Column

「沖縄強し」を印象づけた語り継がれるベストゲーム

2019.12.14

 1999年、選抜高等学校野球大会で沖縄尚学高校が初優勝。その後、2008年に沖縄尚学高校が二度目のV。その僅か2年後の2010年、興南高校が史上6校目となる甲子園春夏連覇を達成。「沖縄の高校は強い」と、全国に知らしめた。

 改めて沖縄の高校野球が、どのように強さを増していったのか。県民悲願だった甲子園での優勝。
 一方で2015年以降、甲子園で勝てなくなった理由など。高校の先生たちの意見も載せつつ、沖縄県高校野球史を振り返ってみたいと思う。

 今回は1990年での出来事を紹介していく。

これまでの連載
野球後進県だった沖縄はいかにして強豪県に成長したのか?

甲子園の魔物が県勢初優勝を押しとどめた

「沖縄強し」を印象づけた語り継がれるベストゲーム | 高校野球ドットコム
沖縄水産 ※写真はイメージ

 当時の西銘知事が甲子園へ駆け付けたほどの熱気に包まれた奈良県天理高校戦で今でもかたりつがれるのが、9回のレフト線への当たりであろう。

 筆者もテレビを通して観ており、あの打球を見ていた周りの人たちと共に「ヨッシャー!同点!」と一喜し、直後に捕球され一憂したのを忘れることは出来ない。そのくらい、県民みんな悔しかった一球だ。

 あの場面。グラウンドにいた者にしか分からない状況を紹介しよう。語ってくれたのは新里紹也氏だ。

 「沖縄水産は沖縄中のトッププレイヤーだけが集まっていた。9番打者でも十分ホームランが狙える。そのくらい質が高い選手たち。打席にはその9番横峯が入った。僕は、ネクストバッターズサークルで全体を見ていた。次の瞬間、向こうの監督さんが、『外野!前進守備!』と指示を出している。僕は内心ヨシッ!と思った。横峯なら、十分外野の頭を越える当たりが打てるからだ。でも、ベンチからの声がかき消されたのか?レフトだけが前進守備をしていなかった。そこへおあつらえ向きの内角が来た。

 横峯が振り切った瞬間、やったと思った。でも普通なら浜風で左に流れる風が、この日は台風の影響で逆に吹いていた。さらに前進していなかったレフト。彼が走った場所に、まるでピンポイントに戻ってくる打球。あれが[stadium]甲子園[/stadium]の魔物と言うのかな。一つでもこちら側の期待に添えていたなら、絶対に長打になっていた。それが全て向こうの思いに叶うように運んだ。これが、あの最後のレフト線アウトの全貌です。」

 悔しい準優勝だったが、初めての準優勝。閉会式で挨拶した当時の日本高野連会長である牧野氏が「沖縄水産の華々しい戦いぶりを、高い空から微笑んでいる方がいらっしゃいます。」と語った。もちろん故佐伯氏のことだ。

[page_break:打倒栽!二人の名将の誕生]

打倒栽!二人の名将の誕生

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浦添商 ※写真はイメージ

 その翌年、沖縄県史上最高の選手として成長した大野倫が率いた沖縄水産高校は、前年の力強さとは変わり全て1点から2点差ゲームの厳しい戦いを制し二年連続で決勝へ進む。しかし、大野倫の肘は限界を越えてボロボロだった。大会打率7割近くの萩原誠をはじめとした大阪桐蔭高校に打たれ13失点。しかし、この二年連続準優勝から「沖縄強し」を印象付けていく。

 一方、県内では「打倒栽監督」を目指す機運が高まり、二人の名将が生まれる。まずは1993年、浦添商業高校を初めて[stadium]甲子園[/stadium]に出場させた盛根一美監督だ。

 第75回全国高等学校野球選手権沖縄大会の準々決勝で沖縄水産高校と対戦した浦添商業高校は、3対0と勝利。準決勝の前原戦を1点差で凌ぐと決勝は那覇商業高校に5対0。嬉しい初優勝を果たした。

 その2年後と3年後、盛根監督は沖縄県高校野球秋季大会の決勝で沖縄水産高校と2年連続決勝で対戦。6対4、5対3と撃破。その翌年。盛根監督の浦添商業高校は、夏の[stadium]甲子園[/stadium]二度目(選抜と合わせると通算3度)となる[stadium]甲子園[/stadium]へ。東東京代表の岩倉高校に完勝すると、興南高校、沖縄水産高校に次ぐ県勢3校目の準決勝へ進出。和歌山の智辯和歌山高校に1点差で敗れたが、見事なベスト4入りを果たした。

 もう一人が那覇商業高校の神山昂監督(現KBC学園未来高校沖縄監督)。神山監督は、豊見城高校と沖縄水産高校の2校で栽監督の下、部長として片腕となった人物。平成元年以降、那覇商業高校の監督になり、同校を強豪校にしていく。ここで語り継がれるベストゲームを紹介しよう。平成2年の沖縄県高校野球秋季大会決勝だ。

 沖縄水産

100 100 000 000 000 01 | 3

100 010 000 000 000 00 | 2

那覇商

(沖)大野−平野

(那)翁長−普天間

 昔だからこその延長17回死闘。沖縄水産大野と那覇商翁長は17回を共に完投。大野が11奪三振、翁長はそれを上回る13奪三振。4時間4分の激闘だった。それから2年後の秋。シード沖縄水産高校が初戦敗退する衝撃の中、那覇商業高校は全く危なげなく勝ち進み優勝。39年振りの頂点に立つと、九州地区高校野球大会でも躍動。福岡大大濠高校、鹿児島商工高校、熊本工業高校を破り準優勝。翌年の選抜高等学校野球大会で、名門横浜高校に勝利した。

 今回はここまで。次回は沖縄水産の逆襲について紹介していきます。

(文=當山 雅通

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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