Column

聖光学院高等学校(福島) 前編

2013.03.05

みちのく便り~心の高校野球~

第9回 聖光学院高等学校(福島)(上)2013年03月05日

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 センバツに出場する聖光学院が2月4日から7日間、キャンプを行いました。場所は千葉県鴨川市。千葉ロッテマリーンズが秋季キャンプで利用する鴨川市営球場をメインに、移動日の4日から9日まで練習し、10日は日本エアロビクスセンターで汗を流しました。

 冬場、グラウンドを思うように使用できないのは雪国の宿命です。センバツは3月。雪に悩まされない地域に比べれば、やはり、ハンデは否めません。2004年に北海道の駒大苫小牧が甲子園で優勝、翌年は連覇し、2006年には準優勝。この時、「雪上ノック」など環境を言い訳せずに利用する姿が話題となりました。これにより、確かに、雪国で野球に取り組む人々の意識は変わったと思います。ただし、一括りに「雪国」と言っても、地域によって環境は違います。降雪量に雪そのものの質。「雪上ノック」ができるほど固まればいいですが、多くは柔らかな雪で固まりにくく、すぐに溶けてしまう。グラウンドの端は所々白く、あちこちに雪解け水が浮いている。これは言い訳ではなく、現実の話。

 聖光学院ではグラウンドに雪が積もっても準硬式球で打撃練習をしています。しかしながら、守備練習は難しい。基礎基本の反復になります。当然のことながら、それでは試合になりません。

▲聖光学院高等学校 斎藤智也 監督

 斎藤智也監督は言います。
 「守備と実戦の練習がきついよね。バッティングにしろ、守備の基本にしろ、パーツごとの練習はできるし、ピッチャーもブルペンで投げられるし、室内は狭いけど走塁の練習も狭いスペースを利用してできるんだけど、それらを融合させるのが一番、大変なんだよね。例えば、内野なら一、三塁のダブルスチールの対応とか。一死満塁でサードゴロだったら、5・2・3なのか、5・4・3なのか、何パターンもあるわけでしょ。こういうのは向こう(福島)だと難しいよね。こっちに来て、何をしたいかと言えば、パーツ、パーツは戻ってもできるから、とにかく融合措置なんだよね。融合措置の最たるものは試合なんだよね。

融合措置の中で重視したいのは、投内連携中心の内野の判断力の練習なんだよね。ランナーの足の速さがそれぞれ違う中でさ。そうなると、優先順位は紅白戦。そして、内野の連携、投内連携。極端な話、この2つができれば、試合には太刀打ちできるんだよね」

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選抜前の鴨川キャンプレポート

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 4日は福島から移動し、鴨川入りするとノックをしました。久々にスパイクを履いて土の上でのノックです。5日の午前中はトレーナーの指示のもと、コンディショニング作り。正しい走り方、体の構造を考えた動き方などを確認、指導してもらいました。キャッチボールやノックの後、午後からは紅白戦。昨年の秋以来の実戦です。
 攻撃陣は秋の主力メンバー(以下、A1)と控えメンバー(以下、A2)に分けられました。投手陣は、A1に対して、エースの石井成など主力投手が当てられました。

 初めからうまくいくはずがありません。初回、先攻のA2は打者13人の猛攻。A1の守備の乱れもあり、いきなり5点を先制しました。守備から戻ってきたA1に斎藤監督は言いました。「ミスを取り返すことはできるのか!?ミスは取り返せないんだよ」。焦りからか、A1の攻撃はかみ合いません。点差を考えきれていない雑さも見られました。8—1とA2がリードした8回表には、伊藤裕也がレフトにだめ押しの3ラン。これに喜んだのは、横山博英部長でした。
「伊藤裕也は、猪突猛進タイプで、能力は高いんだけど、一生懸命になりすぎて視野が狭くなっていたんだよね。だけど、秋以降から伸びてきて、この打席に入る時に「冬にやってきたことをかけていけ!」って言ったんだよ」

▲聖光学院高等学校 石井成 選手 

 伊藤裕の耳に横山部長の声をしっかりと届いていました。「秋だったら、いっぱい、いっぱいになって聞こえていなかったと思います。今日の試合は「大胆に、その瞬間をやりきるだけ」と決めて入っていました。だから、気持ちに余裕がありました」。一冬、ちゃんと練習してきた自信もありました。

 エースの石井は、秋までの最速に並ぶ132キロをマークしました。「今日は腕を振って投げようと思っていて、しっかり振って投げることができました。まっすぐのスピード、変化球のキレが秋より上がっていると思いました。コースへのコントロールもよかったので、目指していたピッチングができました」と納得の表情。それでも、「カーブがコントロールも曲がりも甘かったです」と反省点も。

