選手の未来と地元・府中への貢献を重んじる西東京の名門・武蔵府中シニア
ここ9年間で、実に10名ものプロ野球選手を輩出している武蔵府中シニア。茂木栄五郎(東北楽天)や菅野剛士(千葉ロッテ)など、一軍で活躍を見せる選手も出てきており、プロ野球界でも一大勢力となりつつある。
リトルシニアの名門として勝利を重ねるだけでなく、選手の育成においても結果を出している武蔵府中シニア。小泉隆幸監督の言葉から、チームの躍進の秘密を紐解いていく。
大学まで野球を続けることでプロへのチャンスは広がる
武蔵府中シニアの選手たち
全国選抜野球大会、日本選手権大会、ジャイアンツカップ。
リトルシニアにおける3つの全国大会すべてで優勝を経験しているチームは、全国にまだ数える程しかない。そんな中で武蔵府中シニアは、3つの全国大会すべてで優勝経験を持っており、全国でも指折りの名門チームとして長年実績を残し続けてきた。
だが、意外にもプロ野球選手を輩出し始めたのごく最近のことだ。2010年に南貴樹(浦和学院出身)がドラフト3位指名でソフトバンクホークスに指名を受けて入団すると、以降は立て続けにプロ野球選手が誕生。この9年間で輩出したプロ野球選手10名の数字は、中学野球界では異例の数字と言っていい。
チームを率いる小泉隆幸監督は、プロ野球選手の輩出が急増した要因に長く野球を続ける選手が増えたことを挙げる。
チームを率いる小泉隆幸監督(武蔵府中シニア)
「常日頃から、大学まで行って野球を続けてくれと選手には言っています。野球やる期間が長ければ長いほど、それだけプロの目に止まるチャンスが増えると思いますし、遅咲きの子でも陽に当たるチャンスが増えると思っています」
実際、プロ野球の扉を開いた選手の中には「遅咲き」だった選手も多い。長く野球を続け、そして努力を続けたことにより、中学時代では考えられないような活躍を見せる選手ばかりだと小泉監督は語る。
「まさかこの選手がプロ野球に、というような選手ばかりです。もちろん、みんな努力は必ずしていました。普通の努力の更なる上の努力です。
山野辺翔(埼玉西武)や菅野剛士はみんなが帰ってもずっと練習してましたし、茂木栄五郎も本当に練習の虫です。みんな大学まで野球を続けて、努力も怠らなかったことでプロに進むことができたと思います」
文武両道で東京六大学でプレーする選手も多い
紅白戦の様子
また、プロ野球選手を多く輩出する一方で、進学実績もしっかりと残している。
大学野球まで野球を続けるからには、学業成績を残すことは必須だ。そのために武蔵府中シニアでは、通信簿やテストの点数のチェックはもちろんのこと、都立高校の自己推薦書類の書き方や都立高校の現状などの説明会も行い、進学に向けてのバックアップも行っている。
「都立でも、私立顔負けに野球を一生懸命やってる高校ももいっぱいありますので、希望を持って入学できるように努めています。
うちも府中市のチームなので、地元の高校を応援する意味合いもあり毎年行っていますね」
こうしたサポートを続けることで、大学へ進学する選手は年々増加。現在、東京六大学には東京大学以外の5つ大学の野球部にOBが在席しており、3年前までは東京大学にもOBが在籍していた。
「例え家庭の事情で私立に行けなくても、都立や県立高校で野球と勉強を両立してやっていければ大学で芽が出る選手もいます。
3年前に、東京六大学でベストナインを取った桐生祥汰くんも、都立高校(都立西)から現役で東京大学に受かって野球を続けた選手です。都立高校でも本人の努力次第で、大学まで野球を続けて活躍することもできます」
これからは地元に貢献するチームを作る
輩出したプロ野球選手の名前が掲げられている
チームとしての実績だけで無く、プロ野球選手の輩出の実績においても大きな足跡を残す武蔵府中シニアだが、そんな中で小泉監督は、近年はチームの方針も変えていることを明かす。
これまでは埼玉や千葉などの遠方からも選手が集い、一学年で50~60名の選手が在籍していたが、現在では一学年40名程度で地元の選手でチームを構成していくことにしたのだ。
「ある程度、優勝や日本一も経験させてもらえたので、これからは地域に貢献していくチーム作ろうと思い地元の選手中心に切り替えました。やはり地元愛がないと、大人になった時に帰る場所がなくて寂しいかなと思います。
地元で育った選手たちが戻ってこれる場所を提供すれば、若い指導者も増えて、またその選手たちに子供が出来た時に、ここで野球をやらせようと思ってくれるかもしれません」
取材に訪れた際にも、大学野球で活躍するOBがグランドに足を運び、ピッチングを披露する姿が見られ、選手たちは真剣な眼差しでその様子を見つめていた。
また、親子二代で武蔵府中シニアでプレーする選手、保護者も実際に在籍しており、親子揃っての成長に小泉監督は目を細める。
「勝つばかりが野球ではありませんし、今は野球をやる環境も減りつつあります。そういった時代が来ているので、とにかく今は地元に貢献して、子どもたちが戻ってきてくれるチームにしていきたいと思っています。それがここ最近のコンセプトですね」
野球界への貢献だけで無く、地域への貢献も目指していく武蔵府中シニア。これからも府中の地で、名実共に足跡を残し続けるだろう。
(記事=栗崎 祐太朗)