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一度は諦めた野球。母の支えと恩師の激励で掴んだ夏の聖地 近田怜王さん(報徳学園出身)vol.3

2020.09.17

 兵庫が誇る全国区の名門校・報徳学園。「逆転の報徳」の異名で高校野球ファンに親しまれ、広島の若手注目株・小園海斗岸田行倫といった現役選手、引退された選手まで見ていくと金村義明氏や清水直行氏など多くのスター選手を輩出した。その中の1人が福岡ソフトバンク、JR西日本でプレーをされた近田怜王さんだ。

 高校時代は最速145キロを投げ込む本格派左腕として世代を代表する投手として、2008年の夏の甲子園でベスト8進出に大きく貢献。プロからも高い注目を浴びてきた近田さんだが、イップスと向き合った道のりに迫る。

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最速137キロを計測するスーパー中学生だった近田怜王さん(報徳学園出身)の野球人生の始まり vol.1
忘れることはない甲子園での2度の敗戦。近田怜王(報徳学園出身)のプレッシャーとの戦い vol.2

イップスに陥った近田さんを救ったのは恩師・永田監督との野球ノートだった

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近田怜王さん

 2度目の甲子園が終わり、近田さんはイップスになってしまった。5メートル先の相手の胸元めがけて投げてもボールは足元にいく。この原因を近田さんはこのように振り返った。
 「責任感をもってやっていたんですが、それを感じ過ぎてしまったんだと思います。そこはメンタルの弱さだと思います」

 そんな近田さんのために動いたのが、恩師・永田裕治監督だ。
 「練習に復帰して1週間後くらいの8月末に『練習で日々感じていることや、考えていることを教えて欲しい』ということで、野球ノートのやり取りを始めました。どうしてもふさぎ込んでしまうところがあったので、思っていることを毎日にノートに書いて、毎朝職員室の永田監督の机に提出するようになりました」

 普段は口数が少ない永田監督からの提案に驚かされた近田さんだったが、ノートには日々の練習に対する取り組み方やチーム内の自分の立ち位置。さらには自分がチームにどのような影響を与えているのかなど、ノートに書き記していった。

 永田監督はそれに対して赤線を引き、一言コメントを返す。そのやりとりを日々続けたが、当時の近田さんにとっては心の支えになっていた。
 「『チームに自分は必要ない』とか書いたこともありましたが、その時は、『エゴだ』とか『それは違う』とか人間的にどうなのか長いコメントで返してくれました。自分の弱い部分に対して時にやさしく、時に厳しく指導してくださり色んなことを学ばせてもらいました」

 ただ2年生の秋は野手としての出場にとどまり、投手としての登板はなし。投手として試合で投げたのは3年生の春の地区予選だった。
 「冬の時点では、まだ調子の波が激しかったのですが、投げさせてもらったんです。ただその時には『試合は違う』と感じましたし、負けてしまったんです」

 報徳学園は地区予選の準決勝の甲南に2対3でまさかの敗戦。秋は近畿大会まで進んだチームが県大会にすら進めなかった。その試合で投げた近田さんにとっては大きなダメージだった。
 「悔しかったですし、『夏は無理だな』と一度決めつけてしまいました。思わずグラウンドに移動している時に母に『野球やめるわ』と言ってしまいました」

[page_break:思ったように投げられる楽しさを感じた最後の夏]

思ったように投げられる楽しさを感じた最後の夏

一度は諦めた野球。母の支えと恩師の激励で掴んだ夏の聖地 近田怜王さん(報徳学園出身)vol.3 | 高校野球ドットコム
福岡ソフトバンクホークス時代の近田怜王さん

 それでも母親からのこんな言葉をかけられて、近田さんは踏みとどまることが出来た。
 「やめるのは簡単だけど、これまで支えてくれた多くの人に恩返しをせずに辞めるのは違うんじゃないの。しんどいのはわかるけど、もう1回頑張ってみなさい」

 中学の時もそうだったが、近田さんは母親に支えられ、野球に打ち込むことが出来た。近田さん自身も「母には本当に支えてもらっていますね」と語る。だが、残されたのは夏のみ。これまで味わってきた苦い経験を活かして、体調は万全に整えながらイップスと向き合い続けた。

 これといった特別な練習はせず、夏から続けてきた永田監督の野球ノートのやり取りを通じて、少しずつ克服に向けて調子を上げてきていた。そして迎えた夏の大会の初戦は奇しくも春に敗れた甲南。リベンジにはこれ以上ない相手に近田さんは好投。10対0で初戦を突破し、勢いづいた。

 「ほっとして楽しかったです。思い通りにピッチングがある程度出来たことで、ピッチャーとしての楽しさを感じました。『これで大丈夫だ』と感じることができました」

 ここから報徳学園は東兵庫大会を制して夏の甲子園に出場。甲子園では新潟県央工智辯学園鹿児島実と強豪相手に完投。チームのエースとして最後の夏に輝きを放つ近田さん。準々決勝・大阪桐蔭戦には8回途中で7失点と打ち込まれてしまったが、3年間の努力が実を結んだ。

 「最後は体がもちませんでしたが、楽しかったです。そこまでイップスや熱中症とマイナスなことが多かったかもしれませんが、最後は全員で甲子園8強に入れましたし、投手として甲子園に戻れたのは嬉しくて、楽しかったです」

 その後、秋のドラフト会議で福岡ソフトバンクホークスに3位指名を受ける。当時を振り返り、「最後がプロに見合う結果ではなかったので、永田先生からも『厳しいかもしれない』と言われまして。自分も感じていたのでほっとしました」と語る近田さん。

 そんな近田さんが語る、報徳学園の3年間は人としての成長だった。
 「一番は人として成長させてもらった3年間でした。同級生や仲間との絆や過ごした時間、周りの方への恩返しなどプレー以外のことを学ばせてもらいました。それが今の人生に活きているので、人として成長しました」

(取材=田中裕毅

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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