Column

「まぼろしの甲子園」~「101回目の夏」に願う優勝選手の想い

2018.07.05

 2007年2月に首都圏から居を四国地区に移し12年目。「さすらいの四国探題」の異名を背に四国球界でのホットな話題や、文化的お話、さらに風光明媚な写真なども交え、四国の「今」をお伝えてしている寺下友徳氏のコラム「四国発」。
 第11回では6月29日に徳島県徳島市の「徳島市シビックセンターさくらホール」で開催された「第100回全国高等学校野球選手権記念徳島大会記念講演会」をご紹介。世間的には「まぼろしの甲子園」と称される1942(昭和17)年8月に阪神甲子園球場で行われた中等学校野球全国大会「大日本學徒體育振興大會野球大會」で優勝した徳島商の優勝メンバーで唯一ご存命である梅本 安則さんの講演から「101回目の夏に願う平和」について考えていきます。

100回にカウントされていない「昭和17年の夏・甲子園」

「まぼろしの甲子園」~「101回目の夏」に願う優勝選手の想い | 高校野球ドットコム
1時間以上に渡って熱弁を振るわれた「まぼろしの甲子園」徳島商優勝選手・梅本-安則さん(91歳)

 

 突然ですが、みなさんは「まぼろしの甲子園」と呼ばれる野球大会があったのをご存知でしょうか?1942(昭和17)年8月に[stadium]阪神甲子園球場[/stadium]で行われた中等学校(現在の高等学校)野球全国大会「大日本學徒體育振興大會野球大會」がその大会です。

 

 実はこの大会に限っては1946年に創設された日本高等学校野球連盟やそれ以前に高等学校(旧制:中等学校)野球選手権を主催していた朝日新聞社(旧:大阪朝日新聞社)ではなく、文部省(現:文部科学省)と、その外郭団体である大日本學徒振興會が主催。よって現在に至るまで「夏の高校野球全国選手権」としてはカウントされていないのです。

 

 当時、日本の統治地域だった台湾を含む地域予選を勝ち抜いた16校が参加したこの大会を制したのは「四国地区代表」の徳島商。そして、当時から76年が経過した今年6月29日、その徳島商の当時3年生(旧制5年制)で7番・一塁手として優勝に貢献した梅本 安則さんを講師とする「第100回全国高等学校野球選手権記念徳島大会記念講演会」が開催されました。

 

 演題は「『まぼろしの甲子園』優勝選手 梅本安則さんが100回大会に寄せる思い」。はたして13時からNHK徳島放送局・高山 大吾アナウンサーの司会により始まった約1時間半の講演会は、非常に興味深いものとなりました。

[page_break: 「101回目の夏」に願う感謝のプレー]

「101回目の夏」に願う感謝のプレー

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徳島商校内にある「まぼろしの甲子園」優勝碑

 

 大正15(1926年)12月11日生。第二次世界大戦後には電電四国(後のNTT四国)野球部創設にもかかわり、91歳になった現在も東京・葛飾区で医療事務職に就く梅本さんは、前年12月8日に開戦した第二次世界大戦下、東京にはじめてアメリカ軍の空襲があった(4月18日)時代背景から説明を始めると、昭和17(1942)年、当時を思い出しながら熱っぽく話を続けていきます。

 

 前年、昭和16年(1941)年夏、県・地区予選開会前に大会中止が発表された全国中等学校野球選手権大会が、「大日本學徒體育振興大會野球大會」と名前を変えたとはいえ「甲子園でできることにうれしさを感じた」こと。徳島商松山商高松商高知商の「四国4商」の戦いを勝ち抜き、到達した甲子園開幕前日の8月22日には総合開会式が橿原神宮運動場で行われた話。後に日本高等学校野球連盟副会長も歴任した稲原 幸雄監督(2005年・98歳で逝去)がベースランニングを仕上げとする猛練習を課していた一方、「練習するのは当たり前、技術的に一日の反省し練習を総括する」意図で「野球日誌」をいち早く導入していたこと。

 

 さらに大会を戦った仲間たちが、シベリア抑留などその後様々な人生を歩んだことや、スタンドがいっぱいに埋まった甲子園。優勝後、各所へのあいさつを終えて船便で翌日夜に徳島に到着した時の出迎えなど話は多種多岐に渡り、最後は今大会を迎える球児たちへ「多くの先輩たちが築いてきた歴史の上でプレーしている恵まれた環境に感謝しながら練習してほしい」と講演を結んでくれました。

 

 そして本講演が終わると1分間の黙とう。ここには「僕らは新チームになって捕手として徳島商での練習を始めましたけど、それもつかの間。学徒勤労動員でチームは解散し、僕らは三菱樹工業造船神戸で勤務。引率教員として一緒にいた稲原先生とある日、寮で誘ってもらってキャッチボールをしたのが思い出。そして昭和17年の甲子園に出た人の中には、その後に志願、招集で軍に入って、戦争で還らなかった人たちもいっぱいいた」。悲しい時代を繰り返さない平和への想いもこめられていました。

 

 その他、このスペースでは語り尽くせないこともいっぱいありますが、まずはこんな「101回目の夏」があったこと。そんな方々の想いもこの大会には込められていることを知って頂くこと。その意識が少しでも頭にあれば、また自分たちの野球観、人生観も変わってくると思います。球児の皆さん、高校野球ファン、関係者の皆さん、そんなことにも心をめぐらせて「100回大会の夏」をご覧になってはいかがでしょうか。

 

(文・寺下 友徳

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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