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ヤンキース岡山 創立8年目の“若い”チームが掲げる勝利と育成の両立

2018.04.14

 2017年、地元・倉敷マスカットスタジアムで開催されたヤングリーグ春季大会で優勝を果たしたヤンキース岡山。同大会では2014年に続く、二度目の栄冠となった。更に今春のセンバツではOBが三重聖光学院の2校でベンチ入りし、甲子園の土を踏んだ。
 チームの発足は2011年。今年で創立8周年とかなり“若い”チームながら、発足から現在まで、ハイペースな成長を続けている。全国大会での安定した実績を誇る“勝利”を挙げるためのノウハウ、続々と甲子園球児を輩出する“育成”の両立に迫った。

「地元・岡山の野球を盛り上げたい」気持ちが原動力

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ヤンキース岡山の選手たち

 「岡山の選手の持つ潜在能力は全国と比べても、決して引けを取らない。けれど、甲子園に出ると勝ち切れない。それが悔しくてね。少しでも岡山の野球を盛り上げる、発展に貢献したいと思ったのが、立ち上げのきっかけでした」と2011年にチームを立ち上げた木田憲治監督は発足の理由を振り返る。木田監督自身も岡山県内有数の強豪・関西出身。全国舞台で持ち得る能力を発揮し切れない県勢の姿に歯痒さもあった。

 硬式チームの立ち上げにあたり、「岡山はヤングリーグが盛んな地域」(木田監督)ということもあり、自然な形で所属連盟はヤングリーグに決定。こうして活動が開始されたのだった。

「勝ちにこだわって、育てる」とは?

 中学野球の方針は、高校野球以上にチーム個々で方向性が異なる。育成を主に置く、全国での勝ちにこだわる…。大きく分けてこの二通りに分類されるが、どちらが正解ということではなく、育成年代故の難しさがある。そんななか、ヤンキース岡山は「勝ちにこだわって、育てる。勝ちにこだわるからこそ、成長する」と方針を掲げ、指導にあたっているという。

 「『全国で勝つ』ことを目標に取り組みますし、投打の基本的な技術はもちろん、『勝つために必要』な走塁等のテクニックも細かく指導しています。敗戦から学ぶこともたくさんあるとは思いますが、理想は『勝った上で、反省する』こと。勝利を挙げて自信を得た上で、反省点、課題を洗い出し、改善していく。それが一番選手の成長に繋がるサイクルだと思っています」

 理念の意図を、このように解説してくれた宝田賢吾コーチ。もちろん、基礎的なトレーニングを疎かにしているという意味合いではない。専用グラウンドを持っていないという事情もあり、平日2回の練習では、豊富な種類を誇るトレーニングに打ち込み、素振りやティー打撃を中心に徹底的な振り込みを行っている。「走る量は他のチームよりも多いと思います」(宝田コーチ)と語るように、インターバル走などメリハリのついたランメニューで下半身も鍛え上げる。心肺機能を底上げすることで、練習量の確保、高校以降の厳しい練習にも耐えうる身体を作っていく。
 技術、体力のベースアップと「勝つ野球」を繋げるもの。安定した全国大会での実績を支えるポイントは何だろうか。宝田コーチに質問すると「守備と走塁です」と答えが返ってきた。

[page_break:走塁を鍛えることで、試合中に“活路”を見いだせる]

走塁を鍛えることで、試合中に“活路”を見いだせる

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走塁練習中の選手たち

 取材当日は紅白戦がメニューの中心。先述の通り、専用グラウンドを持っていないため、球場を借りて行う週末の練習では、紅白戦を積極的に行い、実戦感覚を磨いている。新2年生チーム同士、新3年生チーム同士での試合を終えた後に、「かなり時間を割いて教えています」と語る走塁練習が始まった。

 「ウチのチームの特徴ですが、小学校時代に野球をやってきた選手とソフトボール出身の選手がちょうど半々ぐらい。ソフトボールはリードがないので、野球と走塁の感覚が異なることもあり、一から指導します」

