柔軟な発想で選手の将来を考えるオール住之江ヤング その魅力は輝かしい歴史だけではない
オール住之江ヤングは、長い歴史と伝統を持つチームだが、2001年7月に全日本少年硬式野球連盟(ヤングリーグ)に籍を移して、新たな歴史を踏み出した。
前身のオール住之江時代には、日米で活躍した黒田博樹氏を輩出し、近年のOBでは2015年ドラフトで、近藤大亮投手がオリックスから2指名を受けて入団した。
そんなオール住之江ヤングを率いる太田忠男監督は、選手の高校野球での活躍を目指す一貫した指導方針の下、チームの運営に取り組んでいる。今回は、そんなオール住之江ヤングの方針に迫っていく。
練習中におやつを食べる選手たち、開放感のある練習が何よりの魅力
オール住之江ヤングを率いる太田忠男監督
「一番の目的は、野球を好きになってもらうこと、そして高校で花を咲かせるための貯金を作ることです。野球を好きな気持ちと貯金があれば、自信が生まれますから」
オール住之江ヤングを率いる太田忠男監督から、開口一番に出たのがこの言葉だ。
中島第二グランドや浜寺公園グランドなどを使用して、活動を行っているオール住之江ヤングは、この二つの指導方針を最優先に考えて練習に取り組んでいる。
「練習の内容は、そんなに変わった事はやっていないと思いますが、軍隊のような野球は楽しくないと私は思っています。一番は楽しむことが大事だと思います」
その中でも特筆すべきなのは、選手が各自で好きなおやつを持参して、それを休憩中に食べるといったものだ。
もちろんお菓子と言っても、スナック菓子などではない。菓子パンや饅頭など、エネルギーとなるようなもの食べることにより、それが補食となり選手の身体的な成長の手助けとなるのだ。
マウンドに集まるオール住之江ボーイズの選手たち
「今の選手は食も細いですが、強制的にさせることはできません。できる限り自由な雰囲気を持つようにしています」
この取り組みについては、選手たちからもとても好評だ。今年のチームの主力の一人である岸本夏季は、練習の途中で菓子パンなどを食べることによって、気持ちも楽になりエネルギーも出ると笑顔で話す。
「練習も楽しい雰囲気の中で出来ていると思いますし、パンなどを食べると力が出て、集中力も上がるように感じます」
選手の口からも、実際に「楽しい」の言葉出ているように、オール住之江ヤングの練習は非常に開放的な雰囲気を醸し出している。
選手たちは、ただ笑顔で楽しく練習を行っているのではなく、練習途中にお菓子を食べる意図を理解して、野球に打ち込むことを楽しんでいるのだ。
トレーニングによって選手に貯金を作る
オール住之江ヤングの主力を務める右から田中力人、岸本夏季、金本慎一郎、竹内草太
また、太田監督が実践する「高校で花を咲かせるための貯金」は、練習メニューにも表れている。基本的に平日練習は火曜、水曜、金曜の3日間で行われているが、平日の練習では技術練習よりもランニングやトレーニングなどの体力づくり、体づくりが中心となるのだ。
「平日は体幹トレーニングやランニングがメインなので、選手はしんどいと思います。
高校の指導者や監督が選手を見に来てくださる時も、体を強くして欲しいとよく仰います。高校に入学してすぐに怪我をして、いきなり高校野球で躓く選手も多いそうです」
トレーニングのメニューは、太田監督の知り合いの大学の教授の意見を参考に組まれている。自重によるトレーニングだけでなく、成長の妨げにならない程度の軽めのトレーニング器具も取り入れており、太田監督も効果を実感していると強く語る。
「筋トレを取り入れてから5年くらい経ちますが、選手の体が見違えるように大きくなりましたし、怪我も少なくなりました。中学生から筋トレをさせると、身長が伸びないとの考え方もありますが、推奨する専門家の方も多くいます」
トレーニングについても、選手たちからの評価は高い。
昨年、U-15日本代表に選出されて、今春に智辯学園へ進学した小畠一心選手は、オール住之江ヤングでの体づくりに関して次のように語っていた。
打撃練習の様子
「入団したばかりの頃は、しんどくて練習についていくだけで精一杯でした。
ですが、体が出来てくるにつれて練習にもついていけるようになり、打球の飛距離や球速も目に見えて変わってきました。自分はここまで怪我もしていません」
小畠自身も認めるように、オール住之江ヤングに入団した当初の小畠は、日本代表など考えられるような選手ではなかったと太田監督は話す。小畠の急成長の背景には、オール住之江ヤングの練習があったことは間違いないだろう。
常識に囚われず、柔軟な発想で選手の将来を考えるオール住之江ヤング。次は、どんなOBを輩出するのか注目だ。
(取材・栗崎 祐太朗)