17回を投げて防御率0.00。指揮官も驚く飯塚 脩人(習志野)の心身の急成長ぶり
初の選抜ベスト4を決めた習志野(千葉)。勝ち進めた要因は様々だが、原動力となっているのはエース・飯塚 脩人(3年)だろう。大会では3試合を投げ、17イニングで無失点の好投を見せた。小林徹監督も驚く成長を見せる飯塚の心身の成長に迫る。
星稜戦から凄みが増した飯塚のピッチング
試合後、グラブをたたく飯塚脩人(習志野)※写真=共同通信
ある一言を聞いて、飯塚も最上級生らしくなったなと思う言葉がある。それが星稜戦の試合後でのコメントだ。この試合、走攻守の要の根本翔吾が負傷で途中退場。悔しい思いをしてベンチに下がる根本を見て、エースとしてスイッチが入った。
「勝って次の試合でグラウンドに立たせたい。そういう思いで投げました」
気迫と冷静さを兼ね備えたピッチングで、最速146キロのストレートを軸に、星稜打線を抑え込む。ただ飛ばしすぎて、終盤はストレートの球速も135キロ前後に落ち込んだ。それでも飯塚の気持ちは折れなかった。
「僕がスタミナがないのは自覚していますし、スタミナが切れていたのは自覚していました。でも強い気持ちを持ち続けて投げました」
星稜打線を力でねじ伏せ、7.1回を投げて、無失点の好投で優勝候補・星稜を破った。その快投には小林監督も
「かなり気合が入っていたので、それが空回りしないことを祈っていましたが…。良く投げてくれましたし、100点満点のピッチングでした」と、普段から選手に対して厳しい小林監督も絶賛した。
そして準々決勝の市立和歌山戦。試合前の取材で飯塚は市立和歌山打線に対して、「力強い打線でストレートに対して強さを感じます。変化球をしっかりと使って抑えていきたい」と意気込み通りのピッチングを見せた。
2回裏からマウンドに登った飯塚。「リリーフですけど、いつでもいけるよう準備していた」と言葉通り、無失点に抑えるとリズムの良いピッチングを見せる。
カウントを取りに行く135キロ前後のストレートとギアを入れたときの140キロ中盤のストレートを投げ分け、ポイントとしていた120キロ後半のスライダーを低めに集める。受ける兼子将太朗も「ストレート、スライダーの精度も非常に良かったですし、いつもの冷静な飯塚らしいピッチングでした」と語る。
また、ポイントとなったのは5回裏。5回表、1点差に追い詰め、兼子はこの裏を抑えれば流れが来ると読んでいた。2安打を打たれながらも無失点に抑え、6回表、飯塚自身が同点打を放つ。7回表に勝ち越し、抑え続ける飯塚。
しかし8回裏にアクシデントが起こる。8回裏、一死から4番柏山 崇の痛烈な打球が膝に当たってしまう。ボールの跡がくっきりと残るほどの衝撃で当たった瞬間、激痛が走ったが、反応で一塁に投げる。
[page_break:名実ともに習志野のエースに相応しい投手へ成長した]名実ともに習志野のエースに相応しい投手へ成長した
2年生の春、日大三戦での飯塚脩人
治療のため、ベンチに下がったが、「絶対にマウンドに戻るつもりでした」と気合を入れてマウンドに登る。後続の打者を抑えると、9回裏もマウンドへ。負傷の影響を感じさせない140キロ台の速球を投げ込み、兼子も「ああいうケガがありながらも最後までストレートの威力が落ちなくてすごかった」と女房役も驚きの投球で市立和歌山打線を抑え、初の4強入りを決めた。
まさに絶対的エースに相応しい活躍を見せている飯塚。しかし中学時代は決してエリートだったわけではない。習志野第二中時代は外野手がメイン。千葉県の軟式・硬式のエリートが集まる習志野に進むか不安があったが、それでも習志野野球に憧れ、習志野の門をたたく。
入学当時は120キロ台。それでも1学年上の古谷拓郎(現・千葉ロッテ)、佐藤将聖の好投手たちから投手としてあらゆることを学び、成長を見せて、2年春には最速142キロを計測するまでに成長する。
しかしそこにはまだ投球術やコンビネーションというものはなく、ボールの威力で勝負していくスタイルで、今のように奥行きのあるピッチングスタイルではなかった。
2年夏、新チームになり、速球任せのピッチングでは戦えないと痛感した飯塚は捕手の兼子と相談しながら、コントロール重視の速球とギアを入れた速球の投げ分けを磨いてきた。そして秋では変化球の精度が低いと痛感し、スライダーを磨き、左打者のひざ元に投げられるまでになった。
そして自慢の速球は球速表示以上と感じるストレートを求めている。今では指のかかりが非常に良くなったと実感している。
2年生の秋、桐生第一戦での飯塚脩人
速球、変化球、投球のコンビネーション。すべてをレベルアップさせ、快投につなげた。また小林監督は精神面の成長を評価している。
「センバツからの成長が素晴らしく、信じられないという一面があります。まず野手に対しての声掛け。今年のチームはセンターラインが2年生中心で、引っ張る3年生の存在が必要です。そんな中、飯塚が声をかけるようになった。
今までは投げることだけに精いっぱいだった彼が本当に変わりました。次は打球を受けた直後のピッチングですね。気合を入れようとして、直球中心の投球になることが多いのですが、そういう中でも変化球を巧みに使えていましたね」
これまで小林監督は飯塚に対して厳しい評価だった。昨年末、「結果に見合う投手になっていない」という評価。それに見合う投手になれと叱咤激励を受け、取材した時、飯塚は小林監督から細かい指導を受けていた。今では優勝候補・星稜、全国レベルの強打のチーム・市立和歌山を無失点に抑え、習志野に相応しいエースに成長した。
だが飯塚自身、最もこだわるストレートについてはさらに速いボールを投げられると思っている。
「146キロ出ましたが、本調子かといわれるとそうでもないです。もっと良いストレートが投げられると思うので、次はしっかりと準備したい」
ここまでのピッチングで一気に評価を挙げた飯塚。次は強打の明豊。膝の状態が気がかりだが、叩き上げの習志野っ子が平成最後のセンバツの主役になるサクセスストーリーをまだ見てみたい。
取材=河嶋宗一