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昭和の時代に北関東で躍進した工業校 前橋工(群馬)、宇都宮工(栃木)

2020.02.09

群馬野球を支えた前橋工

昭和の時代に北関東で躍進した工業校 前橋工(群馬)、宇都宮工(栃木) | 高校野球ドットコム
前橋工ナイン

 日本の高度成長の時代とともに、昭和の高校野球最盛期があり、工業校も元気があった。戦前は軍需関係含め重工業従事者育成を目的として設立されて工業学校。それが、戦後になって高度経済成長の勢いとともに、主に機械科、電気科などが主力となって工業学校は工業高校となっていって、工業技術職を目指す若者から人気となった。

 まさに、日本の産業発展と共に求められていったのが工業校だったといてもいいであろう。それはまた、昭和時代の後半の経済成長とともに、工業高校も元気で勢いがよかった時代でもあった。
 高校野球しでもそれが反映されていて、北関東では前橋工宇都宮工のいう県庁所在地にある両校が先陣を切っていた。

 前橋工は1923(大正12)年に、群馬県の主産業でもある養蚕をベースとして染織科と製糸科から始まっている。やがて土木科なども設置されて今日に至ることとなる。その伝統に根ざして、今の時代になっても、ものづくりということで言えば相撲ロボット、アイディアロボット、マイコンラリーが全国大会出場の実績を持っている。

 そして、野球部は創立翌年に創部され、その実績としては1966(昭和41)年春の初出場を始まりとして、74年夏には下手投げの向田佳元投手を擁してベスト4に進出。昭和も半ばを過ぎた時代になって、全国に台頭してきている。

 その後も、甲子園出場を重ねていき、群馬県では高崎商とともに、昭和時代後期になると群馬県をリードしていっていた桐生に代わって2強を形成しているという存在となった。81年夏は1年生の渡辺久信投手(現西武SD)で出場を果たしたものの、初戦で京都商(現京都学園)にサヨナラ負けした。

 以降、やや甲子園から遠ざかっていたが、平成に入って、95年春にベスト8に進出すると、翌年の96年夏、97年夏と2年連続でベスト4と、甲子園でも上位へ食い込む強豪という位置付けを示す存在となった。この時期が、前橋工の歴史としても最強時代だったともいえようか。

 県立校ではあるが、地元の建設会社がバックボーンとして支えてきたという歴史もあり、このあたりは地場産業としての高校野球という形態も示しているとも言えようか。
 令和になって、復活を期待している群馬県のファンも多いことであろう。

 群馬県の工業校としては、戦後すぐの時代には繊維産業の発展もあって繊維産業でも栄えた桐生市の桐生工が46年から60年までの15年間で春夏合わせて4度出場を果たしている。

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59年夏を彩った宇都宮工

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宇都宮工ナイン

 栃木県では宇都宮工前橋工と同じ年に創立。創部は昭和に入って1931(昭和6)年だが、戦前の栃木県中等野球は群馬県勢に押されていたということもあって、宇都宮商と宇都宮中、栃木中に栃木商がポツリと出場を果たしていたに過ぎない。そして戦後になって、50年夏に宇都宮工が初出場を果たすと神奈川商工若狭を下してベスト4に進出。さらにその後も、翌年春、53年夏、58年春と出場を果たしているが、ここまで甲子園出場を果たせば必ず初戦は突破しているという実績は立派である。

 そして、球史を飾ったのは大井道夫投手と猪瀬成男捕手のバッテリーで、北関東大会全試合完封して出場を果たした59年夏だ。初戦で伝統の広陵に2対1と競り勝つと、高知商には1対0で完封。準決勝も東北に2対1と競り勝って、すべて1点差という僅差を勝利してきての決勝となった。

 そして、決勝は西条と対戦して2対2のまま延長戦にもつれ込む。延長15回表、後攻めの宇都宮工は連続失策に始まって、大井投手もついに力尽きて6点を奪われてさすがにこの失点を取り返せず敗退した。しかし、県勢としても初の決勝進出として大いに評価された。その3年後に、作新学院が春夏連覇を果たすのだが、この宇都宮工の活躍に刺激を受けたということもあったではないだろうか。

 宇都宮工としては、その後も、86年夏、89年春、96年春、02年春に出場し、96年は初戦で近大附と延長11回降雨引き分け再試合となって敗退。96年春に初めて初戦で敗れたことになるが、これも福岡工大城東と延長11回の末だった。初戦で簡単には負けないという伝統は維持し続けている。

 ただ、02年春以降は甲子園への道は厳しくなってきているのも現実だ。
なお、準優勝の大井投手はその後早稲田大へ進み投手の他に内野も外野もこなすユーティリティープレーヤーとなった。その後、自営業として店を営みながら母校のコーチを経て、86年から縁あって新潟県の日本文理の監督に就任。06年春には新潟県勢で初のセンバツ勝利に導いたが、それよりも何よりも09年夏に決勝進出を果たし、9回二死走者なしで4対10から5点を追い上げて1点差とし、あわや大逆転まで中京大中京を追い詰めた、あの指揮官である。

 ところで、栃木県内の工業校としては足利工も56年夏を始めとして、すべて昭和の時代だが、これまで6度の出場実績がある。また、真岡工が06年春に21世紀枠代表校として出場を果たしている。

文=手束 仁

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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