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3ボールからでも慌てない 甲子園のマウンドには大人になった谷幸之助(関東一)がいた

2019.08.10

 4年ぶり初戦突破の関東一。昨秋から多くの選手が成長を見せているが、この選手の成長が大きな力となっているだろう。その名は谷幸之助。最速147キロを誇る速球派右腕の谷は今まで四球から自滅することも多かった。しかしこの夏登場した谷は実に逞しい投手に成長していた。好リリーフした日本文理戦から谷の成長の背景を追っていく。

まずい状況こそ何ができるか考えられるようになった

3ボールからでも慌てない 甲子園のマウンドには大人になった谷幸之助(関東一)がいた | 高校野球ドットコム
ガッツポーズする谷幸之助(関東一) 写真:共同通信

 9回表、10対6で関東一のリードで迎えた9回表、日本文理の攻撃で一死満塁のチャンス。カウント3ボール。打者は2打点を記録している南隼人。マウンドに立っていた谷は「本当にドキドキでした」と苦笑いする。ここから谷は圧巻だった。開き直って140キロ台のストレートを連発し、南は146キロのストレートで空振り三振に打ち取ると、代打・渡辺 智光は右飛に打ち取り、谷は5回1失点4奪三振の好リリーフで勝利に貢献した。

 それにしても3ボールから3球連続のストレートの空振り三振は恐れ入る。プロ野球のクローザーでこんな投球をすれば、痺れるような気持ちにさせられる。あの時、谷はどんなことを考えていたのだろうか。
「やばいと思いました。ここでしっかりと抑えないと良い打者にまわっていくので、しっかりと抑えていかないと思いました。今日、自分のストレートの走りが良かったので、ストレートを低めに思い切って投げることだけを考えました。9回は軽く投げようとしてボールが浮いていたので、しっかりと指先にかけて投げることを意識しました」
 ストレート勝負は捕手の野口洋介も同じ考えだった。
「相手打者は南君で本当に怖かったんですけど、今日はストレートが一番走っていましたし、それで押し切ったほうが抑えると思いました」
 谷の冷静さがうかがえる場面だったが、これまで四球で自滅することが多かっただけに驚くほど大人になっている。何があったのだろう。

「これまでの自分だったら、自滅していた場面だったと思います。今はピンチになってもじゃあこういうところへ投げよう、こういう考えで投げようということができるのですが、昔はやばい、やばい、なんとかしなきゃと思って置きにいって、ひじが下がって、四球が出るという悪循環に陥っていました。
 3ボールの時こそ腕振ったほうがコントロールが良くなると監督さんからもいわれていましたので、それを意識しました。さらに打者に向かっていく気持ちは大事にしました」

[page_break:チームを支えないといけない意識が急成長させた]

チームを支えないといけない意識が急成長させた

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谷幸之助(関東一)

 きっかけは春の大会が終わった後、改めて自分の立場を考えるようになった。
「今年は僕と土屋(大和)が投げないと勝てないチームだとと思いました。自分たち2人がチームを支えられるように気持ちで投げていました。そういう気持ちで投げると自ずと結果が出るようになりましたし、気持ちで相手に負けないことを意識しています」
 春季大会後の練習試合ではそういう状況になっても切り替えることを意識した。たとえ四球を出しても慌てないで投げることができたのは、「練習試合でやってきたことを出せたのかなと思います」と語る。さらに先発で長いイニングで投げることを想定し、7割~8割の力で打たせて取る投球に徹したり、またリリーフで投げる登板を重ねながら、実戦力を高めていった。

 先発投手として成長した谷は決勝戦の都立小山台戦に先発し、7四死球を出しながらも完封勝利を挙げた。正捕手の野口は「小山台さんの大応援はすごかったのですが、あいつはマイペースというかおっとりキャラなので動じずに投げていてすごかったと思いました」と女房役も驚くほどの快投を見せたのである。

 そして日本文理戦。頼みの土屋大和がつかまり、早めの準備を行い、「いつでもいける準備はできていました」と語った谷は5回から登板した。この試合で心掛けていたことは何だろうか。

「土屋があれだけ打たれるということは日本文理さんがそれだけ強力打線ということですし、コースをしっかりと投げて打たせて取ろうと思いました。最終回は丁寧に投げることを意識しましたが、変化球主体で抑えることができました」

 四死球5を出しながらも無失点。最後のピンチに、谷を指導してきた佐久間コーチも「最初は成長した谷のような投球でしたが、最後は昔の谷だなと思いました(笑)。でも抑えてくれましたし、十分に楽しませてくれました。今日のピッチングといい、東京大会決勝で粘り強く投げられているのは成長したと感じます」と夏のピッチングをたたえた。

 だが、これからも勝ち進む上で、9回表の投球内容には満足していない。

「9回、しっかりと3人で抑えられ、また走者を出しても抑えられる心理状態にしたいと思います」

 谷のピッチングを見ると、夏の甲子園で活躍できる投手というのは春以降の成長が著しいが、活躍できるというのがよくわかる。特に谷はメンタル面の成長が素晴らしい。メンタルだけではなく、谷らしい140キロ後半の威力抜群の速球、120キロ後半の縦スライダーの威力も抜群。

 ドキドキとさせながらも最後は剛球でねじ伏せる谷幸之助をこれからも見せ続けてほしい。

(記事・河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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