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私立青山学院高校。
昨夏は東東京大会ベスト16入り。
3年前の夏はベスト8に進出するなど、近年、力を伸ばしているチームの1つだ。

学校は渋谷のど真ん中にある。
力のあるチームといえど、他チームと比べても、練習環境が整っているとは言いがたい。専用グラウンドはなく、学校の校庭が使えるのは週に2回。他の部活動との共用のため全てのスペースは使えない。 週3回は部室が並ぶ前の狭い道での練習。固いコンクリートの上で、バドミントンの羽を打ったり、筋力トレーニングを行う。 週末は他校へ練習試合に行くか、大学が持つ町田にあるグラウンドへ行く。そこでも、大学の準硬式や軟式野球部が使用しているため、時間を分けて共用している。
また、練習時間は短く、平日は19時には完全下校。 テスト期間に入ると、まるまる1週間、部活動は休止となる。 野球部でも、例外はない。

だからこそ、工夫した練習内容が求められる。 量より質。 1人1人の考える力。 挑戦する気持ち。 そこを引き出すのが、この夏で着任10年目を迎える安藤寧則監督の仕事だった。

まずは、入学した当初は「甲子園」の言葉は、夢のまた夢でしかない部員たちの意識をあげることが監督にとっての最大のミッションとなる。 結果を残し始めたチームであっても、「野球がやりたい」「甲子園に行きたい」と思って、青山学院高校野球部に入部してくる部員は少ない。 実は、青山学院の部員の8割は、初等部や中等部から一緒の仲間たち。長くて6年〜9年、同じ時間を過ごしてきている仲なのだ。 高等部で一緒になる仲間たちも、進学校である青山学院の入学試験を突破しなくてはならない。だから、彼らが高校野球をスタートする時点で、“甲子園”を本気で目指しているかといえば、正直YESとは言い難い。

それでも、入部してしばらくすると、彼らの意識は変わってくる。 隣でボールを追いかけている先輩たちの、野球と向き合う真剣な眼差し。 監督以上に、部員同士で怒鳴りあう、気の抜けない練習グラウンド。 ここは遊びの場でも、ただ野球をする場でもないことを知る。 先輩たちの熱い気持ちを目の当たりにした瞬間から、彼らの意識は徐々に変化していく。 もちろん、安藤監督が就任した時からそんなチームだったわけではない。 これは、安藤監督が10年かけて作り上げてきた雰囲気なのだ。

就任1年目のチームといえば、とても野球ができる状態ではなく、毎日が生徒との本気のぶつかり合いだった。中には長髪の生徒もいたし、まずは身だしなみ、野球をする準備など一から伝えていった。しかし、素直に聞く耳を持っていた生徒はおらず、気付けばグラウンドに部員が1人しか来ない時期もあったという。 それでも、安藤監督は生徒への愛情だけは忘れなかった。生徒が好きだという気持ちがあるから、本気で生徒とぶるかることができた。歯向かっていた部員たちも次第に、監督の思いを感じ、心を開いていく。それが、現在の安藤監督と青山学院高校野球部の原点だった。未だに、当時の部員たちからは監督のもとへ連絡がくるという。

ある卒業生の父母がこう言っていた。 「監督さんは、生徒1人1人の出口をみている。そして、その先も見ていてくれてる」と。卒業してからも、大事な教え子。 それは、現在の生徒たちに対しても同じだ。 安藤監督にとって一番寂しい時期とは、 「生徒たちに会えなくなるテスト週間」だという。 また、以前こんな質問をした時には、 安藤監督がグラウンドに行く理由は? 監督は一言こう答えた。 「生徒たちがそこにいるから行くだけ」 彼らを甲子園に行かせたい、試合で勝たせたい。 そんな気持ちは二の次。 監督にとって、生徒たちの存在が原動力となっているのだ。 その気持ちは生徒たちにも十分に伝わっている。

だから年々、部員たちは監督の考えを自ら理解しようとし、徐々にではあるが先読みして動けるほどになった。 青山学院の練習風景をみていると、監督の居場所が分からなくなることがある。 練習中は、上級生がどの選手なのかも分からない。 それだけ、全員が意味のある「声」を出せて、全員が個々に考えて動くことができる。 監督が側にいるから喋らないとか、監督がいないから騒ぐということもない。 監督が隣にいてもいつも通り喋り、いつも通り笑い、思っていることはズバズバと仲間に伝えたりもする。 監督の目を気にしない。自分たちのやるべきことをやる。 そんなチームになった。 とくに、今年の3年生の代がそうだ。 監督曰く、 「今年のチームは手も離せるし、目も離せるチーム」と言えるほど。

もちろん、新チームとなった昨年8月から、そこまで出来るチームになったわけではない。 3年生15人、悩みながらもこの夏まで成長することができたのだ。

これは、そんな3年生と安藤監督のお話しである。

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