「球数制限の前に良い投球フォーム」という声に古島医師の見解は? インタビューVol.2
第1回では球数制限をせざるを得ないと主張した古島弘三医師。ただ球数制限を反対する声も多いのは事実だ。第2回では、球数制限を行う真の意味について応えていただいた。
これまでの連載
手術件数年間200件、「球数制限はせざるを得ない状況になっている」古島弘三医師 インタビューVol.1
「大会前の追い込み練習はマイナスでしかない」古島弘三医師 インタビューVol.3
故障ゼロではなく、多数の最大幸福を追い求める
古島弘三医師
―― 球数制限を反対する方の中には良い投球フォームで投げれば、壊れることはないという意見が見られます。特に投手として実績を残した方ほどその意見は多いです。いかがでしょうか。
古島 良いフォームで投げればケガしないとかね。それもありますが、それだけではありません。投球数、疲労、投球強度、骨の強さ、もちろんフォームの善し悪しの影響なども考慮しなければなりません。
したがって、球数が100球などある数で制限したとしても壊れる投手もいるし、逆に制限しなくても壊れない投手はいます。
ただ100球を基準にするのではなくて、数の制限をかけることで、故障するリスクが減るということが大事なのです。
たとえば120球、100球、70球と減らしていくことで、救われる投手が増えてくるのは当然です。でも逆に50球にしてもケガはゼロにはなりません。試合だけ球数制限してもケガがなくなるわけではない。普段から練習試合も含め練習での投球が多くては意味が無いわけですから。
球数制限の意味というのは、もちろん過度な投球数を投げさせないことがケガさせないことに対して一番ですが、もっと深い意味を持っています。それは、指導者の目の向けどころが変わってくれることを期待したいのです。勝利が第一ではなく選手のケガを第一に考えるきっかけになる。野球肘障害をゼロにできないのは仕方ないのですが、それでも球数制限で最大多数の最大幸福(つまりケガを最大に減らすことで多くの選手にチャンスを!)を追い求めていかないといけないと思うんです。
無制限だと6割~7割の選手が痛める可能性がありますよ、100球にしたらそれが5割になりますよ、70球80球にしたらそれが3割になりますよ、といった場合、そういうことでいかにケガ人を減らすかということを考えたら、球数制限は少ないに越したことはない。
その中から、ケガすることなく生き残った人たちで争うわけですから、競争のレベルも高くなるわけです。『消えた天才』みたいなああいう良い選手が潰れるというものが無くなって、もっと凄い選手たちの中で争いが起こって、さらにプロのレベルも上がるかもしれない。メジャーに行ける選手も増えるかもしれない。もっと面白くなると思います。
その下の世代でどんどん良い選手を潰してるわけだから、現在の野球界はふるいの穴が大きすぎるんです。
――そう考えると、球数制限の優位性が理解できます。ただ実際の現場ではまだ追い込まれると勝つ事が最優先されている気がします。
古島 例えば、甲子園があんなにメディアで取り上げられるので、勝てばその高校の監督も有名になって、その学校自体の知名度も上がる。お金も相当動いてしまう背景もある状況がありますよね。
そして、強豪校にばかり良い選手が集まってしまいます。でも強豪校に入学できてもベンチにも入れず、3年間試合にも出られないなんていう子も出てきちゃう。そういう子の心情はどう考えてるんだろうとも思います。
――中学時代はすごく良かったのに、全然投げられなくて、最後の輝き場所が引退試合だった、みたいなのは凄く悲しいですよね。
古島 そうです。そういう部分もクローズアップしないといけないと思うんです。活躍した選手だけを見て、こういう育て方をすればいいんだと思ってみんなやるから、みんなケガしちゃう。
――確かにほんと、みんなそうですよね。生き残った人を尊敬する傾向がある。
古島 押しつけてやる練習はどうしてもケガしますよね。自分で考えて自分で練習していればケガしないです。ある程度のところまでやって(これ以上やったらケガするな)と思ったら自分でやめるから。だけど「これをやれ」と言われたら耐えなきゃいけない。我慢してやって、その結果、ケガをするんです。
Vol.3では依然として残る過度の投げ込みのリスクについて明確に回答していただいた。
取材=河嶋 宗一
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