センバツ出場乙訓のWエース川畑・富山投手の野球ノートに綴られたチームへの想いとは
川畑大地選手と富山太樹選手
7月23日、第100回全国高等学校野球選手権記念 京都大会準々決勝、春の選抜出場校・乙訓と名門・龍谷大平安の注目の一戦が行われた。試合は5回コールドで龍谷大平安が勝利するまさかの展開。勝った龍谷大平安はその勢いで甲子園出場を決めた。
一方、敗れた乙訓は春・夏の連続での甲子園出場とはならなかった。乙訓の最後の試合のマウンドにはこの2人が上がった。右のエース・川畑大地と左のエース・富山太樹のWエースだ。1年生の秋からエースナンバーを目指して切磋琢磨しあうライバル。そんな彼らだが、夏に向けて感じていたチームの課題は同じ。その危機感を2人は3年間取り組み続けた野球ノートに文字として残した。
2人が目指したゴール
富山太樹選手
5月18日(金) 富山太樹
3年生の態度
→3年のこの時期は、もう自分のためにやることは少ないと思う。「どうすればチームの勝利に貢献できるか」「どうすればチームを良くできるか」「どうすれば下級生が良くなるか」どんな形であれ、チームのためにやるということは変わりないはずだ。
最終学年として、そしてチームを引っ張っていく選手として、責任感を持って練習に取り組んでいる姿が文章からも想像できる。
富山選手は時折笑顔を見せながらも、質問一つ一つに丁寧に応える。非常に真面目なのだろうという印象を受けた。まさに想像通りの人柄をもつ富山がこの日のノートの続きにこんなことを書いた。
自分たちが今するべき行動を考えて状況を変えないといけない
チームの現状を変えたいと思ったのは左のエースだけではない。乙訓の右のエース・川畑も同じ想いだ。
川畑大地選手
5月18日(金) 川畑大地
無駄なミスを減らす
→普段出ているメンバーがミスをして足を引っ張っていたように見えた。
5月14日の福知山成美との試合で、川畑はベンチスタート。乙訓は富山が2番手で継投すると、川畑が3番手として登板して勝利をおさめた。だがこの試合に川畑は多くの課題を感じていた。その想いがこう綴られていた。
常に1人1人が、自分が目立つ、自分が活躍するといった気持ちで挑まないといけないと思う。
力強い眼差しで相手のことを見つめて話をする川畑。雰囲気から芯が通っていることを感じ取れる。そして強い覚悟を持つ川畑は、この日のノートに夏への決意が書き記されていた。
僕は、春はもちろん、秋、春、夏全て優勝したいと思っている。
5月18日のノートには、2人とも同じように夏のため、そしてチームのためを想った胸の内が書き残されていた。そこには紛れもなく、チームの大黒柱としての2人の責任と覚悟があった。
そんな2人に、野球ノートはどんな存在だったのか伺うと、口を揃えてこう語る。
「野球への考え方が広がった」
夏への意気込み同様、Wエースが抱いていた野球ノートへの想いは同じだった。
エースナンバーを目指すライバル同士の2人。だが、見据えたゴールは同じ場所だった。そのために綴ってきたノートには、2人の試行錯誤の様子が窺える。自分には何が足りないのか。何が課題なのか。チームを勝利に導くためにどうすればいいのか。常に自問自答し続けた3年間。その集大成を甲子園で見ることはできなかったが、ノートに詰め込まれた投手としての責任と覚悟は、2人のノートからひしひしと伝わってくる。
2人が野球ノートに書き続けたのは、もちろん甲子園のためにだったはずだが、その前に目の前の一勝をチーム全員で勝ち取るためにWエースは書いていたのではないだろうか。
文=編集部