聖光学院高等学校(福島) 後編
第9回 聖光学院高等学校(福島)(下)2013年03月05日
“聖光野球の父” 神渡先生の「講話」
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“聖光野球の父”とも言える神渡先生の「講話」は、ホテルに戻るとすぐに始まりました。
神渡先生は先だって元ソフトバンクホークスの小久保裕紀氏と対談しましたが、その時のお話から入りました。ソフトバンクホークスの王貞治会長のことも話の中に登場しました。また、伏見工ラグビー部の山口良治総監督との交流から、神渡先生自身が「迷走してしまった」という昨年1年間を「覚悟がなかったからだ」と振り返り、最後には次のようなメッセージを選手たちに送りました。
▲選手と握手を交わす神渡先生
神渡先生は、江戸時代の儒学者・佐藤一斎の『言志耋録』133条の【天下のこと、もと順逆なく、わが心に順逆あり】を用いました。
「天下のこと、もと順逆なく、わが心に順逆あり。どういうことかというと、世の中のことに元々、順境、逆境ということがあるんじゃないんだと。自分の心の中に順境、逆境ということがあるんだと、佐藤一斎は言うんですね。(中略)覚悟ができた時に人間は本当に信頼されるようになります。潔い人間、凛とした人間には、周りの人がさすがだなと思います。この人と一緒に仕事をしたいと思います。(中略)天下のこと、もと順逆なく、わが心に順逆あり。どうかこのことを自分の中に決意して、そして、それに見合っただけの練習を積んでチームの信頼を勝ち得て、チーム全体が一丸となって、今度の甲子園、春のセンバツで結果に結びつくような戦いをしてくださるように心から祈っております。(中略)私は千葉県の佐倉市に住んでおります。聖光学院高校が鴨川に来ていることを知ってビックリしまして、絶対に応援に行くと思い、駆けつけた次第です。どうか、この鴨川での合宿がいい合宿になって、今年のセンバツで新境地を拓いてくれるように心から祈ってやみません」。
拍手喝采。「どうだ何か、聞きたいことはないか?」との斎藤監督の問いに、いの一番に手を挙げたのは今祐也でした。「小久保選手や王監督の話を聞いていて、すごい選手、すごい人間というのが分かりました。そういう選手の共通点や共通の考え方があれば教えてほしいのですが」。次は八百板飛馬が「神渡先生は毎日、何かやっていることはありますか?」、最後は菅野智仁が「神渡先生のそういった考え方にたどり着くまでに、人生の中でインパクトに残っていること、これがあったから今の自分があるということがあったら教えてください」。
▲真剣に聞き入る様子の選手たち
神渡先生は38歳の時に脳梗塞で倒れた時のことから「第二の人生がスタートしたわけですけれども」と話し始め、最後には「絶体絶命の中で気づかされることがあります」と話されました。
チームを代表して主将の伊藤颯が「わざわざ自分たちのために来ていただいて、お話ししていただき、ありがとうございました。自分たちが求めているものや必要としているものが神渡先生の話に含まれていたので、これから自分たちがどう生かすかが大事だと思います」とお礼を述べました。そして、神渡先生は一人ひとりと握手をし、会場を後にすると「目に涙を浮かべている生徒もおりました」と話されました。
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4季連続出場の選抜に向けた決意
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選手たちが決意を新たに迎えた8日は、気温が上がらず寒い1日となりました。空もどんより曇り空。心配する鴨川市教育委員会スポーツ振興課の原一郎課長に横山部長は「野球は下を見てやりますから、空は気にしません。下が(雪で)白くなければいいですから!」。選手たちが元気にアップをしていると時折、青空も覗いてきました。土の上で思いっきり練習できるのも残りわずか。1分1秒が惜しい。「来週もいたいか?」という横山部長の問いかけに「はい!!」と元気に答える選手たち。「じゃあ、お前ら(学校は)欠席!次は東洋大がキャンプをやるから練習に混ざれ」という冗談が飛びました。グラウンドには笑い声が響きました。
雪に悩まされない地域では、自校のグラウンドで実戦練習ができるでしょう。しかし、こうして場所を求めてやらなければならないチームもあります。「(センバツが)4回目だと学校も分かってくれる」と斎藤監督は感謝。選手たちもこの合宿が当たり前でないことを自覚しています。「センバツまでに実戦感覚を付けていけるかということが大事です。ここまでキャンプに来させていただいてプラスにしなければいけません。いろんな人のお陰で来させていただいています。費用もかかっています。絶対に成果を上げないといけないですし、センバツで簡単に負けることはできないと思っています」とは主将の伊藤颯。
▲最終日、晴れ晴れとした表情で練習に取り組む
福島に帰れば、また実戦からは遠ざかりますが、このキャンプで出た課題を自覚して過ごす日々は絶対的にプラスに働くはずです。そして、3月には沖縄で練習、練習試合を行い、いよいよ、本番を迎えます。昨年は3度目の出場で、春初勝利を挙げました。斎藤監督は現チームがスタートした時を思い返し、「センバツなんて考えられなかったよ」と言います。毎年、好投手を擁していますが、現チームは投手力に不安がありました。それが、県大会で石井が独り立ちし、チームは試合を重ねるたびに進化を遂げました。県内公式戦81連勝、夏の甲子園に6年連続で出場、今回のセンバツは4季連続出場です。実績を見ればスイスイと勝ち上がったように思われるでしょうが、チームには当然のように苦しみも怖さもありました。そこから逃げずに力のなさを認めて向き合い、謙虚に歩んだ結果が今回のセンバツです。
「秋は負けを前提として、負けに向かっていたわけだけど、甲子園に行く以上、負けに向かってプレーするわけにはいかないよね。半年が経って、絶対に勝つというところにギアチェンジしないといけないよね」と斎藤監督。
戦う以上、勝利に向かうのです。その準備が、こうして必要になります。このキャンプの意義を理解し、無駄にしなかった成果は、聖地で勇ましく戦う姿となって表れるはずです。
(文・高橋 昌江)
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