9回二死まで完封ペース!大飛躍を予感させた岩本大地の「170球」
好投を見せた岩本大地 ※写真は2月取材時に撮影
あと一歩だった。石岡第一のエース・岩本大地が強打を誇る盛岡大附打線を9回二死まで無失点。しかし同点に追いつかれ、11回裏にサヨナラを許したが、それでも170球の力投は見事だった。盛岡大附戦へ向けてどんな準備をしてきたのか。その投球を振り返りたい。
ストレートに頼らず、勝てる投手になるために取り組んだ
鮮烈な甲子園デビューだ。今年の盛岡大附打線はあの最速157キロ右腕・佐々木朗希(大船渡)を攻略した打線である。その盛岡大附打線からいきなり三者連続三振スタートを切った岩本。
下半身主導の投球フォームから繰り出すストレートは常時130キロ後半~144キロを計測。回転数、コマンド力ともに素晴らしいものがある。さらに打者の手元でブレーキングするように落ちる120キロ前半のチェンジアップ、横滑りする120キロ後半のスライダー、100キロ台のカーブを投げ分ける。攻めは多彩で、内角ぎりぎりにストレートを攻めたかと思えば、120キロ後半のスライダーやチェンジアップで空振り三振、追いこんでから高めの釣り球で空振り三振と、投球の幅が非常に広い。2回まで5奪三振と、上々の立ち上がり。
21世紀枠から現れた公立校のスーパーエースの快投は甲子園のファンを味方づけた。ヒットや得点をとるたびに、大歓声が沸く。
伸びやかな速球と多彩な変化球をコンビネーション良く投げ込み、NPBのスカウトの評価も大きくあげる投球を見せた岩本だが、このピッチングを実現するために日々のピッチング練習からテーマ性を持って投球練習に取り組んできた。
「昨秋の県大会に負けてから、ストレートに頼りすぎない投球をテーマにしてきました。打たれにくい変化球を練習してきましたし、試合を想定したピッチング練習をずっと取り組んできました」
その練習の積み重ねが、小学校から憧れ続けてきた甲子園のマウンドで発揮した。さらに相手の間合いにさせないよう、間合いも変えるなど、軽快なベースカバーを見せるなど、実戦力の高さを発揮した。
盛岡大附サイドは岩本に対して絶賛のコメントだった。4番・岡田は「ストレート、変化球の精度を含めて投手としての総合力は佐々木朗希に負けていないと思います」と佐々木を比較しながら岩本の投球をたたえ、そして関口監督も絶賛。
「映像も見てましたが、予想以上に球に力があって、変化球もキレがありました。前半は脱帽状態です。押されっぱなしで、完全に力負けしてました」
とはいえ、あらゆる球種を駆使して投げ込む。さらに強打の盛岡大附打線に対して投げるプレッシャーは尋常ではなかった。
終盤まで圧倒できる投手に
常時130キロ後半を計時していたストレートは130キロ前半まで落ち込んでしまう。岩本は「握力が落ちてきて、だんだん投げるのが苦しかったです」と振り返る。それでも力を振り絞り、8回まで無失点に抑える。そして9回裏、6番佐々木に同点適時打を浴びる。あの場面について岩本は「スライダーでいって、最後は力いっぱいのストレートで押す配球をしたんですけど、甘く入ってしまって…。相手が上でした」と悔しがる。
その後、気力で投げ続けた。10回裏、無死二塁のピンチを招き、9番・阿部秀俊がバントを試み、打ち上げた打球は三塁側への小フライ。この打球に対し、岩本は「絶対に負けたくないと思って」とスライディングキャッチ。10回裏も切り抜けたが、11回裏、一死満塁のピンチ。カウントはフルカウント。渾身のストレートは142キロを計測し、見事に詰まらせて投ゴロ。岩本は併殺を狙いに行ったが、「指にかかりすぎてしまいました」と暴投となり、サヨナラ。悔しい幕切れとなったが、170球を投げぬいた岩本に対し、甲子園の大観衆は拍手を送った。
10.1回を投げて、11奪三振、被安打5、四死球5、2失点(自責点1)と堂々たるピッチング。岩本は「これまで取り組んできたピッチングが前半は通用したのは収穫です。ただ終盤にスタミナがなくなって球速が落ちたのは昨年からの課題なので、夏までには終盤でも球速を維持できるようにしたいです」と収穫と課題を述べた。前半で見せた投球を終盤まで持続できるようだと、強豪が多い茨城でも、攻略困難な投手となるだろう。
夏へ向けて、意気込みを語った。
「今回の甲子園は連れて行ってもらったというか、出させてもらった甲子園なので、今度は自分たちの力で川井先生を甲子園に連れていきたいです」
甲子園で魅せた170球の快投。その中身は夏もブレイクを予感させるものだった。常総学院、霞ヶ浦、藤代、明秀日立と強豪揃う茨城を勝ち抜く絶対的エースになって見せる。
取材=河嶋宗一