キーワードは「話せること」と「親の成長」。ヤングリーグ春夏連覇の監督が語る中学野球での人間形成
今年、ヤングリーグで春夏連続日本一の偉業を成し遂げたのが、広島県東広島市で活動する府中広島2000ヤングだ。全国大会には18年連続で出場を果たしており、10月に行われたプロ野球ドラフト会議では、法政大学の岡田悠希選手(龍谷大平安出身)、広島新庄の花田侑樹投手と2名のOBが指名を受けた。
そんな名門チームの根幹となっているのは、人間形成を求めた指導だ。「野球を通じた人間形成」と「高校野球への通過点」を指導方針に掲げており、チームを率いて21年の中田博監督は、「人間形成を目指すようになってから、技術でも人間力でも成長を感じるようになりました」と胸を張る。
心の成長のキーワードとして中田監督が挙げるのは、「人前で話せること」と「親の成長」だ。
ホームランを打つよりも「話せること」が大事
グラウンドの奥には瀬戸内海が広がっている
瀬戸内海に面した場所に、専用グラウンドを持つ府中広島2000ヤング。節目である2000年にチームが立ち上がったことから、チーム名にも「2000」の数字が入れられた。立ち上げ当初からチームを率いてる中田博監督は、人間形成を目指した指導を軸に据えたことで、大会での成績にも繋がっていったと話す。
「最初は近隣のチームに追いつこうとする中でスタートしましたが、これから高校に上がっていく選手たちのことを考えると、勝っても負けても何も残らないなと感じるようになりました。これじゃいけないなと思い、考えついたのが人間形成でした。勉強はもちろん、親への感謝、そして高校や社会で通用する人間を作っていこうと思ったのです。
すると、大会でも少しずつ結果を残すようになり、高校の指導者の方からも人間性が素晴らしい選手が多いですね、と声を掛けていただけるようになりました」
長年チームを率いる中田博監督
選手を指導する上で、中田監督が最も重視するのが、「人前で自分の言葉で話せるようになること」だ。自身の考えを頭の中で整理して、視線を浴びる中でしっかりと言葉を口にすることが、人間形成の基礎になると考えており、人間形成の基礎になると考えており、練習の前後に行う朝礼と終礼では、課題や目標をスピーチする時間が設けられている。
特に朝礼では、誕生日を迎えた母親へ感謝の言葉を伝える時間も作られており、人間力向上のきっかけとなる仕掛けをいくつも作っているのだ。
「母親に感謝の言葉を伝えた後、抱擁するのが恒例のイベントです。中学生にもなると親に直接感謝を伝えることなんて無いですし、ましてやハグなんて恥ずかしいじゃないですか。だからこそ、しっかりと普段支えてくれる両親へ感謝を伝えて欲しいと思いますし、次にハグするチャンスなんて結婚式くらいじゃないですか。親御様も毎回感動されますし、恥ずかしがらずに感謝することも人間形成に繋がると信じています」
[page_break:子どもの成長のためには、親の成長も欠かせない]子どもの成長のためには、親の成長も欠かせない
府中広島2000の保護者たち
また選手が成長するためには、親の成長も欠かせないと中田監督は考える。入団を検討している選手がグラウンドを訪れると、保護者に対して必ず掛ける言葉があるという。
「選手が入団するとき親御様には、親が成長しないと子どもも成長することができませんと必ずお伝えしています。親の成長とは、『先行指示』をしないことです。あれをやりなさい、これをやりなさい、あれはやったの、など先に指示を出すと子どもが成長する機会を失います。グッとこらえて、子どもが自ら考えて動けるように、見守って欲しいとお伝えしています」
朝礼には選手と指導者だけでなく保護者も必ず参加し、選手の言葉に耳を傾けて、その成長を見守っている。選手、指導者、保護者が一体となったチーム作りが根付いており、それこそが長年積み重ねる実績に繋がっているのだ。
「自ら考えて動いてる選手は、学業も良いです。今年の3年生の中心選手も、評定平均が4以上の子が多くいます」
全国大会での実績に憧れ、現在では遠方からも腕に覚えのある選手たちが集まってくるようになったが、中田監督は「高校野球でキャプテンを務める選手が年々増えてきて、それが何よりも嬉しい」と目尻を下げる。
来春に行われる全国大会への出場も決まっており、これで19年連続の出場となる。
選手たち、そしてOBの今後の活躍も楽しみだ。
(取材:栗崎祐太朗)