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エースとして挑戦し続けた経験、我慢強さ、感謝の表明が社長業に繋がる 株式会社ケーロッド社長・久礼亮一(聖望学園OB)

2020.05.04

 運送と建築。一見するとかけ離れた業種だが、この2つをメインに事業を展開している会社が埼玉県入間市に構えている。それが株式会社ケーロッドだ。

 取材でケーロッド本社へ足を運ぶと、昨年出来たばかりの新しい建物の周りには多くのトラックが止まっている。運送業社であることを感じさせるが、社内へ入ると従業員専用のカフェスペースがあるなど少しイメージが変わる。

 創業して23年となるケーロッドの経営者である久礼亮一社長は、なぜこういった社内の雰囲気作りをしているのか。また運送業だけではなく、建築業も営む理由。さらに、埼玉の聖望学園で過ごした高校野球3年間について話を聞いた。

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【一覧】人生で大切なことは高校野球から教わった

仲間の大切さを教えてもらった聖望学園での3年間

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 久礼さんが野球を始めたのは小学2年生の時からで、小学6年生から本格的に投手のポジションに就き始めた。そして中学でも投手として、部活動で軟式野球を続けた久礼さんは、高校は聖望学園への進学を決心する。

 聖望学園は現在、埼玉県屈指の強豪校で有名だが、久礼さんはどうして聖望学園への進学を決めたのだろうか。
 「電車での通学でしたが、自宅から近かったですし、プロ集団のチームよりも行きやすかった。これから野球を強くしていくチームでなじみやすかったんです」

 こうして聖望学園の門を叩いた久礼さんだったが、入学するとレベルの高さを痛感することとなる。
 「自分が下手だと思いました。シニア出身の選手たちは上手いですし、ボールも速くて体も大きい。ですので、入学した時は『自分は無理だ。ダメだ』と思ったんです」

 レベルの違いを肌で感じ、少し諦めかけていた久礼さんだったが、現在も監督を務められている岡本幹成氏に声をかけてもらえるようになると、久礼さんの心の中で変化が生じてきた。
 「ちょっとずつ芽が出るようになって声をかけてもらい、試合にも出られるようになって。そうすると『頑張ろうかな』と思えるようになり、自分よりも上手い選手たちを『抜かせるんじゃないかな』と考えられるようになりました」

 気持ちの面で前向きになってきた久礼さん。すると成長速度は上がっていき、1年生の秋からはチームのエースとして試合に挑むこととなる。身体は170センチ台と決して大きくはなかったが、キレやコントロールを駆使して打者を翻弄。チームの勝利のために右腕を振り続けてきた。

 そんな久礼さんにとって忘れられない試合が2年生の春にあった。
 「県大会の準々決勝・東和大昌平戦(現・昌平)で、1対0で勝っていた試合のことです。自分たちの打線が調子悪く、何とか掴んだ1点を守ろうと0点で抑え続けたんですが、途中でツーランを許してしまったんです。『先輩たちに申し訳ない』と思い、涙が止まらなかったんです」

 その後、後続を抑えたものの、久礼さんは泣きながらピッチングを続けた。他にも練習での走り込みの多さなど、高校野球3年間では苦しい出来事が多かった。そうした中でも久礼社長が折れなかったのは、仲間の存在が大きかった。

 「野球が好きという気持ちもありますが、ピンチの場面ならマウンドに集まりますし、練習だけではなくいつでも仲間が隣にいました。助け合って声を出して、顔色だけで気遣てくれる仲間もいてくれたので、辛い練習があっても練習に行くことができたと思います」

[page_break:多くのことを経験して学んだからわかる、ゆとりと自信を持つことの大切さ]

多くのことを経験して学んだからわかる、ゆとりと自信を持つことの大切さ

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聖望学園時代の久礼亮一社長

 その後は東北福祉大で軟式野球を続け、日本一を2度経験。準優勝も1回と華々しい成績を残して大学卒業。卒業後、印刷業界の営業マンとして働いた久礼さんだが、当時は上手くいかないことが続いていた。
 「あまり仕事の出来は良くなくて、毎日やめたかったです。前向きではなかったから、うまくいかなかったと思います」

 後ろ向きな考えで仕事に取り組み続けて2年半が過ぎた25歳の時に会社を辞めて、独立することを決心。
 「元々『会社を作りたい。組織を作りたい』と思っていたのですが、運送業は経験がなくて。何もないところから出来ることは体を使う仕事しかなかったので始めました」

 まずは業界の勉強を始め、併せて顧客獲得のために飛び込み営業もし始めて少しずつ売り上げを積み重ねてきた。だが、まだまだ安心できる状態ではなく、少しでも稼ぐためにアルバイトもしながら経営し1年が過ぎた。なかなか好転しない事態に、「そろそろ潮時か」と思った時に転機が訪れた。

 当時の顧客の方からの新たな仕事の話を引き受けることにした。久礼さんは「このチャンスを逃す訳にはいかない」と感じたと言い、その仕事が縁となり、次第に事業が大きくなってきた。

 事務所の改装、トラックの台数が増えていき、周りの人からも「凄いね」と称賛の声をもらえるようになった。久礼さんの中でも当時について、勘違いをしているところがあったと振り返る。

