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神宮第二球場の思い出 ~東京五輪に始まり、東京五輪に終わる~【後編】

2020.01.09

 2019年11月3日、帝京日大三の試合を最後に幕を下ろした[stadium]神宮第二球場[/stadium]。東京の高校野球を支え続けた球場が終わりを告げたが、今回はそんな[stadium]神宮第二球場[/stadium]にスポットを当てて、その特徴や東京担当・大島裕史の[stadium]神宮第二球場[/stadium]への思い出、さらには監督たちの言葉を交えながら振り返っていく。

 後編では活躍した名選手や、球場が誕生してからの歴史を触れていく。

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神宮第二球場の思い出 ~東京砂漠のような異空間は掛け持ちができる特別な場所だった~【前編】

神宮第二球場ならではの清宮シフト

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清宮幸太郎も神宮第二でいくつものアーチを描いてきた

 [stadium]神宮第二球場[/stadium]は、東京都の高校野球だけでなく、明治神宮大会の高校の部でも長く使われたため、多くの名選手がこの球場でプレーしている。

 投手で一番印象に残っているのは、横浜高校時代の松坂大輔だ。松坂の投球は、[stadium]横浜スタジアム[/stadium]や[stadium]甲子園[/stadium]、プロに入ってからも様々な球場で観ているが、[stadium]神宮第二球場[/stadium]で観た時の衝撃は忘れられない。観客との距離が近いため、間近で観た松坂の速球は、迫力満点であった。

 小さい球場であるため、本塁打はよく出た。星稜時代の松井秀喜もこの球場でプレーしているが、打者では記憶も新しいところで、早稲田実清宮幸太郎であろう。高校通算111本の本塁打のうち、第1号も[stadium]神宮第二球場[/stadium]で放っている。

 各校とも清宮対策を練っていたが、中でも奇抜であったのが、清宮が3年生の春に対戦した岩倉だった。内野手を全体的に右に寄せたうえに、中堅手を二塁手と遊撃手の間に守らせ、外野手を2人にする清宮シフトを敷いた。

 岩倉の豊田浩之監督は、[stadium]神宮第二球場[/stadium]の場合、外野に上がったら、そのまま本塁打になる。むしろゴロが内野の間を抜けるのを防ぐため、こうしたシフトを敷いたという趣旨の発言をしている。狭い[stadium]神宮第二球場[/stadium]ならではの作戦であった。

 [stadium]神宮第二球場[/stadium]は2部の試合を中心に、東都大学野球でも使われていたため、東都大学野球出身の監督は、こうした[stadium]神宮第二球場[/stadium]の特性に応じた野球をする人が多かった。

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神宮第二最後の日に対戦した前田三夫監督率いる帝京と小倉全由監督率いる日大三

 [stadium]神宮第二球場[/stadium]では数々の名勝負が繰り広げられたが、レベルの高さも加味すれば、2009年の秋季都大会の準決勝の帝京日大三の試合が一番印象に残っている。

 帝京の先発は伊藤拓郎日大三山崎福也と当時の高校球界を代表する投手で、5対4の接戦で帝京が勝った。日大三は準決勝敗退ながら翌年のセンバツに出場し、準優勝。帝京は準々決勝まで勝ち進んだ。

 日大三の小倉全由監督が関東一の監督時代も含め帝京の前田三夫監督に挑む構図は、東京の高校野球を熱くした。[stadium]神宮第二球場[/stadium]最後の試合が、この両監督の対戦になり、記憶に残る好ゲームになったことは、運命的ですらあった。

 名前が浮かんでくるのはどうしても強豪校になるが、注目選手のいないチームの試合でも、感動することは多かった。応援席とグラウンドの選手の距離が近く、必死さの共有が伝わってくるからだ。ベンチの上のスペースは、応援をする立場になった野球部員の晴れ舞台でもあった。

[page_break:東京五輪を契機に建てられ東京五輪を契機に取り壊される]

東京五輪を契機に建てられ東京五輪を契機に取り壊される

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人工芝であったが、一部劣化している部分もあった

 [stadium]神宮第二球場[/stadium]は、相撲場があった所に1961年に建てられた。1964年の東京五輪は、明治神宮外苑に変化をもたらせていた。

 東映フライヤーズ(現北海道日本ハムファイターズ)は、本境地としていた[stadium]駒沢球場[/stadium]が東京五輪の会場整備のため立ち退きを迫られた。そこで[stadium]神宮球場[/stadium]を使用するようになり、1962年にプロ野球のナイターも可能なように、夜間照明設備が設置された。

 第二球場が誕生したのは、そうした時代であった。完成当時、後楽園球場を本拠地としていた国鉄(現東京ヤクルト)スワローズが、第二球場を拡張して本拠地とする話もあった。結局ヤクルトは64年から[stadium]神宮球場[/stadium]を本拠地として、東映は後楽園球場を本拠地とするようになったので、第二球場は学生野球専用の球場になった。

 73年に一塁側にゴルフ練習場が設置され、世にも不思議な球場になった。もっとも高校ラグビーの聖地・花園ラグビー場にもかつてはゴルフ練習場があり、試合に来た外国のチームを驚かせた。

 [stadium]神宮球場[/stadium]は82年から人工芝になっていたが、第二球場も93年から人工芝になり、多少は球場らしくなった。

 かつては何とも思わなかったが、時代の流れとともに愛着が出てきたのが黒い、手書きのスコアボードであった。

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手書きのスコアボードも特徴の1つだった

 昔はどの球場も手書きであったが、70年に後楽園球場が電光掲示式を導入。横浜、西武と、70年代に作られた球場が電光掲示式を導入したことなどで電光掲示式が広がり、神宮球場も80年から電光掲示式になった。

 まさに昭和から平成に移る時代の中で、スコアボードは電光掲示式が主流になっていった。そして、令和に残った数少ない手書きであった第二球場のスコアボードも、役目を終えることになった。

 選手の交代などに迅速に対応するには、電光掲示式がいいに決まっている。それでも、手書きの文字は一種の職人芸であり、何とも言えない味わいがあっただけに、なくなるのは惜しい気がする。

 [stadium]神宮第二球場[/stadium]も近年は、人工芝の劣化が激しく、球場の中も雨漏りをする所があった。さらに2014年からは東都大学野球の2部の試合も行われなくなり、明治神宮大会も、[stadium]神宮球場[/stadium]のみでの開催になったため、第二球場で野球をするのは東京の高校野球だけになっていた。

 そのため、ほとんど補修もされず、いつまで持つのかなと思っていたが、ついに球場として歴史に幕を閉じた。名残惜しさはあるが、ここまでよく持ちこたえたなという思いもある。

 東京五輪後は解体され、ラグビー場を移転する予定になっている。まさに東京五輪に生まれ、東京五輪に役目を終えたわけだ。

 ラグビー場の場所に[stadium]神宮球場[/stadium]を移転するという計画もあるが、[stadium]神宮球場[/stadium]は西欧式のモダンな外観をはじめ、日本の近代スポーツの黎明期の貴重な遺産である。使い勝手の悪さはあるものの、保存するべきだと私は思う。

(文=大島 裕史

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2020年の東京都高校野球を占う

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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