両指揮官が称賛。世代屈指右腕へ成長した伊藤樹(仙台育英)がずっとテーマにしてきたこと
伊藤樹(仙台育英)
好投手尽くしの今年のセンバツ。開幕日でひときわ存在感を示したのは仙台育英の伊藤樹だ。
最速147キロの直球に加え、計6種類の変化球を駆使する投手だったが、明徳義塾戦でリリーフ登板した伊藤は直球中心の投球で明徳義塾をノーヒットに封じ込めた。
これには名将・馬淵監督もこのようなコメントを残した。
「困ったときに140キロ中盤の真っすぐを投げられるのは魅力ですね。ボールを前でリリースできていてスピンも利いている。それでマウンドでも慌てない。森木大智(高知)とは違う球質ですが、球速以上の威力がありますね」
名将からも称賛の声が上がる伊藤本人は明徳義塾戦の投球について、「出来過ぎなくらいです。けれども、甲子園の雰囲気に助けてもらったので、気持ちが奮い立って実力以上の投球ができました」と振り返る。
直球中心の攻めを展開できたのは試合前のブルペンからストレートの状態が良かったからだという。
ストレートを強くするということは須江監督が伊藤に入学時からずっと求めていた課題だった。6種類の変化球を操る伊藤に足りないのはストレートの強さのみと。
「ストレートの質や力強さ。さらにはフィジカル、フォームを見直していけば変化球も活きて抑えられるようになります」
しかし挫折もあった。フォームを崩しベンチ外を経験することもあったが、中学3年生の夏の時のフォームを求め、ネットスローなどを重ねながらフォームを固めた。同時にフィジカルトレーニングや柔軟性を高めるなど、ケガをしにくくなおかつ力のあるボールを安定して投げられるようになり、明徳義塾戦ではストレート34球中、30球が140キロ超え。平均球速にすると、142.11キロと、見違えるような剛腕までに進化を遂げた。
そのストレートは相手を徹底して研究して試合に臨む明徳義塾サイドの予想を上回るものがあった。
米崎薫暉主将も「ベンチでもボールを絞る指示は出ていたのですが、狙ったボールを捉えきれなかったので、ヒット1本に抑えられたと思います」と伊藤のストレートの凄さに脱帽の様子。
伊藤は甲子園の雰囲気に後押しされたと語っていたが、本人が積み重ねてきた努力がなければ今回のようなパフォーマンスはない。今後に向けて「今日のような投球を継続できるように、しっかりと振り返って次に望めればと思います」と次戦の好投を誓った。
ここまで指導してきた須江監督も伊藤に関しては、「文句なしのエースですし、最高のピッチングでした」と絶賛の一言。それと同時に伊藤へのリスペクトの想いも口にした。
「スーパー中学生であっても順風満帆にいくことは絶対ないです。挫折のない人はいないので、息詰まることがあるなかで、彼は考え抜いてここまで戻ってきました。今は伸び盛りですし、本当に尊敬しています」
敵将、そして指揮官からも称賛される伊藤。3年間で磨いたストレートを武器に悲願の日本一にエースとして導けるか。2回戦以降の投球も見逃せない。
(文=田中 裕毅)