が増すとされます。なぜ、85~70%の重さで筋力肥大するのか、それは筋が始めは遅筋から使われ、負荷が大きくなるに従って速筋が使われるからです。そして筋の断面積の大きさは主に速筋です。と言うことは、ピッチャーのトレーニングでピッチングエネルギーを高めるためには横断面積を大きくする必要があり、速筋に刺激の加わるウェートトレーニングなら8~12Rmの量をかけて、強いメカニカルストレスを与えることが大切です。また、バーベルのおろし方も大切です。普通筋力は100%までですが、ゆっくりおろす方法では120%まで負荷がかけられます。

例えば、3ヶ月週2回、8回×3セットのコンセントリックのトレーニングと、110%のエキセントリックで1Rmのトレーニングをした時、筋力の増力が高まったのは110%でした。このように、まず85~70%で8Rm~12Rmの負荷のトレーニングと110~120%の負荷で4秒かけて下げ、5~8回やるか(フォストレップを3回いれます)エキセントリックのトレーニングのメカニカルストレスをかけることをおすすめします。

②筋損傷からの回復

エキセントリックなトレーニングは大きい負荷をかけるストレスと、もう一つ筋繊維が伸縮されるために、損傷がおこります。ひどいものだと肉離れです。損傷が生じると白血球が逆走してきてサイトカイン をだします。これが神経に働き、痛みを感じさせます。これがよく2日後にくる筋肉痛です。また、成長因子もだし、これが筋繊維の元となるサテライト細胞を刺激して筋繊維が作られるのです。よく筋を壊して再生するというのは、このようなエキセントリックトレーニングの事をいうのです。

もう一つは、バリスティックトレーニングです。(バリスティックとは筋力の働きが一気に高まるトレーニングのことで、ウェートトレーニングのようにジワジワと働かせるものとは違います。)ひとつはクイックリフトです。これは、最初に一気に加速させるトレーニングでクリーンなどがそうです。負荷が軽くとも、筋力は質量×加速度分でますのでいかにより重い物を一気に加速させるかがポイントです。ややテクニックを要します。

次にプライオメトリクスです。プライオメトリクスは一気に加速する意味ではバリスティックトレーニングですが 、動作の切り替えで筋が伸ばされその反動を使ってコンセントリックで切り替えしたパワーを出すことができるので、より高いパフォーマンスが出せます。30%は筋力が上がります。

ピッチングにおいても動作の切り替えをしてこの伸縮反射を利用します。ドロップから落下すればハムストリングスが伸ばされ、次に一気に軸足をける時に収縮します。この時に使われた利き手の最大外旋位でも慣性で腕が後ろに持っていかれながら、グローブ周りの肩を支点に体幹も回ります。利き手は後ろに残される形になるので、ここで伸張反射がでて、また腕を自家筋力以上に加速してくれます。トレーニングメニューをみても、ベーシックのベンチプレス以上に、BOX胸張りプッシュアップ(下図参照) ではこのプライオメトリクスの原理を入れたトレーニングを入れていきます。

③ホルモン、代謝

3つ目はホルモンと代謝です。ウェートトレーニングを行うと乳酸が発生します。これを解糖系と呼びます。筋は収縮するために、ATPを分解します。このATPが筋肉中に欠乏すると筋の収縮が出来なくなります。そしてこのATPをつくるためにはグリコーゲンを分解していきます。この時のエネルギーでATPを作っていくのですが、酸素があればグリコーゲン→ピルビン酸→TCA回路と続いて、多くのATPをつくるのですが、短時間で大きな力を発揮するパフォーマンスでは酸素の供給が間に合わず、無酸素でTCA回路までいかずに終わってしまいます。そうするとピルビン酸が筋肉中に増えすぎるために乳酸デヒドロゲナーゼという酵素により乳酸をつくります。この過程でATPを作るのを解糖系と呼びます。特にこの現象は速筋で起きます。そしてこの乳酸が筋肉中にたまると代謝物受容体が感知して間脳の視床下部に伝わり、フィードバックで脳下垂体から成長ホルモンや男性ホルモンがでて、これらはコレストロールでできているステロイドホルモンなので、リン脂質の細胞膜を通過して細胞質内にある核の受容体と直接結合して、DNAに結合して、タンパク質の転写を活性化して筋を作ります。

トレーニングの効果としてテストステロン(男性ホルモン)は、その受容体の数を増やしたり、すでにある受容体がホルモンと結合し筋を作ったりします。成長ホルモンは肝臓に働き、IGF-Iという成長因子を出します。これと逆にGDF-8は筋を萎縮(いしゅく)させ、筋力低下時に多く出ています。バランスが大切です。このように多くのホルモンを出すためのトレーニングは「高強度で、なおかつ、短い休息」がポイントになってきます。

④活性酸素(無酸素トレーニング)

