Column

プロ注目球児の「卵」を送り出す神戸中央シニア、最新トレーニングの成果

2022.04.11

 中学野球界では全国屈指の強豪チームとして知られている神戸中央シニア。毎年のように甲子園球児を輩出しており、昨年の夏は垪和 拓海内野手(智辯学園)と栗原 琉晟内野手(神戸国際大附)が甲子園に出場した。

 ここ数年では大阪桐蔭履正社智辯学園神戸国際大附龍谷大平安など強豪校に選手を送り出した実績があり、今春に卒団した3年生も公立進学校を受験した選手以外は、スポーツ推薦で高校への進学が決まっている。いわば、強豪校から欲しいと言われるような人材を数多く育ててきた確かな実績があるのだ。

 今回は甲子園常連校からも必要とされる選手の育成ノウハウや今年注目の新3年生などについて迫っていきたい。

1日6食で体づくりに専念

プロ注目球児の「卵」を送り出す神戸中央シニア、最新トレーニングの成果 | 高校野球ドットコム
昨年の神戸中央シニアの3年生たち

 練習拠点となっているのが、神戸市西区にある共栄第1野球場。他にも専用グラウンドを2つ所有しており、学年ごとに充実した練習を行えるのが神戸中央シニアの強みだ。

 チームを束ねるのは指導歴25年の山田高広総監督。23歳から長年に渡って監督を務めてきたが、昨年から指導者育成の方針もあり、各学年に監督を配置して、自身が総監督に回った。選手をスキルアップさせるためにこだわっていることについて、山田総監督は次のように話してくれた。

「中学生は二次成長期の大事な期間ですから、この間にきちっとした食生活も含めて体づくりをしっかりやって、高校の方に送り出すことを心がけています。また、技術的な部分については、自分に合った体の使い方をしっかり覚えるために4スタンス理論を数年前から取り入れて、自分に合った体の使い方を覚えさせることに取り組んでいます」

 神戸中央シニアの育成で特徴的なのが、食育と4スタンス理論だ。まずは食育について触れていきたい。練習のある土日は1日で6食を食べることになっている。その内訳は以下の通りだ。

・練習前に自宅で朝食
・10時に補食
・12時に昼食
・15時に補食
・18時に補食
・練習後に自宅で夕食

 育ち盛りの中学生とはいえ、これだけの量を食べ切るのは容易ではない。実際に大半の選手が「1年生の頃は大変だった」と口を揃える。もちろん、無理矢理食べさせるのではなく、ストレスなく食べられるように指導者も配慮している。

 昨年度のエースだった安福 拓海は時間をかけてでも多く食べるように工夫したという。こうした食育の効果もあり、神戸中央シニアの選手は全体的に中学生とは思えないほど体格が良く、スポーツメーカーが実施している体力測定では高校生と比較しても全国上位レベル。チーム単位の平均値では中学生に1度も負けたことがないという。

 主将の今岡 拓夢(新3年)もこの2年間で身長167センチ、体重56キロから178センチ、73キロに成長。「入った時に比べて打球が飛ぶようになりましたし、肩も強くなりました」とプレーの変化を実感している。中学生の間に高校生顔負けの体づくりができることで、高校でも早くから戦力になっている選手が多いのが、神戸中央シニアの大きな特徴だ。

 昼食と補食は選手の保護者が作っているため、負担は決して軽くない。山田総監督は以前、保護者の負担を減らす提案を行ったそうだが、保護者側がそれを断ったそうだ。近年は少年野球における保護者の負担が問題に挙げられがちだが、子どものためなら進んでやるというマインドを神戸中央シニアの保護者たちは持っている。選手、指導者、保護者が三位一体となっているからこそ、一定の実力を保ち続けているのだ。

[page_break:4スタンス理論が選手を伸ばす]

4スタンス理論が選手を伸ばす

プロ注目球児の「卵」を送り出す神戸中央シニア、最新トレーニングの成果 | 高校野球ドットコム
山田高広総監督(右)

 技術指導の大きな柱となっているのが4スタンス理論だ。これは自分に合った体の使い方を示すもので、A1、A2、B1、B2の4つのタイプに分類される。タイプによって適切な指導法は違うため、タイプに合わない体の使い方を教えてしまうと、パフォーマンスが大きく落ちかねない。山田総監督の言葉を借りれば、A1タイプの選手にB1タイプの指導をするのは、A型の人にB型の血を輸血しているのと同じだという。

 数年前から神戸中央シニアでは、指導のミスマッチを防ぐために選手それぞれの身体特性チェックを行い、自分が何タイプなのかが分かるようにしている。こうすることによって、理に適った指導が定まり、選手のパフォーマンスが最大限に発揮できるようになっていくのだ。そのため、練習中には、「お前はA2タイプだから~」といった指導者の声も度々聞こえる。

