今年の甲子園の本塁打急増は打者の技術力向上とマインド面の変化がカギ?
本塁打の多さが目立つ第99回全国高等学校野球選手権。大会7日・26試合を終えて、37本塁打。前回大会の通算本塁打数に早くも並んでおり、本塁打記録更新にも期待がかかっている。さらに特徴的なのが、1試合2本塁打を打っている打者が多いことだ。ここまで一大会2本塁打を打っている打者は以下の通り。
・中村奨成(広島広陵)
・神野太樹(天理)
・谷口 嘉紀(神戸国際大附)
・中澤 樹希也(青森山田)
・亀岡京平(済美)
なんと5人も打っている。この5人、本塁打の中身も素晴らしく、必ず1本はセンターから右方向へ本塁打を打っているのである。右方向への本塁打は簡単に打てるものではない。現代の高校野球はかなりの速度で進化を遂げている。
今年は本塁打の中身もすごい
谷口 嘉紀(神戸国際大附)
まず今大会1人目の2本塁打を打った中村はOBの二岡智宏さんを彷彿とさせるような右方向への本塁打を2本。神野はバックスクリーン、左方向への1本ずつ。しかも打球速度が速い驚弾である。
谷口は北海戦で、レフトへの同点ホームラン、そしてライトへ逆転3ラン。中澤は彦根東戦で、カーブを引っ張ってレフト中段にもっていく本塁打。さらに第3打席は外角ストレートをバックスクリーン弾と驚きの一発を見せた。亀岡は、今大会トップの3本塁打を打っているが、1本ずつ振り返ると、東筑戦の6回裏、一死一塁、カウント1ストライク1ボールから外角高めのストレートを右中間へ打ち込む本塁打を放ち、甲子園初アーチを放つと、津田学園戦の4回裏、2ストライク1ボールから外角ストレートを左手1本で打ち込むホームラン。7回裏、5対0で迎えた二死二塁。高めのストレートを詰まりながらもセンター横へ飛び込むホームランを打った。
谷口と中沢はともに2年生。さらにクリーンナップを打っていないのもポイントで、谷口は6番で、中沢は7番を打っている。下位打者の2年生が1試合で2本塁打を打ち、その1本がセンターから逆方向へ本塁打。この事実に驚いている高校野球ファン、高校球児も多いことだろう。
その背景として、トレーニングによる筋力、体格、発達。技術面の進化が大きいだろう。甲子園だけ見ると勘違いしてしまうが、地方大会を見ると、右方向に本塁打を打てる打者はそんなにいない。甲子園にいくレベルの学校はただやみくもに振るのではなく、軸を安定させ、インパクトの瞬間に腰をしっかりと回転させて振り切る。かなり高度な打撃ができるようになっているのだ。
もちろんマインド面の変化も大きいだろう。打撃は水物といわれるように精神的なものが結果に大きく影響を及ぼす。今年の甲子園を見ると、打順関係なく振り切る打者が多くみられる。もちろん打ち勝たないといけないチーム方針もあると思うが、戦術、戦略に固執するのではなく、選手の持ち味、個性を引き出すために、自分のスイングに徹する。今年は打席に入ってから、打った後が良い意味で高校生らしくない選手も見られる。堂々としていて、とにかく打ってやろう、ヒーローになってやろうという思考が透けて見える。そういう思考も本塁打増加につながっているのかもしれない。
昨今の高校野球の打撃のレベルアップは、全体の底上げにつながる。今度は投手の方が速球、変化球、フォームのメカニズム、配球などの研究が進んでいくはずだ。今回の本塁打増加がぜひ日本の高校野球界の発展につながることを期待したい。
(取材・文=河嶋 宗一)