 この日は走者一、三塁の場面での走塁を数パターン実践。ランナー役の選手だけでなく、順番待ちの選手も真剣な表情で、本番さながらの集中力を見せていた。リードの幅、スタートのタイミングに問題が生じた際には、すかさず練習を止め、ミスの原因を確認。状況を整理し、実戦の場で迷いなくプレーできるように知識を蓄えていく。
また、捕手、内野手は走塁練習でも実際に守りにつくため、必然的に状況判断や挟殺プレーの技術も磨かれていく。紅白戦で一切乱れない挟殺プレーを見せていたように、守備にも好影響を及ぼしている。

守備では入団直後に「グラブの“はめ方”」をきっちりと指導

 「小学生だと、手とグラブのサイズがきっちり合っていないこともあり、グラブの奥に手を突っ込んでいることが多いんです。このはめ方だと捕るべき位置で捕球が出来ない。手の平の下の部分が見える程度、少し浅めのはめ方を教えています」

 グラブの正しい使い方を学び、実際のノックで基本動作を磨く。取材当日のノックでも打球への入り方など、捕球までの過程を細かく指導していたのが印象的だった。
 安定した守備と走塁が全国レベルの安定感を生み出している。

徹底した話し合いで「成長できる環境」に導く進路指導

 県内外の強豪でOBが活躍を続けているヤンキース岡山。上で述べたような技術指導のみならず、細かなヒアリングを基にした進路指導にも秘密があった。

 「本人の希望進路をヒアリングし、性格や技術レベルと擦りあわせて、一番『活躍できる』と考えられるチームを提案します。能力があっても環境とマッチしなければ、力を発揮できないし、高校での成長も難しい。かなり時間をかけて行っています」

 進学にあたっては中学校での成績もおろそかにできない。スタッフ陣が通知表もチェックし、学業を中心とした学校生活に問題がないか目を配る。

 県内外の強豪へOBが巣立っていることもあり、様々な高校の練習環境、指導者のカラーなどの知識がチームに蓄えられている。こうして積み上げられたベースが、充実した進路指導に繋がっているのだ。

[page_break:投打の中心と「ミレニアム世代」の弟]

投打の中心と「ミレニアム世代」の弟

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左から引地 健三、谷合 健太、三垣 飛馬

 指導者陣が「今年の投打の中心」と太鼓判を押す三垣飛馬投手が、現チームの中心だ。ガッチリとした体格で、この日も紅白戦で鋭いスイングを見せていた。故障も完治が近づいており、「自分が投げられないことでチームに迷惑をかけてしまった。ここからしっかり活躍して全国大会に行きます!」と決意を語ってくれた。

 三垣投手以外にも魅力的な選手が揃っているが、筆頭は「ミレニアム世代」のドラフト候補を兄に持つ二人だ。最速151キロを誇る引地秀一郎倉敷商)を兄に持つ引地健三投手、今春のセンバツで劇的なサヨナラ3ランを放った谷合悠斗明徳義塾)の弟、谷合健太選手。二人とも兄はヤンキース岡山のOBではないが、「練習の雰囲気が良かった」(引地)、「兄の応援で対戦相手のヤンキースを見るうちに良いなと思って」(谷合)と入団を決めた。
 引地はバランスの良いフォーム、谷合は兄譲りのパンチ力が魅力だ。

OBの“甲子園対決”見たい

 取材の終盤、木田監督に「期待しているOBは誰か」と伺ったときのことだ。
 「うーん。難しいね。強いて挙げるとすれば、この春から関西国際大でプレーする物部大輝かな。僕の母校でもある関西で頑張っていたしね。でも、OBには全員期待していますし、全員活躍してほしい。ご縁があって岡山県内はもちろん、県外のチームでもOBが頑張っているので、甲子園で教え子同士の対決が実現してほしい。実現したら指導者として最高の喜びですね」

 優しいまなざしで語った木田監督。ヤンキース岡山OB達による夢の対決の実現は、そう遠くないはずだ。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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