 売上増加の反面、実際の運営面を見ていくと、数字が悪くなっていることに気づかされた。そこから決算書の作り方など勉強をしていくうちに、経営が悪化していることにはっきりと認識できた。
 「足元を見てしっかりとした地盤を築いて経営をしていかないといけない。ライフスタイルや経営方針など基本に立ち戻るようにしました」

 そこで仕事相手を見直すなどの取り組みをしてきたが、トラックの台数が増えたことで、事故の件数も増えた。
 「お客様が過剰なサービスを求める時代となり、それが従業員の負担になっていました。対応すると次第に働く時間が長くなり、自宅に帰っても寝るだけの生活になってしまっていたんです。それが結果として仕事の質を落としていました」

 事故を減らすべく、久礼さんが取り組んだことはプライベートの時間を充実させることにあった。
 「プライベートも充実していれば、心にゆとりがある状態だと思うんです。そうすれば安全運転を心がけられる余裕も生まれるので、ゆとりを大事にしてほしい」

 また、従業員に自信を持たせるために、建築の技術を伝えてきた。
 「運転業務というのは免許さえあれば誰でもできてしまいます。だから自信をつけるには何かしろの技術を持つドライバーを育てようと思ったんです。そこで普通は大工さんがやる仕事ですが、運転手が荷物を建築現場に運んで、そのまま家を建ててしまうことができれば、お客様にも感動してもらえるのではないか。心から凄いとかありがとうと言ってもらえることが、従業員の自信につながるのでは?と考えました」

 そういった思いがあり、ケーロッドでは運送業と並行して建築業務を取り扱っている。

 仕事とプライベートの双方を充実させることで仕事の質を高めてきた久礼さん。すると、事故の件数も減っていき、建築業も含めて会社も安定し始めた。こうした会社の成長を久礼さんは肌で感じることのできる立場だが、経営者として最も嬉しいことは従業員の成長にあると語る。

[page_break:これからも会社と人の成長に喜びを感じながら]

これからも会社と人の成長に喜びを感じながら

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久礼亮一社長

 「周りの人たちと協調性をもってコミュニケーションを取りながら自分を磨いていくのが仕事だと思っています。私自身、人間味のある心豊かな人を育てることが目標なので、従業員の成長は喜びがあります」

 社内にカフェがあるケーロッドだが、その背景にあったのは従業員同士のコミュニケーションが取れる環境づくりにあった。他にも数多くのイベントが行われるが、こうした取り組みなどを通じて、従業員たちの成長のキッカケを与えその姿を見ていくことで喜びを感じてきた。

 従業員一人ひとりの成長や自信が、安全品質の向上やお客様の満足度へと繋がる。それを間近で感じることができるというのが経営者としての醍醐味であり、今後も事業拡大を続け、更なる社会貢献を行える会社へ成長させていきたいと久礼さんは語る。

 経営者として必要なことは何だろうか。久礼さんの答えは、『我慢』だった。
 「我慢をすればチャンスが来る。そのチャンスを掴むことを高校野球3年間で学びました。当時は甲子園に行くために練習をしてきましたが、練習はとてもきつかったです。しかし監督から『必ずチャンスが来るから、それを掴みなさい』と教わってきました。今の経営でも我慢の連続ですから、そこを耐え抜かないといけない時期がありました。でも高校時代に我慢を学ぶことができたので、チャンスを掴むことができたと思います」

 特に投手をやっていた久礼さんは、どんなにピッチング練習をやっても1時間程度。それ以外はランニングと1人で黙々と走り続ける日々。「苦しくても止まれないと言いますか、我慢をして走りこんだので辛かったですね」と当時の練習を振り返る。

 しかしそれがあったからこそ、ケーロッドを立ち上げた当初に苦しい時期があっても乗り越えていくことができた。これが高校野球3年間の経験が活きていることだった。そしてもう1つ、久礼さんの心を支えたのが恩師・岡本監督の指導にあった。

 「辛い練習の時に『下を向くな』と言われました。普通なら膝に手をついて下を向きがちですが、そこで『上を向け』と教わりました。今の人生でも同じで、つらい時には上を見るように心がけています」

 そして我慢以上に久礼さんが高校野球で学んだことは感謝の気持ちだったとも語る。
 「高校生活は、親や学校に支えてもらいました。試合で勝つことが恩返しになると思いました。それは今の仕事でもお客様や家族がいてのことなので、感謝の気持ちを形にしないといけないと思っています」

 今でこそ経営者という立場になったが、久礼さんは、球児に向けて「勉強もしっかりやってほしい」とメッセージを送る。その背景には久礼さんなりの深い考えがあった。

 「すべての人が一流になれるわけではないので、不器用なら不器用なりに一生懸命努力して挑戦をすることが大事だと思うんです。一流だとあまり失敗しませんが、失敗した方が、実は多くのことを学べると思うんです。だから失敗を恐れずに前向きに挑戦をして、次に活かしていく。この姿勢が大切だと考えています」

 ケーロッドは、今年から彩響ホームと呼ばれる、介護リフォームの事業を始める。まだまだ会社は成長していくが、それに合わせて人も成長をし続けていく。我慢を伴う時期もあるだろうが、久礼さんは喜びや楽しみを感じながら、今後も仲間たちともに仕事を続けていく。

(取材/田中 裕毅

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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