最後に4つ目は無酸素トレーニングです。私はアメリカのスロートレーニングの資格を持っていますがスロートレーニンとは一体どのようなものか、ご紹介いたします。文字通り、スロートレーニングとは最大筋力の30~50%の負荷でゆっくりやるトレーニングのことです。さて、動作をゆっくりやってロックを掛けなければ何が起こるのでしょうか?筋トレをしていると無酸素状態になり、乳酸やアデノシンなどがたまっていきます。無酸素状態で虚血が起こった血管に、今後は拡張が起きて一気に過流して高酸素状態になります。また、先程の物質により、浸透圧が高まり、水ぶくれ状態になり、パンプアップしてパンパンになります。これがまた血管を圧して血流を減らしますが拡張過流により一気に酸素が増えると活性酸素が増えていきます。

ATPの分解した物質アデノシンはヒポキサンチンを産み出し、これがキサンチンオキシダーゼをつくり、酸素から活性酸素を作ってしまうのです。この活性酸素に体内に色々プラスやマイナスへと働きますが、筋には微小損傷をもたらす他にサテライト細胞を刺激して筋繊維を増やし、血管の平滑筋を刺激して血管の新生を促します。

さて、今までに長々と筋の増殖についてお話してきましたが、これを知らなければ、トレーニングのメニューは作れません。我々ストレングストレーナーの役割の一番はきちんと段階的にトレーニングメニューを処方していくことにあると私は考えています。

このページのトップへ


オフシーズンのトレーニングプログラム作成(高校野球に向けて)

トレーニングプログラムの作成です。高校野球でいうならば、いかにオフの間に筋を作っていくかが大切になってきます。そしてインに入るに従い、筋力や瞬間的発揮のリズムと大きさを出していくことが大切であり、また、プラスアルファで伸張反射をいれたメニューでより筋力発揮のシステムを高めていくのです。 大きい範囲でみれば、高校一年は体が出来ていない段階なので、関節に負担の少ないスロートレーニングがおすすめです。高校二年にかけて負荷をかけていき、高校一年~高校二年のオフでまず筋を肥大させ維持させて、高校二年~高校三年で重い負荷をかけていけば良いと思います。このようにまず大きい年間のサイクルを立てます。

次に月で見ていきます。私の場合、秋季大会が終わった段階でスロートレーニングスタートです。だいたい最大挙上重量の30~50%の間で負荷をかけて 、先に30秒止めて虚血を促し、そこから10~20回をより乳酸と活性酸素を出すように追い込みます。 次はコンパウンドセットシステムのサーキットセット法を使います。これは7~12種類のトレーニングを組み合わせます。当院でトレーニングを行った選手ならわかると思いますが、1時間半~2時間はかかるトレーニングでかなりハードです。私の一番弟子であり弟である、現在パーソナルトレーナーをしている剛志が選手と一緒にトレーニングをした時に「ボディバランスにトレーニングに来ている選手は本当に上手くなりたいと思っている。でなければあんなにハードなトレーニングをポジティブにできない」と言っていましたがそれ位オフに追い込みをかけます。

次に、メニューをメカニカルストレスに変えていきます。高負荷筋力トレーニングと損傷型トレーニングです。フォースド・レプス・トレーニングです。オールアウトさせて3回ヘルプでやります。選手が飽きてくるとパーシャルレップ法や、マルチバウンテージを完全パーソナルの時によく使います。

次はメニューバリスティックなものを入れていきます。メディシンボールや手叩きプッシュアップ、クリーンなどです。ここで筋力を高めていきます。

このようにトレーニングは①メカニカル②筋損傷からの回復③ホルモン、代謝④活性酸素の4つを意識してプログラムを立てて、絶えず新たに刺激を与えていく必要があります。ただやみくもにやらせていてはいつか頭打ちがきてしまいます。論語において孔子は次のように語っています。「学んで思わざれば、すなわちくらし。思うて学ばざれば、すなわちあやうし」(本を読み勉強だけしても自ら考えなれれば知識はただ増えるのみで逆に混乱をさせてしまう。でも逆に、考えるばかりで読書も勉強もしなければ、自らの考えのみに陥(おちい)り、物事のとらえ方が判断できなくなる。)

トレーニングプログラムを立てる時も、自らの経験論ばかりではなく、そこに正しい知識を入れること、また、知識ばかりではなく自らも体を動かし体得させて体で感じて選手のトレーニングを自らも知ること。近頃のトレーナーは頭でっかちで体の細い方を見ますが、これでは選手はついてきません。論より証拠なのです。太ったトレーナーにダイエットのクライアントはつかないでしょう。今、私の下には中野杏里と高橋宏明という二人のトレーナーがついていますが、まずは選手と一緒にトレーニングをして、体で選手を感じさせています。僕も一緒に体を動かして、自ら率先して動いています。トレーニングはやっぱいり楽しいなと実感します(笑)。そして、体で期分けを感じさせています 。それは自分の体が大きくなることで知るのです。このトレーニングをすると、ここが筋肉痛になるとか、このプログラムがホルモンのトレーニングでパンプするなぁとか、体で知って体を大きくして、実体験で知っていくのです。

このように指導者側も口ばかりでなく、時に体を張り、そして正しい知識を披露する事により、選手との信頼関係が出来上がっていくのです。 今回は、なぜ筋肉がつくのかと、そのシステムと実際のプログラムの立て方を紹介しました。次回は実践編の写真を解説したいと思います。