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“土下座せぇ”からの2年後、甲子園準優勝した平安 原田監督が考える名門の条件【後編】

2023.03.24

 今や全国を代表する名門である龍谷大平安(京都)は、高校野球の黎明期から強豪として全国で活躍してきた。そんな龍谷大平安も長い低迷があった。そんな低迷を立て直し、安定した実績を残せるまでになったのは原田英彦監督の手腕があるからに違いない。

 後編ではいかにして平安を立て直し、全国制覇するまでの軌跡を描く。

原田監督が考える名門の条件とは?


龍谷大平安・原田英彦監督

 原田監督の2回目の夏といえば95年、入学したばかりの1年生大型左腕・川口 知哉(元オリックス)をエースに据えたときだ。この大胆な決断、成功すればいいが、失敗したら重鎮たちからの相当な風当たりを覚悟しなくてはならない。しかもそこでの1回戦負けだから、ファンの”土下座せぇ”も当然だ。だが1年がたち、2年が過ぎ、3年目になるころには、改善点も解決され、多少は名門校らしくなってくる。部室は整頓され、グラウンドはきれいに整備される。グラブやスパイクはつねに磨かれ、ユニホームの着こなしにも、それらしい格が宿ってきた。

 たとえば、日常からきびきび動くことが、野球にどこまで直結するのか、合理的な説明はできない。どんなに動きがよくても、技術がなければ勝てるわけがないからだ。だが、だらだらと動くチームが、優勝したためしがないのもまた事実。見ているほうに「さすが」と思わせることが、名門、古豪と呼ばれるひとつの条件かもしれない。

 原田監督に1度、名門とは? 古豪とは? ときいたことがある。
「う〜ん……僕も真剣に考えてみたことがあるんです。平安はおかげさまで“名門”“古豪”“強豪”といった冠をつけていただきますが、どっちで呼ばれるのがいいのか(笑い)。結局、結論は出ません。ただかつて、松山商(愛媛)さんと試合をやらせてもらったとき、朝7時半に球場に着くと、もう近所のおじいさんが客席で待っているんですよ。そして僕らが入っていくと、自然に拍手がわいた。試合が終わって一礼すると“甲子園で、会おうな!”。ムチャクチャうれしかったですね。そしてグラウンドがなんというか、すごくいいニオイがするんです。これが伝統や、名門の香りや……そう思いました」

 名門の香り。野球どころの古豪・松山商のグラウンドは、繁華街すぐ近くにあり、通りがかった人たちが気軽に立ち寄れる。そしていったんグラウンドに入ると、バットやスパイク、ヘルメットといった用具が、まるで定規で測ったようにきちんと整頓されているのに驚く。さながら参道が掃き清められた神社のように、空気が清浄なのだ。

97年夏甲子園準優勝から復活の兆し。そして14年センバツ優勝


龍谷大平安・原田英彦監督

 平安が、エース・川口でセンバツ8強、夏は準優勝を飾るのは、川口が3年になった97年だから、京都大会に1回戦負けし、”土下座せぇ”の罵声を浴びてから2年後のことである。これが古豪復活の起点となり、平安は出場回数を積み重ねていった。08年度からは、校名を龍谷大平安に改称。直前のセンバツでは、チーム名はまだ平安のままで、鹿児島工(鹿児島)と引き分け再試合になったとき、「平安のままのユニホームで、1試合でも多くできることが幸せです」と、平安ファンの原田監督は男泣きしたものだ。

 そして、14年センバツ。

 「日本一のグラウンドをつくってもらった以上は、日本一になるぞ」と原田監督は年頭に宣言している。12年、京都市伏見区に[stadium]龍谷大平安ボールパーク[/stadium]が完成。14年センバツに出場した3年生は、1年秋の新チームからこのグラウンドを使っており、センバツの初優勝はその恵まれた練習環境に応えるものとなった。そこまで、龍谷大平安のセンバツ最高成績は、74年などのベスト4。中学時代の原田監督が目を丸くした山根が74年のエースで、それを越えて初優勝を遂げるのだから、原田監督が目を潤ませたわけだ。
 その14年。履正社(大阪)に6対2で勝った決勝のあと、試合終了の礼を終え、挨拶に出向いた三塁側アルプス前では、原田監督が選手たちに胴上げされた。

「私が監督になって21年。教え子たちがいっぱいアルプスに応援に来てくれていました。だから大会前から、選手たちにいっていたんです、”お願いだから、もし優勝したらアルプス前で21回胴上げしてくれ”って」

 トレーニングで鍛えられた分厚い胸板の原田の胴上げは、さすがに21回とはいかず、3回にとどまったのだが。原田監督は、今大会の勝利でセンバツ19勝。20勝目をかけた3回戦の相手は、昨夏を制した仙台育英(宮城)だ。名門対決。相手に不足はない。蛇足ながら……いま龍谷大平安の投手コーチを務めるのは、97年夏、復活を告げる準優勝に導いた川口”投手”である。

(文=楊 順行

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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