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沖縄担当・當山雅通が選ぶ、2019年沖縄県高校野球ベストゲーム!

2019.12.24

− プロローグ 怪物宮城 −

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宮城大弥(興南)

 一年生の夏から甲子園に出続ける選手というのは限られてくる。選抜高等学校野球大会優勝投手の東浜巨沖縄尚学−亜細亜大−ソフトバンク)という巨星が相手だったとはいえ、のちに春夏連覇を達成する島袋洋奨興南−中央大−ソフトバンク)でさえ、一年生の夏は準決勝(興南1対3沖縄尚学)で敗退している。

 興南宮城大弥は一年生ながら、何と決勝という大事なゲームで先発起用された。結果は13奪三振の快投。無四球で8回に1失点したのみ。見事、興南高校を2年振りの聖地へと導いた。

 二年生になった宮城大弥は再び興南高校を聖地へ導く。決勝の糸満戦。このときの宮城大弥は、大人のピッチング。奪った三振の数は8個にとどまったが被安打は僅かに2本。96球完封勝利で2年連続甲子園の地を踏んだ。

 三年生になった宮城大弥はまるで、リミッターが外れた怪物のようだった。二回戦は9イニングで被安打3本、9奪三振。三回戦は5イニングで被安打2本、7奪三振。そして準々決勝と準決勝では2試合連続で14奪三振。1イニングを投げた一回戦から準決勝までの5試合、33イニングを投げて46個もの三振を記録。奪三振率は驚異の12.5に上っていた。

 決勝戦。ここで宮城大弥が勝てば3年連続の甲子園。そうなれば1985年〜1987年の上原晃沖縄水産−中日)以来、沖縄県高等学校野球史上、二人目となる快挙が待っていた。

− 惨敗続きの沖縄尚学に光が差した沖縄水産戦 −

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水谷留佳(沖縄尚学)

 もう一つの私学の雄沖縄尚学高校。昨年秋季大会準決勝で敗退すると、春季大会では北山高校に敗れ準々決勝で敗退。正直なところ、この夏の沖縄尚学高校の評判は低く見られていた。興南・宮城のライバルは沖縄水産高校。多くがそう思っていたはずだ。その両者が夏の選手権沖縄大会3回戦でぶつかった。

 1回いきなり1点を失う沖縄尚学高校は、打線も3回までノーヒット。沖縄水産高校・國吉の前に、秋の大会から続けると12イニング連続無安打。しかし4回、3番水谷と5番崔にタイムリーが出て逆転に成功。5回以降再びノーヒットに抑えられていたが9回、またも水谷と崔のタイムリーで決定的な2点を追加。投げては左腕仲村渠が1回の失点のみに抑え完投勝利。このゲームがチームの自信回復となり、優勝への布石となった。

[page_break: − 浮沈艦宮城大弥を捉えた沖縄尚学打線 − ]

− 浮沈艦宮城大弥を捉えた沖縄尚学打線 −

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興南ナイン

 甲子園を懸けた決勝は、興南高校と沖縄尚学高校のプラチナカードとなる。我喜屋優監督と比嘉公也監督になってからの夏の対戦成績は1勝1敗の五分。
 2008年の準決勝では沖縄尚学高校が3対1で興南高校を、2015年の準決勝では興南高校が逆スコアの3対1で沖縄尚学高校を下している。夏の決勝では初めて合間見える両軍の名将対決も、スタジアムの熱気に拍車をかけていた。

 1回表、沖縄尚学高校が宮城大弥を捉える。2番島袋がセンター前にヒットを放つと主砲水谷がレフト線へ先制の二塁打。続く與谷にもタイムリーが出る。5番崔がライト前に運ぶ4連打。二死後、7番高良がレフト線への2点タイムリー三塁打で一挙4点を奪取したのだ。

 同一イニングで4連打を浴び、2本の長打を打たれ4点を失う宮城大弥は、高校野球の3年間で後にも先にもこのイニングのみであった。「これが夏の決勝だろうよ。」ベンチに戻るナインに宮城大弥が声をかける。あの大弥が打たれる、のではなく、これが決勝なのだ。興南ナインは改めて気合を入れ直した。

− 12年振りの決勝戦延長突入 −

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宮城大弥(興南)

 2回、一死から6番知念が内野安打で出塁すると二つの四球で満塁。ここで9番金城英が犠飛。さらに1番根路銘がライトオーバーの二塁打を放ち1点差に詰め寄る。
 さらに興南高校は3回、4番宮城大弥が四球を選ぶと続く遠矢がセンターオーバーの二塁打。宮城大弥が一気に本塁を駆け抜け同点。二死後、7番金城啓がレフト前に運び早々に逆転に成功した。

 2回以降の宮城大弥は、5回と6回にヒット1本ずつを打たれたのみで9回を投げ切る。一方沖縄尚学高校もその6回に1点をもぎ取り必至に食い下がる。規程の9回を終え、両軍同点のまま試合は延長へと突入。
 2007年、我喜屋監督が興南高校の監督へ就任した年。決勝で浦添商業高校と対戦し、延長戦に入った。(このときは11回降雨コールドで再試合)それ以来となる夏12年振りの決勝戦延長は、観るもの全てを魅了していった。

 12回表、沖縄尚学高校は二死三塁から四球を選ぶと途中出場の吉里がセンターオーバーの2点タイムリー二塁打。「1点差ならまだしも2点。」宮城大弥の女房役である遠矢の、偽らざる本音だった。だがその遠矢が宮城大弥を救う。

 その裏、興南高校は2番西里がヒットで出塁。一死二塁となって4番宮城大弥がセンター前タイムリー。そして遠矢が、苦しめられた沖縄尚学二番手の永山からセンターの頭上を襲うタイムリー二塁打を放ち同点に追い付いたのだ。
 しかし、沖縄尚学高校には余力が残っていた。

 右腕比嘉が三番手で登板すると、後続を三振、サードへのファールフライに斬りサヨナラの危機を免れる。一方の宮城大弥は準決勝からの連投に続き、この日の投球が12回を終えて既に200を越えていた。

 13回表、二死から連打を浴びた宮城大弥は、この日の228球目がコースを外れ二者連続となる四球で痛恨の押し出し点を献上。その裏、沖縄尚学高校は比嘉が興南打線を三者凡退に斬りゲームセット。

 私学二強の、球史に残る3時間49分の熱闘をベストゲームと呼ばずして何と呼ぼうか。令和初めての大会となる夏の攻防は、難攻不落の浮沈艦宮城大弥を打ち崩した沖縄尚学高校の、価値ある5年振りの優勝だった。

(文=當山 雅通

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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