指導者と医療関係者の協力は必要不可欠 筑波大・川村卓監督が語るアマチュア野球の現状 vol.3
現場の学生スタッフと協力しあいながら、投手の怪我を防ぐことに努めている筑波大の川村卓監督。故障を減らすには医療関係者との協力は必要不可欠だと強調する。その意味について語っていただいた。
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大学野球に進んだ投手で故障の経験がない投手はほとんどいない 川村卓監督(筑波大)が現状を語る vol.1
筑波大は選手1人1人にあった球数制限を導入して重大な怪我を防ぐ 筑波大・川村卓監督が指導者へメッセージvol.2
指導者は医療関係者と協力しあって選手を守ってほしい
現状を語る筑波大・川村卓監督
一番の問題は試合数の多さが故障のリスクを高めている
川村監督(以下 川村) 現場の方からは球数制限に関しては反対意見もありましたが、医療の立場からは現状をそのままにはしておけないだろうという雰囲気になったのは間違いないです。
高校野球ドットコムでは古島弘三医師の特集を行ったが、川村氏は古島氏とは関係があり、医療関係者の話を効くことで、小学生の時から身体を守る仕組みにしないといけない考えを強めている。
川村 甲子園に出てくるチームはまだしも、地方だと人数が足りないチームもありますよね。そういうところへの配慮も必要ですし、全体として「子どもたちの身体を守る」という方向に行ってほしいです。私は会議の中で、そういうことを成長期である小中のうちからやらないと、大人になって響くんですという話を高校野球が発信源となって、小中の野球にも届くようにやっていますと。そうなることを私は望んでいます。
ただ少年野球は非常に試合が多い。川村監督が一番危惧しているところでもある。
川島 私も色々なところで話をしていますが、試合数の多さは異常だと思います。そこでまんべんなくではなく、大事な試合でエース級の子たちに多く投げさせるんですが、気持ちはわかりますけども、そうするとやはり怪我をする確率が高くなるだろうと思いますね。
とはいえ、川村監督も、現場の指導者が勝利と育成のジレンマに悩まされているのは同じ指導者として強く理解している。
川村 壊そうと思っている指導者なんていませんから。「壊さない」と「鍛えていく」ことの狭間で皆さん悩まれていると思うし、フォームを修正して解決しようとしても時間がかかりますから特効薬にはならない。そうなるとやはり球数や強度、頻度を調整していくことが一番大事だと思います。
その解決法として、投手経験がない野手を投げさせる試みを積極的にする必要があると川村監督は語る。
それがうまくいかないのは日本は投手のステータスが非常に高い国というのが影響している。
川村 日本は投手のステータスが高いので、投手は難しい。どうしてもそういうイメージになりがちですが、海外ではそうした事例はよくあります。なので日本も投手への捉え方を変えていけば、変化することも多いのかなと思いますね。
[page_break:野手も投手の練習を そして選手に自覚がなくても止める観察力を鍛えるのも指導者の役割]野手も投手の練習を そして選手に自覚がなくても止める観察力を鍛えるのも指導者の役割
筑波大・川村卓監督
実際に筑波大では、高校時代、野手だった選手が投手をする事例は何度かあり、大道寺拓(現:NTT西日本)は内野手だった。
川村 打撃投手をやった時に、良い球を投げるな、と。実際に計測したら140キロぐらいの球を投げてたので。これはいけるんじゃないかと。そう思って投手転向を勧めました。
川村監督は野手も、投手の練習をやったほうがよいと勧める。
川村 捕手のスローイング練習には「ピッチング」というトレーニングを入れていて、低く回転のかかるボールを投げるのが苦手な捕手もいますから、やっています。
投手の故障を防ぐためには、強度や球速も見ながら限界を設けることも必要で、普段の投球から、回転数を測る試みをしている。実際に疲労がたまると、回転数が落ちやすい傾向がある。
川村 本人に自覚がない場合もあるので、こちらで調整しながらですね。
本人に自覚があって、休んだり、強度を抑えれば理想だが、選手の自覚がない場合こそ、見抜くのが大変だと語る。だからこそ数値を使ったり、選手の仕草をつぶさに観察して、見抜く観察力を鍛えることが大事だ。
川村 これは本当に難しいです。故障するのは色々なパターンがありますので。
ただ故障するというのは、本来とは違う動きになることがあります。そこをつぶさに観察しながら、疲労によるものなのかは見定めています。難しいですが、そうした観察を行っていけば、故障自体は減ります。
川村監督は指導者の講習会で必ず伝えていることがある。
川村 我々、指導者とスポーツドクターの方やトレーナー、医師の方などの間でネットワークを作ってくださいということです。そうすると指導者から、試合のためにどう調整したらいいかを医師に相談したりできるので、そうすると投げられるように適切なアドバイスをくれますから、その通りにしていくにはしっかりネットワークを作らないと、指導者と医師の間の関係が悪くなり、子ども達を壊すことになります。そうした関係性を作ることは指導者としてやらなければならない事ですよという話はします。
ネットワークを作ることで、具体的な調整が可能になる。
川村 今はメールもありますし、医師の方とやり取りをして選手の状態を把握しつつ、この起用や調整でいいかどうかを必ず相談しています。基本的には我が部では、選手の考えを尊重しますが、足りない・やり過ぎだと思えばアドバイスはします。
選手は自分の身体と相談しながらやるのが一番大事なので、そうして欲しいし、適切に調整できていない事もありますから、そこは話をしながら、どうすればいいか探っていく事はやっています。
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大学野球に進んだ投手で故障の経験がない投手はほとんどいない 川村卓監督(筑波大)が現状を語る vol.1
筑波大は選手1人1人にあった球数制限を導入して重大な怪我を防ぐ 筑波大・川村卓監督が指導者へメッセージvol.2
取材=河嶋 宗一