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「花巻と当たるまでは負けられない」超高校級2人が引き寄せた運命の再戦【名勝負列伝その3】

2022.08.17

「花巻と当たるまでは負けられない」超高校級2人が引き寄せた運命の再戦【名勝負列伝その3】 | 高校野球ドットコム
高校時代の今宮健太、菊池雄星

■花巻東7—6明豊

 衝撃が走った。
 2点リードを追いつかれた9回表、1死三塁と一打逆転の場面で、明豊(大分)の背番号6・今宮 健太がマウンドに上がった。その、初球。全身バネのようなフォームから、今宮はいきなり149キロをマークすると、2球目が152キロ、3球目が154キロ! 規格外のスピードで追い込むと、最後はいずれもスライダーで打者2人を三振に取り、ピンチを切り抜けたのだ。投じた8球の直球のうち、7球が150キロ超え。171センチの小さい体、どこにそんなエンジンがあるのか、という衝撃だった。

 2009年夏、花巻東(岩手)との準々決勝。明豊にとっては、菊池 雄星投手(現ブルージェイズ)に0対4と完封されたセンバツのリベンジマッチだった。その試合では、菊池雄から9安打しながら、12三振を奪われての敗戦。今宮は1安打しているが、「悔しさを忘れないよう、打ち取られたVTRばかり見ていた」と、再戦を待ち望んだ。夏の出場が決まると、「花巻と当たるまでは負けられない」(阿部 弘樹主将)が明豊の合言葉となり、お互いに勝ち進んで準々決勝で対戦したわけだ。

 この試合、先発した今宮は3回途中4失点でいったん降板したが、その前、花巻東も先発の菊池雄にアクシデントがあった。2回に1点を先制し、2点目を追加してなおも無死一、二塁。打席の菊池雄は送りバントを成功させたが、ベースカバーに入った明豊の二塁手と激突して転倒。5回裏のマウンドには立ったが、1点を失うと、2死を取ったところで降板となった。むむ、センバツ準Vの黄金左腕が、故障か?

 予兆はあった。勝ったとはいえ、長崎日大との初戦(先発投手は大瀬良大地。いま思えば豪華だ)は、3本塁打を浴びて5失点と”らしくない”ピッチングだった。実は、左肩甲骨の下に痛みがあった。ただ骨や関節に異状は見られず、蓄積する疲労で筋肉が損傷しているという診断。休養こそ最大の治療だが、それでも中4日の横浜隼人(神奈川)戦、中2日の東北(宮城)戦と、菊池雄はいずれも1失点完投。東北戦では最速154キロをマークしたから、回復は順調に見えた。

 それが、明豊戦。野手との交錯も、きっかけだったか。菊池雄は5回2死で降板すると、続く攻撃では佐々木 洋監督の代打起用でスコアボードからも名前が消えた。すると、明豊打線がにわかに目を覚まし、2番手・猿川 拓朗に襲いかかる。6回に2点、そして8回には、今宮の二塁打を皮切りに3本の二塁打などで3点を挙げ、6対4と逆転に成功するのだ。

 このときは背番号5だが、猿川だって、東海大から日立製作所でエース格となる一線級だ。だが、明豊打線も春とは違う。初戦は興南(沖縄)の2年生・島袋 洋奨を今宮の2安打などで攻略し、秋山 拓巳がエースの西条(愛媛)戦では、2本塁打。常葉橘(現常葉大橘=静岡)戦も、庄司隼人を終盤にとらえ、延長でうっちゃっている。土壇場の9回に同点打を放った今宮は、
「人からのアドバイスを、”調味料”にしています」
と、当時からコメント力の高さをのぞかせていた。試合前、大悟法久志監督の指示は「あまり大きいのを狙うな」。このアドバイスに、指2本分、バットを短く持って対応したのが今宮琉のレシピだった。

 余談ながら、プロでは野手となった今宮と庄司は、ともに小柄なこともあり、ライバル意識を持っていた。お互いに投手対打者としても対戦したこの試合では、打席で笑顔も見せながら、直球で真っ向勝負を繰り広げた。試合終了後には、敗れた庄司が今宮に革手袋を託したという。ともあれ明豊打線、のちプロ入りする投手に、ことごとく勝利するのだから、これはホンモノだ。
 だが、「雄星がいない」という危機に結束し、反発力を増す花巻東の全員野球もホンモノである。9回は、川村 悠真からの3連打で同点に追いつく。再登板した今宮には後続を断たれたが、延長10回も川村は、今宮の初球の直球を狙いすまして決勝適時打。この試合まで大会通じてわずか1安打と不調だった主将だが、「雄星から”チャンスはおまえのところにくる”といわれて開き直れた」のが打席で結実した。

 明豊を延長で下した花巻東だが、準決勝は菊池雄が先発を回避して中京大中京(愛知)に完敗。菊池雄は4回2死満塁のピンチで救援マウンドに立ったが、河合 完治への渾身の直球は139キロで、走者一掃の三塁打として左翼線を抜けた。5回には一発を浴び、甲子園最後の登板は打者4人、わずか11球で終わっている。
 「人生最後の試合になってももいい、自分がベストの状態なら日本一になれたのに、情けない気持ちです」。準優勝に終わったセンバツから、頂点だけを見据えてきた菊池雄は涙。声を出しただけで激痛が走る、自分の体がもどかしい。

 そして……この原稿を書くにあたり、当時のスコアブックを見返していたら、余白にこんなメモがあった。
「今後は……もう少し体があれば、ピッチャーでもいいんですが。いずれにしても、この敗戦をどう生かしていくかです」

 今宮のコメントである。そのかたわらには(笑顔)とあった。敗れたものの、春夏連続での菊池雄との対戦が、心底楽しかったのだろう。

(文=楊 順行

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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