目次

[1]ボランティア活動を通して部員が感じたこと
[2]災害に負けない。環境に負けない。自分に負けない。

 昨年10月12日から翌日未明にかけて東日本に上陸した台風19号は、関東甲信地方や東北地方を中心に、記録的な大雨をもたらした。この台風の影響によって、各地の河川が氾濫。
 長野県内も大きな被害を受け、一級河川・千曲川の氾濫によって、堤防の決壊や、新幹線の水没の様子などが報じられた。千曲川の上流に位置する佐久市でも、家屋の倒壊や床上浸水、断水や停電などの被害も大きく、台風が直撃した日の夜は多くの住民たちが避難生活を送った。

ボランティア活動を通して部員が感じたこと


 高校野球の現場でも、野球場の外野部分が浸水し、すぐに練習ができる状態ではなかった高校もあった。
 グラウンドに大きな被害がなかった野球部も、地域の復旧作業を最優先に考え、練習はせず、ボランティア活動に出向いた。

 市内の中心部にある岩村田高校野球部も、台風が日本列島から去った翌日、スコップと一輪車をバスに乗せ、ボランティアセンターに向かった。
 被災現場に到着すると、そこには、これまで見たこともない悲惨な景色が広がっていた。

 キャプテン・内藤士が振り返る。
「泥で埋まってしまった家を見て、言葉が出ませんでした。災害を今まで身近に感じたことがなくて、でも、自分の家からもすぐの場所なのに、道路も崩れて、家にも泥が入って家具も埋まってしまっているのを目の当たりにして。自分たちにできることがあれば、力になりたいと思いました」

 泥で汚れてしまった家財道具を外に運び出す作業をしていく中で、岩村田高校野球部の花岡淳一監督は、真っ黒になった野球帽を見つけた。つばの上には、「岩村田」と赤文字で書かれた文字がみえた。さらに、夏の選手権長野大会の参加記念盾も出てきた。泥をふき取りながら、そこに書かれていた部員の名前をみていくと、花岡監督の息子の同級生の名前を見つけた。後から分かったことであったが、ここは、岩村田高校野球部OBの方の自宅だったという。

 花岡監督は、当時のことを振り返りながら、時々言葉を詰まらせながらも、こう話してくれた。
「ボランティアに行こうと生徒たちに話した時も、何か人のために出来ることがあればという思いでしたけど、決して明るい気持ちで作業なんてできなかったです。被災されたご家族の皆さんが、とても前向きに作業されていて、そういった様子から、私たちも背中を押される気持ちで作業をさせていただきました。
 普段、野球部では挨拶をしようだとか、近所のごみ拾いをしようとか、そういったものは、やれば自分で納得したり、達成感はあるのかもしれないけど、ボランティア活動というのは、見返りなんて求めていなくて、達成感も決してあってはならないものだと思っています。部員たちも、それぞれに感じるものがあったと思います」

 花岡監督の自宅周辺も、子どもたちが通学路として利用していた千曲川にかかる橋が、大雨の影響により崩落するなど、今回の台風での被害を間近で感じてきた。

 

「改めて、好きなことができることは幸せなことだと思いました。まだまだ、台風による被害も残り、幸せは感じることはできませんが、普通の生活が送れることはとてもすごいことなんだと感じました」

  

 部員たちもまた、同じ気持ちを抱いていた。
 台風が来た日、自宅近くの川の水が堤防を越えて、近くの小学校に避難したという2年生部員の田村洸織。
「僕は、避難しただけで無事だったのですが、翌日、学校に集まることができない仲間がいたり、野球道具も使えない状況になってしまったり、グラウンドも被害を受けてすぐに練習ができなかったり、そんなところを目の当たりにして、普通に野球ができることは幸せなことだったんだなと感じました」
 この日の野球ノートに、田村は、感じたことや見たことをそのまま書き綴った。

PHOTO GALLERY フォトギャラリー

写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。