「元メジャーリーガー」のポリシーを受け継ぎ 草津リトルシニア(滋賀)が有望株を続々と輩出し続けられる理由
昨夏のリポビタンカップ第47回リトルシニア日本選手権大会で初の準優勝という快挙を成し遂げた草津リトルシニア。MLBでも活躍した家友和氏(現・横浜DeNAベイスターズファーム投手コーチ)が2004年に大家ベースボールクラブの中学生チームとして設立された歴史を持つ。
卒団生には奥村展征(東京ヤクルトスワローズ)と京山将弥(横浜DeNAベイスターズ)がおり、昨年は奥村真大(龍谷大平安)と見市智哉(近江)が[stadium]甲子園[/stadium]に出場した。近年、有望株を続々と輩出している強豪シニアの活動に迫った。
「試合の度に選手が成長する」を体現したチーム
草津リトルシニアの選手たち
チームのモットーは勝つことにこだわりながら野球を楽しんでプレーすることと文武両道だ。一昨年のセンバツでは彦根東の朝日晴人、膳所の平井崇博、今井竜大と進学校からの[stadium]甲子園[/stadium]球児を輩出して、文武両道の実践を証明している。
着々と実績を積み重なる中で創立15年目の昨年に全国準優勝という結果を残した。西村博之監督はこう振り返る。
「僕は草津リトルシニアにいて12年目なんですけど、あそこまで行ったのが初めてでした。選手たちは日に日に成長していると思いましたね。団結感みたいなのがグラウンドの中に出るんですよ」
アマチュア野球では「試合の度に選手が成長する」と言われることがよくあるが、草津リトルシニアもそれを体現したチームだった。投手は服部弘太郎と山田陽が交互に投げて試合を作ると、常に先取点を取ることで、試合を優位に進めていった。
攻撃面では主将の伊藤愛都がリードオフマンとしてチームを牽引。西村監督は「本来は中軸にいてくれた方が良かったんですけど、1番が合っていました。何よりもアイツが出ると、活気が出るんです」と伊藤の1番起用の意図を明かしてくれた。
チームリーダーである伊藤が打線に火をつけることで後続の選手も続くようにして得点を重ねていく。このパターンがハマり、快進撃を続けて全国準優勝という快挙を成し遂げたのだった。
「いい経験をさせてもらいました。全国の32チームに入ったら可能性があるんだと思わせてくれましたね」と西村監督。新チームはレギュラーとして日本選手権を経験した平井諒が主将となった。平井は[stadium]明治神宮球場[/stadium]でフェンス直撃の打球を放つなど、パンチ力のある打撃が持ち味の外野手。「先輩方の悔しい思いを胸に夏の大会では優勝に向けて努力していきたいと思います」と全国制覇に向けて意気込んでいる。
「平井は凄く真面目な子で、その真面目さが他の選手にいい雰囲気をもたらしてくれています。伊藤と真逆なキャプテンですけど、いいキャプテンだと思います」と西村監督は平井について語る。伊藤は発言力があり、熱くチームを引っ張っていくタイプだったが、平井は黙々と野球に取り組むタイプ。自ら模範となる行動をとることでチームにいい影響を与えている。
副主将はガッツあるプレーでチームを引っ張る三塁手の小田陽と投手の田村虎次朗が務める。彼らが声を出してチームをまとめ、打線では昨年からレギュラーに座る俊足巧打のリードオフマン・市岡祐樹とクリーンアップを打つ秋山隆晟が打線を引っ張る。
秋は思うような成績を残すことができなかったが、「春の滋賀ブロック予選で1位を獲って夏は全国制覇したい」と選手たちは口を揃える。先輩たちが遺してくれた全国準優勝という結果は現役の選手たちのいいモチベーションとなっている。
元メジャーリーガーのポリシーを受け継ぎ
守備練習中の様子(草津リトルシニア)
練習ではキャッチボールや全力疾走といった基本的な部分を大事にしている。特に目を引いたのがキャッチボールの後に塁間より短い距離でボール回しをしていたことだ。この練習を行う理由について西村監督は「至近距離でもある程度のスピード感をつけて、素早く回すことで集中力も高まるんです」と説明してくれた。
全体練習は休日しかやらないため、一球に対しての集中力が求められる。短い距離で集中力を養った後に塁間でのボール回しを行い、野球の基本となるキャッチボールの技術を高めていく。
「キャッチボールやボール回しから丁寧にやるようにしていますね。その先に応用がある。プレーの中で送球ミスは起こるんですけど、『キャッチボールから』と言われていることはここなんだと気づいてくれたらもう一つ先に進んでくれるんですよね」(西村監督)。
中学で基本をキッチリ教えているからこそ、高校に行っても高いレベルに対応することができる。卒団後も上の舞台で活躍できる選手が多い理由はそこにあった。
基礎の重視や文武両道の実践といった部分はチームの創設者であり、現在は会長を務める大家氏の理念に沿ったものである。大家氏は年に数回、練習や試合に顔を出し、日本選手権に出場した時は球場まで駆けつけてくれたそうだ。
練習に訪れた際には選手にアドバイスを送ったり、ランメニューを教えたりしているそうで、「アドバイスは具体的で、楽しくできるランメニューを教えてくれる」と選手たちからは好評だ。
世界の舞台を経験した選手の言葉は多感な中学生にとって与える影響は大きい。「普通の子ですよ。奥村なんか泣き虫だったし、京山はガッツマンでもなかったし、ちょっとクールな子でしたね」と西村監督が話すようにプロに進んだ二人も中学時代は特別な存在ではなかった。それでも大家氏の理念を指導者が共有し、その指導を選手が吸収することで有力選手を次々と生み出してきたのだ。
「今まで通り、野球が大好きな子を育てていきたいですね。大家さんの言っている理念があるので、他のコーチングスタッフとコミュニケーションをとりつつ、大家さんの土台を継続しながら全国を目指していきます」と今後の展望を語った西村監督。元メジャーリーガーのポリシーを受け継ぎながらこれからも有力な選手を輩出していく。
(記事=馬場 遼)
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