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大学野球に進んだ投手で故障の経験がない投手はほとんどいない 川村卓監督(筑波大)が現状を語る vol.1

2019.09.06

 球数制限の問題で難しいのは「勝利」と「育成」の両立だ。多くの指導者がこのジレンマに悩んでいる。悩む指導者の一助となればと思い、この方にお話を伺った。筑波大野球部監督で、さらに筑波大の体育系の准教授を務める川村卓氏である。

 川村監督は野球部監督と研究者を兼任する方であり、特に動作解析に長け、その分析力を高く評価する野球関係者も多く、近年は佐々木朗希をはじめたとした有名投手の解説を行い、メディアに登場することも多い。そんな川村監督も投手の怪我を防ぐべく、苦労を重ねる毎日だ。そんな中、川村監督はどんな取り組みをしているのか。また球数制限の見解についても伺った。

小学生、中学生時の怪我は出力が上がる大学生になって悪化しやすい

大学野球に進んだ投手で故障の経験がない投手はほとんどいない 川村卓監督(筑波大)が現状を語る vol.1 | 高校野球ドットコム
川村卓監督

 現在、川村監督は日本高野連主催の有識者会議に参加しているが、球数制限賛成派の立場。結論になかなかたどり着かないことを明かした。

川村監督(以下 川村) この議論がなかなか結論にたどり着かないのは、結局スポーツ科学でも「何球投げたら投手は壊れるのか」「どのくらい投げたら危険なのか」という明確なエビデンスがないから、という事なんですよね。その中で球数制限をやることが有効なのかと考えると、正直よくわかりません。でも、いわゆる「オーバーユース(使いすぎ)」、投げすぎが(議論を呼ぶ)原因になっているところもありますので、その一因を(球数制限で)防ぐことはできるんじゃないかと思います。そういう意味では賛成ですね。

 川村監督は、球数制限では完全に防ぐことはできないが、制限することでオーバーユースになる確率を小さくできると考えているが、さらに、指導者の意識の変化にも期待している。

川村 この球数制限問題は、「指導者の意識が変化していく」というのがすごく大事で、例えば「複数のピッチャーをいかにつくるか」とかですね。そういった今までの発想になかったところができていけば、それをもとにもっと障害を減らしていけるんじゃないかと。そこに期待しています。

[page_break:球速があがった途端、故障する投手が続出した]

球速があがった途端、故障する投手が続出した

大学野球に進んだ投手で故障の経験がない投手はほとんどいない 川村卓監督(筑波大)が現状を語る vol.1 | 高校野球ドットコム
川村卓監督

 筑波大野球部の川村監督によると、野球部に入る投手のほとんどが高校までにケガを経験をしている。

川村 正直言うと、故障せずに大学野球へ来ている子の方が珍しいと言いますか、以前、野球部でトレーナーをやってくれていた学生の研究で、大学に来て初めて選手がひじの怪我をする、というケースは全体の5%ぐらいしかなくて、後の95%は小中で怪我をして大学で悪化する、という感じなんです。なぜかというと小中ではそこまで投手の出力が大きくないのでそこまで問題にならなかったんですが、、

 高校以降は力がついて球速も速くなりますし、負担が大きくなりますよね。そうなると途端に、昔けがで痛めた部分が顕在化するといいますか。そういうことが特に肘では起きやすいんです。

 球速が上がると、故障のリスクは上がりやすい。川村教授は投手のパフォーマンスアップの研究・分析を長年、続けてきて、投手の球速を高めるメソッドを確立した。ただ、球速があがった途端、故障する投手が続出した。

川村 私はパフォーマンスを上げるためのトレーニングや分析をずっとやってきまして、5キロ~10キロ球速を上げるにはどうすればいいかがある程度わかってきて、学生にずっとやらせてきました。すると球速は上がるんですが、投手が「痛い」と言い出すんです。投げられるだけの身体にまだなってなかったんですよね。
 
 そういう事例も過去には指導してて起こりました。そういうのも反省の上で、しっかりと体づくりやケアをしていかないと、球速を上げていくのは難しいと思います。

 今回はここまで。次回は筑波大が所属する球数制限がもたらしたチームへの影響。さらに実際に筑波大で実施されている球数制限の運用方法について迫っていきます。

取材=河嶋 宗一

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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