Column

沖縄出身初の東京大野球部員 島袋祐奨(東京大)の「文武両道」を続けるための思考法

2020.06.09

 2019年、東京六大学野球に所属する東京大学硬式野球部に沖縄県出身者初の部員が誕生した。それが那覇市出身の島袋祐奨だ。
 小3から野球を始めた島袋は、中学では県大会準優勝を経験し、那覇国際では副主将を務めた。高校卒業後、一浪を経て2019年4月に東京大学の文科二類入学した島袋は、6月に野球部に入部して沖縄県出身初の野球部員となった。

 東京大学への入学はもちろんのこと、勉学と大学野球の両立は決して簡単なことではない。
 今回は、島袋のこれまでの経歴を振り返ってもらいながら、日本最高峰の「文武両道」を続けるための思考にも迫っていく。

東大を目指すきっかけとなった東大野球部の合宿参加

沖縄出身初の東京大野球部員 島袋祐奨(東京大)の「文武両道」を続けるための思考法 | 高校野球ドットコム
高校時代の島袋祐奨(東京大) 写真右

 島袋が東京大を意識し始めたのは、高校1年の3月だった。
 東京大野球部は毎年沖縄で合宿を行うが、その際に那覇国際野球部も一緒に練習する機会があり、島袋も東京大の選手たちと共に汗を流した。その際に目の当たりにした東京大の選手たちの文武両道に励む姿に大きな感銘を受け、島袋は東京大を志すようになった。

 「授業をしっかり聞くのもそうですが、休み時間にも課題や勉強をやっていました。
 睡眠時間も削って勉強したかったくらいでしたが、自分は夜は睡魔に負けてしまっていました。なので、起きている時間はできる限り勉強するようにしていたと思います」

 最後の夏は3回戦で敗れ甲子園への道は断たれたが、文武両道を地で行くような生活を続けた島袋。一時は模試で「C判定」が出るなど、勉学の面でも着実に努力を重ねた。
 現役では惜しくも2次試験で得点が足りず不合格となったものの、その後福岡の予備校に通って、1年後に見事合格を勝ち取った。

 「今振り返れば、現役の時は手を抜くところがあるなど少し自分に甘さもあったと思います。ですが浪人するときに、予備校に通うために100万円以上のお金がかかると両親から聞いて、本当に頑張らないといけないなと感じました」

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島袋祐奨(東京大)

 予備校に通う間に、野球への熱が冷めて入学直後はアイスホッケー部に入部したが、次第に野球への思いが蘇ってくる。
 野球部の練習は週6日、毎朝5時に起きてグラウンドに向うなど、部活動の中でもかなりハードだと聞いていた。だが島袋の野球への思いは、完全に高校時代のものを思い出しており、6月に当時の監督であった浜田一志監督の下へ相談に行った。

 「アイスホッケーが嫌いという訳ではなくて、上手くなった時の喜びがやっぱり野球の方が大きいなと思いました。
 今はもっと野球がやりたいなという気持ちがあります。大学生は(高校と比べると)あまり勉強はしないのですが、それでももっと授業減らして野球がしたいなと思っています」

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[page_break:日常生活の積み重ねが大事]

日常生活の積み重ねが大事

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講義の内容は基本的にルーズリーフに書いている

 これまでの島袋の野球の練習や勉強に対する姿勢を見ていくと、やはり一般的な学生とは一線を画していると感じさせる。東京大学へ合格した際も、そして勉学と大学野球の両立を続けるために、自分にとって必要なものを取捨選択した上で物事に取りかかっているためだ。

 「予備校では、まず講師の方に教わった年間スケジュールに沿って進めて、後は自分で必要なものを入れながら(スケジュールを)壊していく形で勉強を進めていきました。
 予備校でも、「宿題をやらなくてもついていける授業」と「やらないとついていけない授業」の見極めができるようになってきて、そこからは空いた時間でとにかく数学と英語をやってました。数学と英語は、伸ばせば伸ばすほど圧倒的な実力で合格できると思ったので絞ってやりました」

 また学習管理の面においても、周りの友人が取り入れているものを島袋はあえて無くしたと話す。最近はアプリを使って学習内容や時間を管理する学生も増えているが、それでも島袋は周りと一緒にアプリを使うのではなく、ひたすら予備校の課題や自身のやりたい勉強に集中していたと振り返る。

 「アプリで管理している人もいましたが、周りとの競争意識から一日の勉強時間を競う雰囲気がありました。そうするとあまり実の無い勉強時間も入れてしまっていて、本当に勉強できているのって感じでした。なので自分はアプリは消して、浪人中もタイムマネジメントを行いませんでした」

 また高校野球を通して学ぶことも多くあった。
 中でも副主将として、監督や主将と毎日練習メニューを考えた経験は「自分で考える力」を培うことができたと振り返る。

 「野球部では、監督がメニューを渡してそれをみんながやるというスタンスではなく、監督とキャプテンと副キャプテンが相談して決めたものをみんなで行っていくものでした。なので、予備校の年間スケジュールのように、自分が壊す必要は無かったですね」

沖縄出身初の東京大野球部員 島袋祐奨(東京大)の「文武両道」を続けるための思考法 | 高校野球ドットコム
文武両道を貫く島袋祐奨(東京大)

 勉強と野球を通じて、大きな生きる力を学んだ島袋。現在はその力を大学野球に全力で注ぎ、大きな目標に向かって努力を続けている。
 強豪校にもまれながらも東京六大学リーグの一角を担う東京大野球部において、レギュラーを掴み取って、リーグ戦で勝ち星を重ねていくことが大きな目標であるが、島袋はまずそのために目の前にある目標を一つずつクリアしていきたいと意気込みを語る。

 「思っていたよりずっとレベルが高くて、いざ入部すると自分が『しょぼい』という現実を感じました。ですが、今はその中で何とかやれている感じはあります。
 まずはフレッシュリーグ(1、2年生だけのリーグ戦)でレギュラーを獲って、本戦のリーグ戦でもベンチ入りをしたいなと思います」

 文武両道を貫いてきた琉球の秀才は、大学野球でも精一杯考え抜きながら奮闘している。
 島袋が神宮球場の舞台で活躍を見せる日がとても楽しみだ。

(取材:栗崎 祐太朗

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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