次世代に示唆を与える「高知県高校野球学校対抗戦」
2007年2月に首都圏から居を四国地区に移し12年目。「さすらいの四国探題」の異名を背に四国球界でのホットな話題や、文化的お話、さらに風光明媚な写真なども交え、四国の「今」をお伝えてしている寺下友徳氏のコラム「四国発」。
第23回では高知県高校野球のシーズン最後を飾る「高知県高校野球学校対抗戦」を紹介。極めて珍しい新人戦・秋季大会ベンチ外選手のみが出場できる大会を通じ、次世代の高校野球を考えていきましょう。また、この大会で発見した逸材たちも紹介していきます。
「県高野連主催」ベンチ外選手のための大会
台湾からの留学生190センチ右腕・陽 東霖(高知中央1年)
練習試合・大会開催は2018年最後となる11月最終週末の24日(土)。高知県高知市の高知市営球場には岡豊、高知中央、高知、高知商、明徳義塾といった県内のみならず四国でもお馴染みのユニフォームが集いました。しかし、よく見てみるとちょっと様子が違います。ベンチ入りの選手たちは明らかに県大会とは違う20人(岡豊は18人)。しかも、明徳義塾に至っては同じ背番号を背負った選手が2人います。そこで、大会要項の注意事項を見てみると、一番上には……。
「出場選手は、新人戦および秋季県予選のベンチ入り以外の選手で、上級生優先で試合を行う。」
そう。この大会は高知県では11月最終週の恒例行事となっている高知県高野連主催の「学校対抗戦」。記述の通り大会ベンチ外選手のみが出場を許され、かつ同一校2チームまでは参加可能という全国でも稀有な大会となっています。
ちなみに一昨年と昨年の決勝戦では明徳義塾Aと明徳義塾Bという同門対決が実現するなど、普段では見られない選手たちの熱い戦いが見られるのも今大会のだいご味。事実、前日に開催された3チームごと2ブロックのトーナメント戦を経て、この日行われた順位決定戦も3試合すべてが9回に逆転が生じての1点差という白熱したものとなりました。
多少のレベル差はあれど、選手たちがイキイキとプレーしている印象が強く残った高知球場の秋。では、彼らを指揮する指導者側は「学校対抗戦」をどのように位置づけているのでしょうか?
「学校対抗戦」をステップに春・夏の飛躍へ
韋駄天ぶりが光った明徳義塾A・田畑 雅希(2年・中堅手)
まず「特に新人戦や秋季大会に出場できていない上級生には大会を通じて自分たちの立ち位置や能力を感じてほしいし、これまで応援されていた選手たちは応援する原点に戻ってチームの為に支える大切さを知ってほしい」と話すのは8月に高知中監督から転身し高知監督に就任。学校対抗戦は初采配となった濱口 佳久監督。確かに各校の応援席、グラウンド整備やスコアボード操作は秋季大会の主力選手たち。彼らにとっても立場を変えて野球を見る、関わることは野球観を広げる上でも大事な要素でしょう。
一方、明徳義塾・馬淵 史郎監督は「この大会で自信を付け、冬を超えてレギュラーになった選手もいるよ」と学校対抗戦の効果を強調。指揮官の立場から見ても「3~4打席選手を試合で使えるので、練習で目立たなくても試合で目立った働きをするなどいろいろなことが解るね」と、学校対抗戦が判断材料の一端になっていることを明かしてくれました。
そして「ご父兄にとってはスコアボードにお子さんの名前が出て、アナウンスもあるのは嬉しいことだと思いますよ」と大会を振り返った田頭 克文・高知県高等学校野球連盟会長は、大会の将来像をこう語ります。
「この大会でも連合チームが出場してもいいと思います。普段スポットライトが当たらないところに光を当てる大会は大事ですから」
少子化、野球部員数の減少は高知県でも顕著。よってこの「学校対抗戦」がどこまで存続できるか解りませんが、この大会を通じ培われた「光を当てる」精神は未来永劫続いてほしいと思います。
*次ページ以降では大会結果と逸材選手たちを紹介します!
