Column

「沖縄全体で強くなっていこう」という、指導者たちの強い意志

2019.12.18

 1999年、選抜高等学校野球大会で沖縄尚学高校が初優勝。その後、2008年に沖縄尚学高校が二度目のV。その僅か2年後の2010年、興南高校が史上6校目となる甲子園春夏連覇を達成。「沖縄の高校は強い」と、全国に知らしめた。

 改めて沖縄の高校野球が、どのように強さを増していったのか。県民悲願だった甲子園での優勝。
 一方で2015年以降、甲子園で勝てなくなった理由など。高校の先生たちの意見も載せつつ、沖縄県高校野球史を振り返ってみたいと思う。

これまでの連載
野球後進県だった沖縄はいかにして強豪県に成長したのか?

「沖縄強し」を印象づけた語り継がれるベストゲーム


沖縄で着実に受け継がれる甲子園のDNA

群雄割拠となった沖縄県高校野球

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名将・上原忠監督

 盛根監督、神山監督に続いた奥濱監督の誕生によって、沖縄の高校野球図は「群雄割拠」となっていく。

 中部商業高校で高校野球初監督ながら2002年と04年の夏、決勝で沖縄水産高校を破り[stadium]甲子園[/stadium]に出場させた上原忠監督(現沖縄水産高校監督)は、糸満高校でも九州地区高校野球大会準優勝。さらに2011年と2015年の二度、[stadium]甲子園[/stadium]の地を踏んだ。

 2006年に初めて離島八重山から、春夏[stadium]甲子園[/stadium]出場を果たした伊志嶺吉盛監督。学童軟式野球大会の頂点である全日本学童軟式野球大会マクドナルドトーナメントで、八島マリンズを2001年に日本一に導き、「高校生だけでなく、沖縄県の学童っ子でも全国で勝てる!」と意識づけた。

 2008年、悲願の[stadium]甲子園[/stadium]出場を決めたばかりでなく、初の[stadium]甲子園[/stadium]采配にも関わらず、興南高校、沖縄水産高校、浦添商業高校(盛根監督)、沖縄尚学高校、宜野座高校に次ぐ県勢ベスト4進出を果たした神谷嘉宗監督(現美里工業高校監督)は、2013年の九州地区高校野球大会では準優勝し、翌年の選抜高等学校野球大会にも出場した。

 2009年、九州地区高校野球大会で優勝し、翌年選抜高等学校野球大会に出場した眞玉橋元博監督は次のように語る。

 「あの時の九州大会はバッテリーが秀逸で。そうすると野手が何点とれば勝てるなと思っちゃうんですね。そしてラッキーなことに、当時沖縄には左に島袋洋奨がいる。練習試合含め、1点も取ったことはないです。右はというと宮國椋丞(巨人)。サイドハンドに同じ糸満高校の金城がいた。沖縄で全国レベルの左・右・横を見ている。選手たちに基準が出来ていた。だから情報は無いけど、九州大会で点を奪うことが出来た。その優勝だと思う。」

 今年だと興南高校の宮城大弥がそうなる。沖縄尚学高校メンバーにとって、ずっと壁となっていた宮城。だが宮城を打ち崩しての[stadium]甲子園[/stadium]出場が、「あの宮城を見て打ってきたのだから、どんな投手が来ても大丈夫。」と惜しくも敗れたが、[stadium]甲子園[/stadium]で初めて見る投手でも平常心を保ち、習志野高校から4点を奪うことが出来た。

 2012年、浦添商業高校を率いて初[stadium]甲子園[/stadium]でベスト16入りした宮良高雅監督(現支援学校に勤務)と、2016年、嘉手納高校を二度目の[stadium]甲子園[/stadium]へ導いた大蔵宗元監督は、2007年以降の13年間で四天王以外の高校の監督として、聖地を踏んだ。このように多くの県立高校の監督さんが、[stadium]甲子園[/stadium]の土を踏むようになっており、さしずめ群雄割拠となっているのが現在の沖縄県高校野球界だ。

[page_break:二強を形成。興南高校と沖縄尚学高校/沖縄高校野球の強さの秘密]

二強を形成。興南高校と沖縄尚学高校

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興南・我喜屋優監督

 栽監督という巨星が亡くなったのが2007年の5月。その直前に北海道から沖縄県に戻ってきた我喜屋優氏が、母校興南高校の監督に就任。その三ヶ月後、24年間もの間甲子園から遠ざかっていた興南高校を甲子園に出場させた。さらにその3年後、[stadium]甲子園[/stadium]春夏連覇という大偉業を達成。沖縄の星として輝き続けている。

 平成の合言葉であった打倒栽監督が、令和では打倒我喜屋監督に代わる。その一番手はやはり比嘉公也監督だ。

 2008年、東浜巨(ソフトバンク)らを擁し選抜高等学校野球大会で優勝すると、2013年には九州地区高校野球大会を制し、明治神宮大会に出場。決勝で絶望的な8点差を大逆転し、栽監督も我喜屋監督もなし得ていない秋の日本一に立った。その決勝を比嘉監督は次のように振り返った。

 「その前年にも九州地区高校野球大会で優勝しており、そのときのメンバーが多数残っていた、気温はもちろん人工芝を経験していたことが大きかった。そして僕自身が、中京大中京日本文理の試合を見ていた。諦めたらダメだと。

 ピッチャー飯塚くんのまっすぐに差し込まれていたので、変化球は三振してもいいから、まっすぐに的を絞っていこうと6回以降指示した。それで捉えることが出来たのだと思う。」

 指導者が常に前を向く。これも沖縄の強さを引き出している要因だ。

沖縄高校野球の強さの秘密

 大阪だと大阪桐蔭高校と履正社高校。神奈川だと横浜高校と東海大相模高校。愛知だと中京大中京高校と東邦高校だろうか。

 高校野球で二強を形成するところは少なくないが、沖縄も興南高校と沖縄尚学高校の二強と言える。そんな沖縄で、他の県立高の先生たちが時に二強を倒す戦いを見せられるのは何故か。沖縄の高校野球を強くしていった一人である神谷監督の言葉だ。

 「県外の鳥栖リーグとか枕崎リーグというものを県内で出来ないかなと。平成11年に海邦リーグを発足させた。その後、こちら側の運営が厳しくなるほど県外からたくさん来るようになった。当初は沖縄水産が滅法強くて次に沖縄尚学。我々県立高はこの2校に随分と名前負けしてきたけど、県外の強豪校とやることによって、名前負けしなくなった。あの頃から沖縄のチームが、中間のレベルのチームもだいぶ強くなってきたかなと思う。」

 他県から多くのチームを呼ぶことは、全てのチームが自分のチームとだけやるわけではないわけで。ここに、神谷監督の沖縄全体で強くなっていこうという意思が見てとれるのだ。

(文=當山 雅通

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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