東京城南ボーイズ(東京)選手の伸びしろを考え高校での活躍を優先する
春、夏合わせて13度の全国大会出場を誇る東京城南ボーイズ。平成10年に発足し、江戸川南シニアにて松坂大輔選手や、小谷野栄一選手などを育てた大枝茂明監督が長年チームを率いている。
今回は、そんな東京城南ボーイズについて大枝監督にお話を伺い、選手の育成方針やOBの活躍について迫った。
1年生は「遊び」から身体を作っていく
U-15代表の金井慎之介投手(左)と大枝茂明監督(右)
東京都大田区の多摩川グランドで練習を行なっている東京城南ボーイズ。東京都を代表するボーイズリーグのチームの一つであるが、グランドに到着してまず目に飛び込んできたのは、満面の笑みでサッカーを楽しむ選手達の姿だった。
「少年野球は試合が多すぎるのと、起用が多いから身体が疲れてきちゃうんです。だから、うちの場合は入団したら3ヶ月くらいはサブグラウンドでサッカーや鬼ごっこをやって遊んでいます。そうやって肩や肘を休ませています。ラグビー、鬼ごっこは反動の練習になります」
そう語るのは、東京城南ボーイズを率いる大枝茂明監督だ。中学校に上がると同時に、ボールやスパイク、投げる距離が大きく変わり、身体への負担が増えて怪我に繋がるケースが多いためだ。
遊びの中で基礎体力をつけていき、なおかつ肩、肘を休めて怪我を防止する。中学野球はあくまで通過点であり、大きく育てて高校へ送ることが監督としての使命であると大枝監督は考えている。
サッカーを楽しんで基礎体力を身に付けている
「正直言って、上手い子はすぐ一つ上の学年でも使えちゃうんです。そして彼らも対応できる。でもそういった子達は成長が早い分、少年野球でも多く試合に出ていて、体も大きいので体の骨と筋肉のバランスがあってないんです」
東京城南ボーイズには今年、金井慎之介投手という将来を嘱望された本格派左腕がいたが、スーパースターであってもその指導方針に例外はない。球数は綿密にチェックして、完投は3年間で一度も無し。最長で6イニングを投げたことがあったが、その時の球数は5回で40球程度しか投げていなかった。
そうした徹底された指導方針の下で、金井投手は怪我無く中学時代を過ごし、今年の6月にはU-15日本代表にも選出されて世界の舞台を経験できた。
「親御様と相談しても、中学野球で日本一か高校で甲子園出場のどちらを選びますかと話したら、やっぱり目先の勝利よりも甲子園出場を選びます。
まずは体鍛えることに親御様も納得していただいていますね」
3番手の投手だった綱脇慧、チームの底上げが高校での活躍に繋がる
U-15日本代表に選ばれ大きな注目を集める金井慎之介(東京城南ボーイズ)
東京城南ボーイズには、もう一つ大枝監督が大切にしている指導方針がある。それが「2チーム制」を取り入れていることだ。東京城南ボーイズは、AチームとBチームの二つのチームに分けているが、チームの底上げを図るために例え技術が追いついていない選手であっても、あえて主力のいるAチームに混ぜて練習をさせるのだ。
この指導方法を取り入れたことによって、試合に出ることが出来なかった選手も技術が向上し、毎年チームの底上げが出来るようになったと大枝監督は語る。
「Aチームはレベルが高いですし、当然扱いもみんな同じです。でも気持ちが腐らないので、ダメだと家で練習してきます。だから、下手だった選手も上手くなっちゃうんですよ。親御様にも喜んでいただけますね」
花咲徳栄の全国制覇に貢献した綱脇慧(現:東北福祉大)
これまで試合に出ることが出来なかった選手でも、定期的にAチームへ上がることで、気持ちが腐らず技術向上に励むことができる。そういった選手が増えていくことで、Bチームの選手たちはレギュラーを脅かす準レギュラー軍団へと化し、チーム内に健全な競争が生まれる。
大枝監督は、毎年この循環を生み出し続けることで、これまで高校球界に多くの選手を送り出してきた。
「中学時代は控えでも、高校でレギュラーやエースになる選手も多いです。(2017年夏の甲子園で優勝した)花咲徳栄の投手だった綱脇慧も3番手の投手だったんですから」
チームの目的は中学で勝つのではなく、あくまで高校で選手を活躍させることだと語る大枝監督。それは決して理想や机上の空論などではなく、現実として実践し続けているところに、大枝監督のすごさがある。
[page_break:選手それぞれの伸びしろを考え、愛情を持って育てる]選手それぞれの伸びしろを考え、愛情を持って育てる
大枝茂明監督(東京城南ボーイズ)
中学時代は3番手の投手ながら、花咲徳栄では清水達也(中日)との二枚看板としてチームを引っ張り、全国制覇に貢献した綱脇慧投手。大枝監督は、綱脇投手が在籍していた時も高校野球での伸びしろを常に考えながら、技術指導や進路相談を行ったと語る。
「どこの高校に進学させるかも重要なんですよね。強豪校でも様々な特徴があるので。
綱脇は3番手の投手でしたが、中学時代からコントロールはとても良かったです。進路相談を受けた時、花咲徳栄は投手の指導力が高いからと言って進学を勧めました。期待通り高校生活で伸びていきましたね」
選手の伸びしろを見極めるポイントとして、大枝監督が挙げたのが身体の成長だ。早い段階で成長が止まる選手もいれば、1年で10センチ以上身長が伸びた選手もいる。選手の身体の成長を見極めつつ、加えて技術レベルや選手の気持ち、保護者の方の意見なども考えながら、大枝監督は的確な技術指導や進路相談を行っているのだ。
東京城南ボーイズの練習の様子
また、多感な時期である中学生は理屈だけでは納得しない。愛情をもって接することで、選手との信頼関係を築き、納得してもらえる中で指導や相談を受けることができるのだ。
大枝監督は、取材中は常に笑顔で質問に答え、明るく対応してくれる。また、選手たちがサッカーを終えて戻ってくると「おい、今日はどっちが勝ったんだ?」とフレンドリーに話しかけ、選手たちも楽しくコミュニケーションを取っている。
こうした大枝監督の人柄も、監督としての大きな素養になっていることは間違いない。
明確な指導方針とフレンドリーな人柄を兼ね備えた大枝監督。そんな人間味溢れる大枝監督が率いる東京城南ボーイズは、これからも多くの球児を高校野球へと送り出していくだろう。
(文・栗崎 祐太朗)
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