 試合は11—3で秋の控えメンバーが勝ちました。主将の伊藤颯は試合後、こう振り返りました。
 「両チームともミスが出たことは想定内です。でも、技術より気持ち。攻めていく姿勢とか、前に向かっていく姿勢、そういった気持ちが大切だと思いました。ストレスやプレッシャーがかかった実戦を意識した練習はしてきましたが、ここに来て出せていません。気持ちの甘さがあったと思います」。
 彼らの成長も、反省も、実戦だからこそ表れたものです。

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「人間学を勉強したい」

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 6日は雨。隣接する室内練習場での練習となりました。
 ボールまわしでは、設定タイムを切ることができず、何度もやり直しをさせられました。1回ごとに内野をダッシュで1周。「秋より、3秒も遅くなってんだよ!」と横山部長。握り変えは?ステップは?確認し、何度やってもタイムは切れず、ダッシュの繰り返し。7回目が終わった時、横山部長は選手たちのちょっとした変化を見逃しませんでした。
 「上手くいかなくて、走らされてくたばって。そういう時に力を発揮できるのが聖光学院なんじゃないの?」
 選手たちの心はみるみるエネルギーを取り戻したように見えました。そして、目標タイムを切り、横山部長は「甲子園で負けて、もう1回やらせてくださいというわけにはいかないんだぞ。一発勝負だぞ」と念を押しました。
 その後、挟殺プレー、ランナー一、三塁の練習が行われました。投手の石井、福士翼佐久間悠次はブルペンに移動して投げ込みました。午後からは打撃練習。室内練習場を区切って、2カ所でフリーバッティング。スペースを使ってティーバッティングなど班に分かれて打ち込みました。

 この日の練習を終えて、捕手の廣瀬和光は「福島では雪が積もっていて、こういった連携をしっかり練習できたのは久しぶりでした。場面によって起こることを確認できました」と充実の表情で話しました。

▲グラウンドでの練習風景

 晴天に恵まれた7日。気温もグングン上がり、選手たちの顔も自然とほころびました。アップ、キャッチボールを終えると、フリーバッティング、ティーバッティングなど3班に分かれて練習。午後からは、このキャンプ2度目の紅白戦が行われました。2日前とは打って変わって、引き締まったゲームです。
 試合中、斎藤監督は主力メンバーに言いました。「一冬、振ってきたのにヒットが出ねぇとか、欲張らなくていいんだ」。
 横山部長は「“間合い”って何だ?」と問い、「間合いとは、間を合わせる。ピッチャーに自分が合せていくということがすごく大事なんだ。波長が合うから打てる。ピッチャーと間を合わせてベストスイングをしてこい!」と送り出しました。
 結局この日は、4番・園部聡が石井からレフトに本塁打を放つなど、3—0で主力メンバーが勝ちました。
 この試合中、聖光学院にとって、とても大切なお客様がいらっしゃいました。作家の神渡良平先生です。千葉県佐倉市在住の神渡先生は、聖光学院が鴨川でキャンプをしていることを聞きつけ、激励にやってきました。紅白戦も熱心にご覧になり、試合後の斎藤監督のミーティングはじっと後ろから聞き入っていました。

 斎藤監督は言います。
 「神渡先生から指導を受けて、神渡先生の考え方をベースにチーム作りをしているからね。野球が上手くなる前に、人間が良くなり、立派に成長しないといけないわけだから。いくら見せかけで上手くなったって、そんなの力なんて大して発揮できねっていうのは前から分かっていたんだよね。背筋が伸びて、襟を立ててグラウンドに立って、凛々しくプレーする、雄々しくプレーする、やっぱりグラウンドに立った時にこう空気がいいっちゅうか、佇まいがいいチームになるっていうのは何なのかっていったら、結局は人なんだよね。野球が上手くなったって佇まいは変わんないんだ。名プレーヤーになったって、凛々しくなったか定かじゃないわけだから。人間が人として成長する、柔和になる、強くなる、凛々しくなるってことが必要だと思った時に人間学を勉強しないといけないなって思って、人間学勉強したいなぁっていう時に、タイムリーに紹介されたのが神渡先生の本。それがきっかけだね。我が意を得たり!目から鱗だよ」

 斎藤監督は仙台大を卒業した1987年に聖光学院へ赴任しました。野球部長としてチームを指導していましたが、結果が出ないチームの監督は次々変わり、当時の学校経営者に不平不満でいっぱいだったと言います。一旦、野球部から離れましたが、1999年、学校から監督就任を命ぜられました。それは決して華々しいものではなく、「3年以内に甲子園に行け」という過酷とも言える条件付きでした。「心技体」の「技」と「体」には限界があると悟った斎藤監督は「心」を伸ばすことが大切だと思い立つのです。それが「人間学を勉強したいなぁ」という部分に結びつくわけですが、あらゆる本を読みあさっている時に知人から紹介されたのが神渡先生の『安岡正篤 人生を拓く』でした。

▶聖光学院高等学校(福島) 後編に続く

(文・高橋 昌江)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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