Column

秋季都大会最大のジャイアントキリング 潜在能力高い二松学舎大附を破った明大中野八王子

2019.12.28

明大中野八王子・江口に何かが起きる八王子球場

秋季都大会最大のジャイアントキリング 潜在能力高い二松学舎大附を破った明大中野八王子 | 高校野球ドットコム
粘りの好投を見せた明中八王子・江口陽太

 秋季都大会は、優勝候補が偏ったため、序盤から強豪同士の潰し合いが多く、番狂わせというのは、それほど目立たなかった。それでも、大方の予想を覆すような試合は、いくつかあった。

 その一つが、都立国立岩倉を破った試合だ。部員11人の国立が、岩倉の猛烈な追い上げを退け、序盤のリードを守り切った粘りは見事であった。ただ岩倉は投手陣が整備されておらず、秋に起こり得る波乱であった。

 優勝候補の初戦敗退でという点では、10月15日に行われた、二松学舎大附明大中野八王子に敗れた試合はインパクトがあった。もちろん明大中野八王子も力のあるチームであり、波乱というのは失礼な面もある。それでも二松学舎大附は、この夏こそ初戦で敗退したものの、その前の2年は続けて夏の甲子園大会に出場している。

 この大会では、強豪が集まるブロックを避けることができたため、有力な優勝候補になっていた。実際試合前のノックなどを観ていても、主将で捕手の山田将義を中心に守りもしっかりしており、レベルの高さを感じさせた。

 それでも明大中野八王子、とりわけ主将でエースの江口陽太と[stadium]ダイワハウススタジアム八王子[/stadium]の関係から、何かが起こりそうな予感がなかったわけではない。

 昨年の夏、この球場で行われた5回戦の日大鶴ヶ丘戦に、1年生ながら制球の良さを買われた江口は、先発のマウンドに立った。しかし3安打、4四球で、初回で降板。試合時間4時間で、19-15で日大鶴ヶ丘が勝つという、記録的な乱戦の導火線になった。

 この夏、やはり[stadium]ダイワハウススタジアム八王子[/stadium]で行われた都立田無との1回戦では、6回までに5-2とリードを許した7回表から江口が登板。江口は3回を被安打1の無失点に抑えると、打線も爆発して、9回裏6-5でサヨナラ勝ちをした。

 舞台はまたも[stadium]ダイワハウススタジアム八王子[/stadium]。明大中野八王子にとっては、何かを起こす舞台は整っていた。

[page_break: チームのテーマはジャイアントキリング/気迫が呼び込んだ2度の幸運]

チームのテーマはジャイアントキリング

秋季都大会最大のジャイアントキリング 潜在能力高い二松学舎大附を破った明大中野八王子 | 高校野球ドットコム
二松学舎大附の主将・山田将義

 明大中野八王子は、エースが主将に就任することは、これまでなかった。それでも椙原貴文監督は、「それだけの経験をしていますから」と、江口を主将にした。この春、明大がエースの森下暢仁を主将にして38年ぶりに全日本大学野球選手権で優勝したことも頭の中にあった。

 一方、江口にとっては、主将は初体験であった。「勝手が分からないので、プレーで引っ張るしかないと思っていました」と語る江口は、新チームのテーマとして、「ジャイアントキリング」を掲げていた。二松学舎大附は、まさに申し分のない相手であった。

 試合は第3試合で、開始は午後2時26分。曇り空の八王子は、次第に暗くなり始めていた。

気迫が呼び込んだ2度の幸運

 二松学舎大附の先発、左腕の秋山正雲は、やや荒れ球であったが、球威がある分、明大中野八王子打線は打ちあぐねた。一方、明大中野八王子の江口は、130キロ台後半のストレートに、スライダーなどを効果的に使い、序盤は投手戦であった。中盤は追いつ追われつの展開になり、試合は2-2。

 それでも終盤の7回裏に二松学舎大附が9番・渡辺陽斗の二塁打などで2点を入れると、二松学舎大附の勝ちムードが漂っていた。

 ところが8回表、思わぬことが起きる。明大中野八王子も反撃し、一死満塁のチャンスをつかむ。ここで代打の山岡慎は平凡な右飛。犠飛による1点だけかと思いきや、何と右翼手が落球をし、2人が生還して同点に追いついた。

 この日は午後3時過ぎには暗くなり、4回には点灯していた。[stadium]ダイワハウススタジアム八王子[/stadium]の照明塔はやや低い。ちょうと打球と、ナイターの照明が重なった感じであった。

 9回表の明大中野八王子の決勝点も、二松学舎大附には運がなかった。一死一、三塁で打席には5番の花岡秀太。その初球、一塁走者がスタートを切ると、二松学舎大附の二塁手も二塁方向に向かい、一、二塁間ががら空きになる。そこに花岡の打球が転がり、決勝の右前安打になった。この回、明大中野八王子はさらに2点を追加し、7-4で二松学舎大附を破り、テーマにしていたジャイアントキリングを成し遂げた。

 二松学舎大附にしてみれば、同点に追いつかれた場面も、勝ち越された場面も、運のなさはあった。けれども、江口を中心とした明大中野八王子が気迫の守りで、二松学舎大附に余計な点を与えなかったことが、勝利のドラマを呼び込んだことは確かだ。

 逆に二松学舎大附は力がありながら、どこか迫力に欠けていた。以前、二松学舎大附の市原勝人監督は、「2年続けて甲子園に行くと背番号をもらっただけで、甲子園に行った気になっている子がいる」と語っていた。

 二松学舎大附は部全体のレベルが高く、競争も激しい。けれども本当の勝負は、部内の競争を勝ち抜いた後にある。秋に経験した痛恨の記憶は、チームをたくましく変えるのではないか。

 勝った明大中野八王子は、3回戦で国士舘と対戦。国士舘の好投手・中西健登から9安打、6点を奪ったが、江口も12安打7失点と打ち込まれて敗れ、2度目のジャイアントキリングはならなかった。それでも、優勝校を苦しめる戦いであった。

 かつて明大には、島岡吉郎という名物監督がいた。島岡野球は、「人間力野球」とも呼ばれ、試合中、島岡監督が「何とかせい」と叫ぶと、選手たちは、何とかして勝ってきた。その流れをくむ明大中野八王子にも「人間力野球」の伝統は息づいている。

(文=大島 裕史

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明大中野八王子vs.二松学舎大附 試合レポート
【秋季都大会トッププレーヤー】調布シニア出身の中西健登(国士舘)と森畑侑大(創価)
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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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