高校野球ラストステージから「大卒プロへ」走り出す糸川 亮太(立正大)の3日間
2007年2月に首都圏から居を四国地区に移し12年目。「さすらいの四国探題」の異名を背に四国球界でのホットな話題や、文化的お話、さらに風光明媚な写真なども交え、四国の「今」をお伝えてしている寺下友徳氏のコラム「四国発」。
第24回では12月1日(土)から3日(月)まで愛媛県松山市の[stadium]坊っちゃんスタジアム[/stadium]で開催された「侍ジャパン大学代表候補選手強化合宿」で四国出身選手として唯一の参加となった糸川 亮太(立正大2年・投手・右投左打・171センチ73キロ・川之江<愛媛>出身)の3日間を、周囲の証言も交え紹介していきます。
「高校野球最後の場」坊っちゃんスタジアムで
侍ジャパン大学代表候補選手強化合宿紅白戦で力投する糸川 亮太(立正大2年)
「お久しぶりです!」
12月1日(土)「侍ジャパン大学代表候補選手強化合宿」初日の[stadium]坊っちゃんスタジアム[/stadium]。糸川 亮太(立正大2年・投手・右投左打・171センチ73キロ・川之江<愛媛>出身)は、私が真っ先にあいさつをしようとする前に、自ら足を運んでくれました。その胸には縦じまに「RISSHO」の筆記体。背には「17」の文字。川之江時代の2年12月には愛媛県選抜の一員として高苑工商を5安打完封。立正大でも1年時から登板を重ね、この秋は立正大の東都大学リーグ18季ぶり2度目の制覇に6試合登板2勝1敗・防御率1.98で貢献。そして明治神宮大会でも3登板で3勝・13回を投げ防御率0.69と圧巻の成績で胴上げ投手に輝いた右腕の、堂々地元凱旋です。
私「[stadium]坊っちゃんスタジアム[/stadium]はいつ以来だったっけ?」
糸川「あの時以来ですね」
私「そうか、あの時以来か……」
そう。「あの時」とは春の県大会を制し第1シードに選ばれながら無念の初戦敗退に終わった2016年7月18日・第98回全国高校野球選手権愛媛大会2回戦のこと。糸川は春決勝戦で敗れたリベンジを期す松山聖陵に序盤撃ち込まれ、打線もアドゥワ 誠(現:広島東洋カープ)に1点しか奪えず。そして松山聖陵はこの川之江戦をステップに初の甲子園出場へ突き進んでいきました。そこで私はこう声をかけました。
川之江時代の糸川 亮太
「高校野球がここで終わったんだから、今度はここを飛躍につなげる場所にしたいよね」
これに「そうですね」と力強く答えた糸川投手。そうして2日目の紅白戦、彼は見事な投球で有言実行をやってのけたのです。
[page_break: 残した結果、それ以上に高い周囲の評価]残した結果、それ以上に高い周囲の評価
紅白戦最後の打者を三振に打ち取り小さくガッツポーズする糸川 亮太(立正大2年)
午後の紅白戦・紅組先発 2回 28球 打者7人 無安打 3奪三振 無失点
これが糸川投手の投球内容です。初回は先頭打者を失策で出すも残る3人を難なく仕留め、2回は三者連続三振。最速144キロに迫るストレートを随所に使いながら、110キロ後半の「有効に決まっていた」チェンジアップ、120キロ台のスライダー、そして「秋はよく決まってくれた」130キロ前後のシンカーもキレ味抜群でした。
川之江当時からクレバーな投球には定評がありましたが、今の糸川投手は言うならば、それがすべてレベルアップし、剛腕の要素も加えつつある印象。「投球スタイルを見つけられたと思いますね」スタンドで糸川投手の様子を見つめた高校時代のコーチ・新井 智さん(元:阪神タイガース)にも思わず笑顔が見えます。
実は、そんな糸川投手に東都ライバル校の監督たちも高い評価を抱いています。まずは秋季リーグ戦では就任2年目で優勝プレーオフに持ち込みながら糸川投手の前に苦杯を舐めた駒澤大・大倉 孝一監督。「腕を振った中で投げられるし、左打者が手こずりましたね」と、彼独特のシンカーについて語ってくれました。
侍ジャパン大学代表も率いるこの将も。亜細亜大・生田 勉監督は紅白戦後「正直に言って自分が見て、彼が一番良かった」と明かした上で、彼のよさを代表監督の視点も交えてこう語りました。
「リーグ戦で見ていても、よくても悪くても自分の持ち味を出しているし、独特の抜けたボールはアメリカに対しても活きると思いますね」
本人は登板を終え「もっと全部をレベルアップしたい」と殊勝な発言に終始しましたが、この評価を鑑みると糸川 亮太は現時点でも大学球界屈指の好右腕と言えるでしょう。
[page_break: 尽きない向上心、目指すは「大卒プロ入り」]尽きない向上心、目指すは「大卒プロ入り」
最速151キロ右腕・北山 比呂(日本体育大3年)に技術論を聞く糸川 亮太(立正大2年)
それでも糸川投手の向上心は尽きることはありません。紅白戦を終え、体幹トレーニングを終えると彼は体系の近い北山 比呂(日本体育大3年・右投右打・176センチ78キロ・横浜<神奈川>出身)の下へ。最速151キロ・紅白戦でも最速150キロ・140キロ後半を連発した豪腕から、体幹の使い方などを聞き取っていました。
「日本体育大でやっている練習メニューなどを彼には教えました。これでよくなってくれたら僕もいいと思っています」(北山)。はたして春に糸川投手がどんな姿に成長しているのか?ますます楽しみが増えた坊っちゃんスタジアムでのマウンド姿でした。
そして、ここまで向上心を露わにする理由は……。私は3日間の合宿を終え、「周りはすごい選手ばかりで濃厚な3日間でした。彼らに追いつきたいし、追い越したい」とコメントし帰京の途に就こうとする糸川投手に。確信をもって1つだけ尋ねました。
「大卒プロ入り、狙っているでしょ?」
「そこしか狙っていないです。大卒プロ1本で勝負したいです」
その意気やよし。残された2年間の時間を最大限に活用し、糸川 亮太は「高校野球ラストステージ」坊っちゃんスタジアムから夢へ向かって走り出します。
(文・寺下 友徳)