記録にも記憶にも残る奥川恭伸のピッチング。奥川は伝説の投手になった
奥川の異次元の投球を裏付ける数字の数々
奥川恭伸(星稜) 写真=共同通信社
2019年8月17日、奥川恭伸(星稜)が智辯和歌山打線相手に見せた投球は、長く高校野球史で語られることになるだろう。
それだけ奥川の投球は記録にも、記憶にも残るものだった。
まず記録面。延長14回を投げて、23奪三振、1失点(自責点0)、3四死球(1四球)、被安打3。しかも四球1は延長11回に出したものだった。投手の制球力を示す指標の1つであるK/BBは23.00、14回を投げて165球と、1イニングあたり11.78球。
大会通してみると、25.1回を投げ、35奪三振、自責点0、四死球5(四球3)、奪三振率12.54、K/BBは11.66と恐ろしいほどの数値である。そして3試合25.1回で投げた球数は298球。1イニング換算すると、11.87球。これほど三振を奪って、約12球以内に収めてしまうのは、それだけ奥川の高い制球力、空振りをせざるを得ない奥川のストレート、変化球の威力が際立っている証拠だろう。
そんな智辯和歌山打線はどう奥川対策を行ったのか。
「ボール球は見逃し、甘く入ったボールは確実に打ち返し、ストレートをしっかりと打ち返すこと」と語るのは9番綾原創太。しかしその智辯和歌山打線の思惑通りにはいかなかった。いや智辯和歌山打線だからこそ、このような投球が成り立ったのかもしれない。奥川は言う。
「智辯和歌山打線は本当に怖い打線でした。黒川君、ホームランを打っている2番細川君だけではなく、下位打線もしぶといですし、自分が持っているすべての球種で勝負をしないといけないと抑えられない打線でした」
そのため4回表、黒川史陽には142キロのフォークを投げ三振に奪った。あえてこの試合まで隠したかのように見えるが、「精度に自信がなかったんです。それでも投げる必要がありました。あのフォークで打ち取ることでフォークがあるぞと思わせることができるからです」
そして智辯和歌山で最も頼れる黒川から三振を奪ったことは大きなダメージを与えることになる。それ以降、智辯和歌山打線は沈黙した。
冷静かつクレバーだからこそ奥川は凄い
奥川恭伸(星稜)
大会前までなかなか調子が上がらずに悩んでいた奥川だったが、この日は奥川自身も「ストレートは指がかかっていて、この3試合の中で最もよかったです」と語るように、3回表には最速154キロをマークして三者連続三振を奪ったあたりから最もリズムに乗れた。投球フォームを見ても、軸足にしっかりと体重が乗り、奥川が意識している「左足の付け根」に乗せる投球フォームができていた。理想的な内容だったのではないだろうか。
またストレートを速く見せるために山瀬慎之助はあえて120キロ後半のスライダーを多めにして緩いボールに目を慣れさせて、終盤に150キロ台のストレートを速く見える投球を心掛けた。この日はいつもより三振を狙ったと語るように、力を入れた場面が多かった。奪三振を記録した球種の内訳は以下の通り。
ストレート 12球
フォーク 2球
スライダー 9球
いずれもコーナーギリギリにコントロールされ、お手上げのボールであった。奥川自身、最初こそ低め低めを意識していたが、後半になって気持ちが入ってからは強引に攻めていったと振り返る。強引にいったといっても、投球内容自体は強引さが感じないところが奥川の凄さである。
そして平均球速149.9キロ(延長14回)で、延長13回でも154キロ、延長14回でも151キロを計測するなど、まさにプロのローテーションピッチャーを見ているようなものだった。
さらに延長13回、14回は2回にわたって三塁バントを封殺。いかにバントを封じたのか。その根拠もさすがだった。
「自分はボールが速いほうだと思いますし、金属バットの反発力の強さならば強く転がると思って力を入れました。僕もバント失敗しましたが、速い球はやりにくいですし、バントは三塁で刺すつもりでした」
苦しい場面でも頭脳は冷静だった。
星稜は和歌山勢に初勝利だった。周りは伝説の試合に勝ったという声もある。奥川にとってはその感覚についてはピンときていないが、「それでも周りの方々が伝説の試合に勝ったねといってくださるようでしたら、僕たちも嬉しいです」
次も試合は続くが、この試合で2019年の甲子園のヒーローは奥川恭伸と確信させるものだった。
(記事=河嶋 宗一)
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