
プロ入り志望を表明している享栄のエース・上田洸太朗
20日に夏の大会の中止が発表された。享栄は翌21日に部員を集めて、3年生たちを前に大藤敏行監督が話をした。享栄の場合は水曜日、木曜日、金曜日と学年別の出校日としていたのだが、21日は3年生部員たちも特別に集合した。中京大中京を率いて全国制覇を果たしたという実績を引っ提げて大藤監督はライバルの享栄へ異動して3年目。今年のチームで2000年春以来の甲子園復活を目指したいと作り上げたチームだった。それだけに、今回の中止発表は正直残念だったであろう。
ただ、愛知県の場合は県高野連の対応が早く、すぐに代替大会を開催する予定だということが発表され、そこへ向かって準備していこうという姿勢は作れたようだ。
大藤監督は、言葉を選びながらも落ち込む選手たちに声をかけた。
「現在は、こんな状況なので、今まで我々が当たり前にやれていたことがやれなくなってしまったのは残念だと思う。だけど、今の状況に最前線で立ち向かっている人もいる。そんな現場の人たちは、一部では世間の誹謗中傷の声も浴びながらも頑張ってきている。ただ、オマエたちも、本当に一生懸命に野球をやってきたと思う。だから、今は落ち込むだけ落ち込んでもいい。当たり前だろう、それだけの思いを込めてやってきたんだから。そういう思いがなかったら、むしろオレは残念だ。だけど、いつまでも、落ち込んどってはいかん。そこから、這い上がっていけ。自分がやってきたことをいろんな人が支えてくれていたと思うので、その人たちのことも思いながら、立ち直っていってくれ」
そんな話をしていったという。
「理不尽かと思うかもしれんけれども、世の中というのは理不尽なこともいくつもある。ただ、今回は全国の高校球児の3年生4万8000人くらいが、みんな同じ理不尽を味わっているんだ。ただ、オマエたちの口惜しさ、辛さは一緒にやってきたオレが一番わかっている。だけど、ここから立ち直れなかったとしたらそれは自分たちが今までやってきたことを裏切ることになるんだ。だから、落ち込んだ後は立ち直っていこう」
こうして、選手を励ましていきながら指導者としての今の思いも伝えたという。
そして、スタッフたちもいち早く代替大会へ向けての目標設定を切り替えた。折しも、25日から学校は授業を再開し、3年生も26日から新たに活動していくことになる。
対外試合も6月13日から徐々に入れ始めて行っているようだ。6月だけでも、ナイターも含めて可能なところと16試合予定しているという。
チームとしては、代替大会へ向けては3年生だけを中心として活動し、1、2年生は秋以降の大会を目指して活動していくということになった。享栄の場合は指導スタッフも多くいるので、そのあたりの体制は整っている。また、瀬戸市にある専用グラウンドも比較的広く、昨年完成した室内練習場もあるので、ある程度は分散しての練習も十分にできる環境である。
そして、大藤監督は3年生たちには、練習を再開するにあたって、一つだけ条件を出したという。それは、「(甲子園を目指して練習してきた)今までと同じ気持ちでやる」ということだった。つまり、単なる思い出作りや、大会がなくなった可哀想な3年生のための慰めの試合ということではなく、「真剣勝負していくぞ」という気持ち、そこだけは失ってくれるなということだった。
享栄の3年生部員たちは、大学などでも野球を続けていくことを志望している生徒も多くいる。また、エースの上田 洸太朗君のように、「プロ入り志望」を表明している選手もいる。それだけに、今、これからの練習も次のステージへ向けての準備という意味からも大事になっていくであろう。
「野球人というのはね、グラウンド出て、バチーンという音を聞いていくと、気持ちが引き締まっていくもんですよ」
大藤監督も、練習再開の日を心待ちにしていた。
(文・手束 仁)
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