記録と記憶を残した佐々木朗希が駆け抜けた大船渡での最後の夏
佐々木朗希(大船渡) 写真=共同通信社
ベスト16が出揃った夏の甲子園。剛腕・奥川 恭伸擁する星稜(石川)をはじめとして、全国各地から強豪が足並みを揃えたが、今夏の高校野球を振り返るにあたって、奥川と共に注目を浴びていたもう一人の剛腕がいる。佐々木 朗希(大船渡)だ。
ここでは、佐々木 朗希と大船渡が戦った今夏の岩手大会を、初戦から振り返っていく。
【7月16日・2回戦】大船渡 14対0 遠野緑峰(5回コールド)
佐々木は「4番・投手」で先発登板し、2回を投げ19球、奪三振2、無失点の好投を見せた。力は抑えつつもキレのある変化球で打ち取り、打者6人をパーフェクトに抑え、打っては初回に先制となる2点三塁打を放つなど投打に活躍し初陣を飾った。この日の最速は147キロだった。
【7月18日・3回戦】大船渡 10対0 一戸(6回コールド)
佐々木は2戦連続の先発。序盤から150キロ以上のストレートを連発し、効果的なスライダーと織り交ぜ打ち取っていく。6回を投げ93球、1四球で参考記録ながらノーヒットノーランを達成。毎回の13奪三振、最速155キロをマークした。力感の無いフォームから繰り出す速球はまさに圧巻で、初回の三者連続空振り三振を含み2回までに5奪三振。4回一死までパーフェクトに抑えた。
【7月21日・4回戦】大船渡 4対2 盛岡四(延長12回)
佐々木は3試合連続の先発。この日も初回から150キロ台を連発し、6回までに毎回の8奪三振。3回戦に比べると若干物足りなさがあるが、序盤では力を抜いた投球で、試合が進むにつれ徐々にギアを上げていった。そうした佐々木の巧みなペース配分が、大谷 翔平(エンゼルス)に並ぶ160キロのストレートを、100球を超えた8回に記録できた要因であろう。最終的に佐々木は12回を投げ194球、7安打2失点で21奪三振の熱投。延長12回には自ら決勝2ランを放ち熱戦に終止符を打った。
【7月22日・準々決勝】大船渡 6対4 久慈(延長11回)
佐々木は前日194球を投げたこともあり先発を回避。出場自体も無かった。チームは佐々木を温存し、延長11回に及ぶ戦いを勝利した。
【7月24日・準決勝】大船渡 5対0 一関工
佐々木は中2日での先発登板。初回に先制のタイムリー内野安打を放つと、投げてはストレート、スライダー、フォークを操り三振の山を築く。9回を投げ129球、四死球3、15奪三振、2安打完封勝利。ストレートの最速は157キロだった。ここまで3試合連続の2ケタ奪三振、29回を投げて奪三振51、2失点、防御率0.55と圧巻のピッチングだった。中2日ということで、「連投して投げるよりも、良い状態で投げることができました」とコメントしたように、ボールの走りもよかった。そして平均球速は147.33キロと、9イニング投げてこの平均球速はとんでもないスピードである。
【7月25日・決勝】花巻東 12対2 大船渡
佐々木は決勝戦で出場することは無かった。これに関しては様々な議論を呼んだが、國保監督は「故障を防ぐため」断腸の思いで佐々木の出場回避を決断した。佐々木は「高校野球をやっている以上、試合に出たい、投げたいという思いはあった」と話す一方、「大船渡を選んでよかった」の一言を残した。決勝の登板がないことを知ったのは当日の朝だったが、笑顔で受け入れたという。それは、監督やチームメイトとのコミュニケーションが取れており、深い信頼関係がある証なのだろう。
間違いなく、佐々木朗希はこれからの野球界を背負う選手になれる逸材である。最後の夏は終わったが、今回の「登板回避」によって、佐々木に明るい未来が待っている事を願うばかりである。
文・編集部