Column

手束記者が選ぶ愛知県のベストゲーム 波乱とロマンに満ちた熱戦

2019.12.29

2019は波乱の愛知

手束記者が選ぶ愛知県のベストゲーム 波乱とロマンに満ちた熱戦 | 高校野球ドットコム
10月20日豊田北戦より

 2019年の愛知県高校野球。春のセンバツは東邦が30年ぶりに優勝を果たして、「春の東邦」として面目躍如したとともに、通算5度目のセンバツ優勝という記録は同じ愛知県のライバル中京大中京を抜いて1位となった。
 さらには、センバツ通算勝利数も56で全国一となった。

 「平成の最初のセンバツと最後のセンバツを東邦が飾った」ということでも話題になった。
 その東邦のセンバツ甲子園での5試合はもちろんベストゲームに推挙したいところであるが、ここではあえて東海地区を含めた県内試合ということでくくってみようと思う。

 愛知県内での試合ということにこだわっていくと、春季県大会も夏の愛知大会も波乱が多く、いわゆる名古屋市内の伝統の私学4強だけには限らない、各校の力が上がって来ていることを示す現象だったとも言えよう。

 事実、この夏の愛知大会ではベスト4の顔ぶれは、名古屋市内地区からは中京大中京と近年躍進著しい至学館の2校。
 さらには東三河地区の豊橋市から愛知桜丘、尾張地区からは小牧市のとなった。

 そして、当初の予想とは裏腹に中京大中京を、愛知桜丘が至学館を下した。いずれも序盤に先制点を奪われたものを中盤で追いつきひっくり返すという戦いだった。
そんな準決勝から、延長にまでもつれた愛知桜丘と至学館の試合をベストゲームに挙げてみた。

[page_break: 接戦の至学館か、粘りの桜丘か]

接戦の至学館か、粘りの桜丘か

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4月21日名古屋市工芸戦より

◎7月28日 第101回全国高校野球愛知大会準決勝 第2試合([stadium]岡崎市民球場[/stadium])

 この夏も“ミラクル至学館”と呼ばれるにふさわしい戦いをし続けてきた至学館
 豊川との準々決勝では、6回まで0対4とリードされていながら雨天中止。再試合では逆に終始リードして5対3で勝利。
 こうしたミラクルぶりも発揮していたこともあり、「大会の流れは至学館に来ているのか」と思わせるものがあった。

 この試合、至学館は初回に四球、盗塁、バントが安打となるとともに悪送球を招いてわずか2人で塁上をかき回した挙句の先制。これも、いかにも至学館らしい得点だった。

 その裏、愛知桜丘も二死二塁から4番堀尾君の二塁打で1点を返して同点に追いつくが、至学館はすぐに2回、連続四球とバントで一死二三塁を作る。9番菊池君の三塁ゴロで、三塁走者はいわゆる“ゴロGO野球”を実践して果敢に本塁を狙うと、これが野選となる。

 さらに、1番の米津君がスクイズを決めて3点目。ここまで、バント安打一本のみで3点を奪うという、いかにも至学館らしい試合運びだった。

 こうなると、試合展開としては至学館ペースで進んでいくのかと思われた。「どことやっても接戦、それが持ち味」と麻王義之監督も言うが、まさに接戦こそが至学館のペースである。

 愛知桜丘は早めに先発の堀尾君を一塁へ回して、マウンドには二塁手の吉見君が上った。これまでもこういう継投もやってきており、吉見君はスッとマウンドにやってきてスイスイと投げていくというリズムの良さ。
 独特のリズムで投げ込んでくるのだが、球種として何がどうだということよりも、なぜか打ちにくい投手という、そんなタイプだ。愛知桜丘杉澤哲監督としても、これで相手の流れを一旦は食い止めることが出来た。

 こうして吉見君が踏ん張っているうちに、愛知桜丘は6回、二死走者なしから4番堀尾君以下、中神君、岡本君と3連打で1点を返して1点差。

 しかし接戦得意の至学館。8回5番西尾君が二塁打しバントで三塁へ進んだところで、麻王監督は切り札といってもいい代走田辺君を送り込む。7番増田君の叩きつけた打球は二塁ゴロとなり三塁走者の田辺君がホームイン。まさに、至学館の本領発揮とも言える得点パターンだった。

 ところが愛知桜丘も粘り強く、右前打で出た堀尾君を置いて、岡本君が二塁打で帰してまたまた1点差とした。
 それでも、9回も二死走者なしと、至学館渡邉都斗君は勝利まであと一人というところになった。

 ところが、ここから愛知桜丘は2番杉浦君、続く近藤君、堀尾君と3連打して土壇場で同点とした。
 愛知桜丘の驚異的な粘りと言ってもいいのだが、堀尾君は2ストライクと追い込まれてからの粘りだった。
 投手としては、3回途中の早めの降板となってしまった堀尾君だったが、4番打者としては4安打2打点で二度の同点打を放っているのは立派だった。

 こうして延長に入って、愛知桜丘の吉見君は相変わらずスイスイと投げていく。

 至学館は10~12回、1四球を選んだのみで封じ込まれた。逆に愛知桜丘は11回に2人目疋田君を引っ張り出して藤野君の安打などでチャンスを作る。
 ここは、至学館の下手投げ熊谷君が何とかこらえたが12回、一死から中神君が二塁打し、失策もあって一死三塁となると、至学館は満塁策で塁を埋める。

 勝負となった一死満塁の場面、愛知桜丘は8番伊藤大貴君が中前へはじき返してサヨナラ勝ちとした。

 愛知桜丘杉澤監督は、「ウチはここからはすべて初めてのこと。やっている選手がいろんなことを感じながらプレーしてくれている」と、感慨一入だった。

 一方、至学館麻王監督は、「今年のチームは(ベスト)8、8、4と安定した成績を残してくれました。力はない中で、主将の牧山が本当によくチームをまとめてくれた」と、悔しさをにじませながらも捕手で主将の牧山稜昌君の頑張りを称えていた。

 フレッシュな印象の準決勝でもあった。お互いに持ち味を十分に発揮し合った試合。これを、2019年の愛知県ベストゲームとした。

(文=手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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