 また、指導者にも育てるのが得意なタイプがあり、進路を決める際にも選手に合った指導者がいる高校に送るよう配慮している。どうしても合わないところに行く場合には、「打ち方は触らない方が良い」と山田総監督が高校の監督に助言を送ることもあるそうだ。

 B1タイプだという今岡は、「軸がしっかりできるようになって、打つ時に一番力が出るタイプでバッティングができています」と4スタンス理論の効果について話す。選手にとっても参考にするべきプロ野球選手が誰かハッキリわかるというメリットがあり、技術の向上に大きく繋がっている。

 こうした取り組みによって、高校野球で通用する選手を数多く育成してきた神戸中央シニア。今年も大半が強豪私学に進む中で異色の存在なのが吉村 陽葵。チーム史上初となる女子の卒団選手だ。1年前に家族の転勤で北海道から神戸に移り住み、それと同時に神戸中央シニアに入団。前にいたチームより練習量や食事量が増えて、ついていくのに苦労したが、挫けることなく、最後までやり遂げた。

 身長170㎝の長身を活かした右投手で、4月からは女子野球の強豪校に入学予定。「プロ12球団でも女子チームが増えてきているので、そこを目指して、甲子園にも行けるように頑張りたいです」と意気込みを語ってくれた。

[page_break:逸材の土台を作り上げる]

逸材の土台を作り上げる

プロ注目球児の「卵」を送り出す神戸中央シニア、最新トレーニングの成果 | 高校野球ドットコム
今岡 拓夢

 新3年生については、「基本がしっかりしているので、身に付く力がとても早い」と山田総監督は基礎力の高さを評価している。その中で、注目すべき選手が主将の今岡だ。走攻守の三拍子が揃った遊撃手で、特にスローイングの安定感は山田総監督も認めるものがある。「大型ショートとして有名になりたいです」と話しており、中心選手としてチームを引っ張る活躍に期待したい。

 投手陣は河内 慶早瀬 朔の右投手2人が中心。ともに170センチ台後半の長身から120キロ台後半の直球を投げ下ろす。2人とも体は順調に大きくなってきており、今後の成長が楽しみだ。

 少年野球の在り方が問われるようになった昨今では、練習時間が短く、保護者の負担が少ないチームに選手が集まりやすくなっており、神戸中央シニアのような高校野球に向けてキッチリ鍛え上げるチームは選手の確保に苦戦しているそうだ。だが、山田総監督は時代に迎合してチーム方針を変えるつもりはないという。

「中学野球の指導を25年やりましたけど、成長させるのに特急券はないんですよね。3年間、苦しいことの方が多くて、辛いことがたくさんありますけど、逆境の中で子どもたちは育つ。そんな中で育った子どもたちというのが、本当に強い子どもたちになるだろうと確信しています。神戸中央はそういう意味ではストイックな環境があるチームで、高校野球のニーズには応えていけるチームだと思っています」

 神戸中央シニアはレギュラーだけでなく、当時は控え選手だった辻垣 高良(オリックス)や久保田 拓真(パナソニック)のように高校以降で大きく力を伸ばし、プロのスカウトに注目されるような選手を育てる土壌がある。文句のつけようがない環境と実績を持つ神戸中央シニアはこれからも有力選手を多数輩出してくれることだろう。今後の戦いぶりや育成に注目していきたい。

(取材:馬場 遼

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.27

【福岡】飯塚、鞍手、北筑などがベスト16入り<春季大会の結果>

2024.03.27

【神奈川】慶應義塾、横浜、星槎国際湘南、東海大相模などが勝利<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.27

青森山田がミラクルサヨナラ劇で初8強、広陵・髙尾が力尽きる

2024.03.27

中央学院が2戦連続2ケタ安打でセンバツ初8強、宇治山田商の反撃届かず

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.24

【神奈川】桐光学園、慶應義塾、横浜、東海大相模らが初戦白星<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.23

【東京】日本学園、堀越などが都大会に進出<春季都大会1次予選>

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.22

報徳学園が延長10回タイブレークで逆転サヨナラ勝ち、愛工大名電・伊東の粘投も報われず

2024.03.08

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.03.17

【東京】帝京はコールド発進 東亜学園も44得点の快勝<春季都大会1次予選>

2024.03.11

立教大が卒業生の進路を発表!智弁和歌山出身のエースは三菱重工Eastへ、明石商出身のスラッガーは証券マンに!

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.01

今年も強力な新人が続々入社!【社会人野球部新人一覧】