[page_break: 熱戦9試合の大会結果]熱戦9試合の大会結果
逆転サヨナラ勝ちで学校対抗戦優勝を飾った明徳義塾B
<大会結果>
第1日目:11月23日(金・祝)
Aブロック [stadium]高知市営球場[/stadium]
1回戦
岡豊 100 011 0 3
明徳義塾B 022 120 3× 10
(7回コールド)
*バッテリー
岡豊:川村 元春、山本 竜我―佐賀野 智伎
明徳義塾B:船本 大陽、長木 玲壱、吉永 泰希―山田 康介
三塁打
明徳義塾B:島坂 豊吉2、菅野 純気
二塁打
明徳義塾B:吉(よしは土へんに口)村 厚輝、山田 康介
準決勝
明徳義塾B 010 070 102 11
高知 000 004 100 5
*バッテリー
明徳義塾B:谷川 健太郎、内園 楓亜、吉永 泰希、船本 大陽―山田 康介
高知:北川 創、大内 伸哉、森本 航、松山 雄吏、岡林 龍太―奥内 元斗、島﨑 亮次
本塁打
明徳義塾B:寺﨑 元輝(大会2号)
三塁打
明徳義塾B:寺﨑 元輝
高知:畠 泰成
二塁打
高知:由藤 光
明徳義塾B:大田垣 陽友、島坂 豊吉、宮嶋 佑弥、山田 康介
Bブロック [stadium]高知商グラウンド[/stadium]
1回戦
高知中央 100 200 000 3
明徳義塾A 040 102 00× 7
(7回コールド)
*バッテリー
高知中央:林 訢緯―胡 家龍
明徳義塾A:岡田 脩平、三谷 剛己―日比野 暁、元屋敷 大誠
本塁打
高知中央:胡 家龍(大会1号)
二塁打
高知中央:曾 昱磬、林 訢緯
明徳義塾A:岡本 星七、日高 尚樹
準決勝
高知商 000 002 010 3
明徳義塾A 000 000 000 0
*バッテリー
高知商:西村 和真―山本 貴大
明徳義塾A:玉手 佑弥、三谷 剛己、高畑 晃大―日比野 暁
二塁打
明徳義塾A:岡本 星七
第2日目:11月24日(土)[stadium]高知市営球場[/stadium]
5位6位決定戦
岡豊 302 000 107 13
高知中央 203 230 002 12
*バッテリー
岡豊:山本 竜我、坂本 春騎、彼末 脩雅、川村 元春―佐賀野 智伎、久武 滉弥
高知中央:林 訢緯、陽 東霖、神田 瞳真、林 訢緯―胡 家龍
本塁打
岡豊:宮内 喬也(大会3号)
三塁打
岡豊:樋口 将弥
二塁打
岡豊:西岡 星翔、廣瀬 愛輝
高知中央:林 訢緯、曾 昱磬、今井 啓太
3位4位決定戦
高知 010 140 000 6
明徳義塾A 000 010 103× 7
*バッテリー
高知:大内 伸哉、森本 航、松山 雄吏、森本 航、北川 創―、島﨑 亮次、奥内 元斗
明徳義塾A:高畑 晃大、三谷 剛己、岡田 脩平―元屋敷 大誠、日比野 暁
三塁打
明徳義塾A:大倉 広大
高知:畠 泰成
二塁打
高知:由藤 光、山口 賢斗
明徳義塾A:岡本 星七
決勝戦
高知商 100 000 000 1
明徳義塾B 000 000 002× 2
*バッテリー
高知商:西村 和真―山本 貴大
明徳義塾B:内園 楓亜、吉永 泰希、船本 大陽、谷川 健太郎―山田 康介
「高知県高校野球学校対抗戦」での逸材選手たち
2試合を投げ18回自責点0の高知商・西村 和真(2年)
高知中央:陽 東霖(やん・とうりん、1年・投手・右投右打・193センチ70キロくらい・三星中<台湾>出身)
今大会5名が登録された台湾留学生の1人。まだ線は細いが二階から投げ下ろす角度は魅力。
岡豊:西岡 星翔(にしおか・しょうと、1年・一塁手兼遊撃手・右投左打・168センチ65キロ・安芸市立安芸中出身)
一塁手も遊撃手もソツなくこなす守備と、勝負所で広角に打てる打撃に見るところあり。
高知:奥内 元斗(おくうち・あさと、1年・捕手・右投右打・168センチ68キロ・高知中出身)
夏の高知大会では1年生で唯一ベンチ入り。二塁送球2秒を切る肩は今大会では別格。
明徳義塾A:田畑 雅希(たばた・まさき、2年・中堅手・右投右打・179センチ67キロ・小野ボーイズ<兵庫>出身)
「とにかく足は速い」と馬淵史郎監督も認める韋駄天。打の力が付けばレギュラー見える。
高知商:西村 和真(にしむら・かずま、2年・投手・右投右打・179センチ70キロ・土佐市立戸波中出身)
自らのミスから2試合連続完封は逃すが自責点は「0」。サイドハンドからの変幻自在投球。
明徳義塾B:宮嶋 佑弥(みやじま・ゆうや、2年・一塁手・右投右打・185センチ70キロ・明徳義塾中出身)
明徳義塾伝統の「走れて守れる」一塁手。スイングの力強さが出れば一気に突き抜ける可能性も。
(文・寺下 友徳)