徳島の高校野球指導者から見えた「近未来の野球指導システム」
高校野球指導者たち、野球少年少女たちを教える
2007年2月に首都圏から居を四国地区に移し12年目。「さすらいの四国探題」の異名を背に四国球界でのホットな話題や、文化的お話、さらに風光明媚な写真なども交え、四国の「今」をお伝えしている寺下友徳氏のコラム「四国発」。
第30回では1月13日(日)に徳島県鳴門市の[stadium]オロナミンC球場[/stadium]で開催された「平成30年度徳島県高等学校野球連盟少年野球教室」の様子を紹介。徳島県では初となる高校野球指導者たちが野球少年少女たちを教える機会から見えてきた「近未来の野球指導システム」について考えていきます。
初の試み「平成30年度徳島県高等学校野球連盟少年野球教室」
子供たちと2球同時の下投げキャッチボール
2019年1月13日朝9時、隣のポカリスエットスタジアムからは今年で第34回を迎える「キョーエイ・S&B杯ちびっこマラソン大会」に参加する小学生たちの歓声が響く中、[stadium]オロナミンC球場[/stadium]には徳島県内各所から集った147名の少年少女野球選手と、色とりどりのユニフォームを身にまとった大人たちが集いました。
その「大人たち」の1人がホームベース上にあるマイクスタンドへ向かいます。「みなさん、今日は楽しみましょう!」と話し始めたのは……。先の四国選抜オーストラリア遠征でヘッドコーチも務めた徳島県高等学校野球連盟監督会長の森 恭仁・鳴門渦潮硬式野球部監督でした。そう。実はこの日行われたのは「小学校1年生から4年生までに野球が楽しいと思ってくれることをしたい」(徳島県高等学校野球連盟・須崎 一幸理事長)と、徳島県軟式野球連盟との共同主催によりスタートした「平成30年度徳島県高等学校野球連盟少年野球教室」なんです。
その後、開校式で講師役を務める高校野球指導者たちとあいさつを交わし、「つかみがその後のメニューにもつながるので大事だと思っていた」生光学園・河野 雅矢監督が軽妙に指導するウォーミングアップで身体を動かし始めた子どもたちは、サポート役を務めた鳴門渦潮高校・硬式野球部の選手たちも交えしながら、キャッチボール・ポジション別の守備。低学年はティーボール、中学年は手投げのティー打撃を素振りを交えながら笑顔で練習。
また、メニューの合間には「練習中ももっと少年野球の指導者には入ってきてほしいと思っていたし、質問が出たので」と鳴門・森脇 稔監督が少年野球指導者に甲子園を何度も沸かせた「うずしお打線」バッティング技術を即席伝授するなど、指導者間の技術交流も生まれていきました。
[page_break: 「子どもたち目線」高校野球指導に通ず]「子どもたち目線」高校野球指導に通ず
鳴門・森脇稔監督のバッティング理論を聴く少年野球指導者
かくして2時間半余りに渡り、楽しさがグラウンドいっぱいに広がった「平成30年度徳島県高等学校野球連盟少年野球教室」。指導者側にもいろいろと新たな発見があったようです。
まずは少年少女野球指導者側から。徳島県学童野球連盟監査理事も務める林崎スポーツ少年団野球部・河野 幸政監督は、父として、そして指導者として河野 祐斗(内野手・鳴門~明治大~日立製作所)、左腕・河野 竜生(投手・鳴門~JFE西日本)らを育てた実績を全く誇ることなく「基本のことを丁寧に教えてくれたのがよかった。一緒のことを教えても言い方、やり方次第で子どもたちが伸び伸びすることが解かりました」と感謝の言葉を述べれば、昨年、今年から導入される予定である全国に先駆け「小学生主催試合・投手一日球数制限70球」を導入した徳島県軟式野球連盟・十川 佳久理事長は「皆さんに教えてもらって本当に感謝しています。次は基本のボールの握り方や歩き方、走り方も教えて頂ければありがたい」と、来年以降の発展に期待を寄せます。
一方で高校野球指導者からも、徳島城北・鎌田 智仁監督、徳島科学技術・福井 健太監督と共に中心となってメニューを立案した生光学園・河野監督が「教える側が子どもたちの目線に入らないと子どもたちが動かないことが解りました」と振り返れば、「子どもたちにはこのことを思い出してもらって長い野球人生を歩んでほしい。1回目としてはよかった」と話した鳴門渦潮・森監督からも「継続することが大事」と年1回の開催が予定されている次回以降への成長を促す発言が。それらの言葉たちははいずれも徳島県の小学生野球・高校野球のみならず、四国の野球にとって「進化・深化・芯化」となることを確信させる力強いものでした。
[page_break: 次は他競技に学び「交流日」の設定を]次は他競技に学び「交流日」の設定を
野球教室に参加した子どもたち指導者の記念撮影
こうして成功裡に終わった「平成30年度徳島県高等学校野球連盟少年野球教室」ですが、徳島県高等学校野球連盟はさらなる施策を練っています。すでに1月19日(土)には社会人野球の名門・日本生命の指導者・選手数名を招いての高校・中学軟式指導者向け「野球指導力向上研修会」、2月9日(土)には幼児たちに高校野球指導者たちが教える「ティーボール教室」の開催が決定。「この流れを今度は各校ごとでやってもらえれば」と須崎理事長も地域密着の高校が数多く占める徳島県の利点を最大限活用した「徳島型野球指導システム構想」を描いています。
そこで今回は「四国発」から1つご提案を。現実的に公立校では平日週1回の「休養日」が必須となりつつある部活動。ならばその休養日ないし平日の一日分を「子どもたちへの指導=交流日」としてみてはいかがでしょうか。
事実、阿南光・中山 寿人監督や、海部・小磯 博之監督といったベテラン指導者たちからはこんな声も聞かれました。
「南部の高校バレー部では毎週金曜日の練習後19時くらいから地元の子どもたちを招いてバレー教室をしているんですよ。高校生たちも教えることで自分の視野が広がるので、必要なことだと思いますね」
都会の学校とは違った視点、アプローチができるのが古くからの四国の強み。この「徳島県高等学校野球連盟少年野球教室」を契機に、そんな流れが生み出せればと切に私は思っていますし、その手伝いができればと考えています。
(文・寺下 友徳)