北のスター選手を育て続けたNPBの名コーディネーター、故郷への恩返しに凱旋!
2007年2月に首都圏から居を四国地区に移し13年目。「さすらいの四国探題」の異名を背に四国球界でのホットな話題や、文化的お話、さらに風光明媚な写真なども交え、四国の「今」をお伝えしている寺下友徳氏のコラム「四国発」。
第37回では3月2日(土)に香川県丸亀市の[stadium]レクザムボールパーク丸亀[/stadium]で開催された「第1回香川県野球フェスティバル」で行われた元北海道日本ハムファイターズヘッドコーチ・白井 一幸氏の講演会の模様を少しだけご紹介。同時に四国の現状も交えつつ、元NPB選手・指導者による野球指導のあり方も考えていきます。
「香川県野球フェスティバル」に現れたNPB名コーディネーター
子どもたちと一緒に話す高松商の選手たち
3月2日(土)・[stadium]レクザムボールパーク丸亀[/stadium]。昼を過ぎるとグラウンドは一日早いひな祭りを思わせるような子どもたちの笑顔でいっぱいになりました。この日行われたのは香川県高等学校野球連盟がまとめ役となり、小学校6年生以下の約70組の親子を対象に小中高連携事業として開催された「第1回香川県野球フェスティバル」。高校野球・中学軟式野球部の指導者たちが講師役、センバツを目前に控えた高松商の選手たちがサポート役を務め、約2時間半の間に渡ってティーボール、ストラックアウト、キャッチボールなどで共にボールと戯れたのです。
「勉強になりました。子どもたちはティーボールを打ち始めたらいつまでも打っている。そんな野球を始めたころの初心に戻ることを選手たちには伝えたいです」(高松商・長尾 健司監督)
「野球人口を増やすため、これからも小さい子どもたちと接して野球の楽しさを伝えたいし、甲子園でも皆さんの応援を意識してプレーしていきたいです」(香川 卓摩<高松商2年・投手>)
「高校生がいいお兄さんになってくれたおかげで『子どもたちが最後はテーマパークから帰るように名残惜しそうにしていた』と保護者の方からも話がありました。これを機会に中学校も刺激を受けてがんばりたいです」(高松市立太田中・中川 卓監督)
選手・指導者たちが、それぞれの立場から、かつ最終的には「未来の子供たちのために」一致した感想を述べる中、会の冒頭でダンディなスーツをまとい、あいさつに立った方からも、このような感想が漏れました。
「これはまさにプロ野球がやらないといけないことです」
その方とは……香川県さぬき市出身、志度商(現:志度)卒。一昨年までのべ12年間コーチを務めた北海道日本ハムファイターズコーチ時代には中田 翔、大谷 翔平(現MLB:ロサンゼルス・エンゼルス)の育成にもかかわった白井 一幸さんでした。
[page_break:プロの経験と技をいかに受け入れ、アレンジするか]プロの経験と技をいかに受け入れ、アレンジするか
『完璧』という言葉を使って指導者にレクチャーする白井一幸氏
では、なぜ白井さんが[stadium]レクザムボールパーク丸亀[/stadium]に足を運んだのか?実は「第1回香川県野球フェスティバル」は午後だけにあらず。午前中には主に高校野球指導者を対象として「強いチーム作りと選手育成」というテーマで、白井さんによる講演会が行われたのです。
私もノート片手に講演を拝聴させて頂きましたが、内容はほぼ「企業秘密」。ただ「『かんぺき』という言葉を感じに直すとほとんどが「完壁」という文字を書くのですが、本当は「完璧」。このように思い込みで間違えて覚えていることは実は多くあるんです」といった趣旨の「先入観を持たず、まずは受け入れていく」考えには、出席者の多くをうなずかせる説得力がありました。
こうして成功裏のうちに終わった「第1回・香川県野球フェスティバル」。小野 裕作・香川県高等学校野球連盟理事長によれば「第2回は今年11月予定。その際には白井さんに指導者講習をして頂くことも考えています」とのこと。「選手が成長するためには指導者の姿勢が大事。そこに気付いてほしい」と説く白井さんのメソッドが、今度はグラウンド上で披露されることを楽しみに待ちたいと思います。
ちなみに、この冬は白井さんの他に徳島県高野連では鳴門卒。元:広島カープ投手で引退後はコーチ、編成グループ長も務めた川端 順さんが講演会、出張技術指導で各校にかかわり、高知県高野連では指導者講習会で高知卒・ロッテオリオンズや阪神タイガースで外野手として活躍した後、第1回WBC日本代表コーチなども歴任した弘田 澄男さんと、高知商卒で読売ジャイアンツなどで投手として活躍し、後に中央大監督も務めた高橋 善正さんが指導を行うなど「学生野球資格回復」元プロ野球選手による指導が四国各地に行き渡るエポックメイキングなシーズンにもなりました。
もちろん高校野球である以上、教育の要素に沿った指導は大前提。ただ、技術指導の部分については最高峰を経験した者に一日の長があることも事実。となれば、いかにプロの経験と技を受け入れ、高校野球的にアレンジしていくか。
これは「四国発」で成長していったプロ経験者と、子どもたちと日々向き合う指導者たちの共同作業によって、創造させていくものだと、改めて感じさせてくれた丸亀での一日でした。
(文・寺下 友徳)