
チェコの選手たちとコミュニケーションをとる田久保賢植さん ※本人写真提供
ワールドベースボールクラシック(WBC)が8日から開幕し、日本の優勝で幕を下ろした。世界中の野球ファンたちが各地で連日熱狂していたが、準々決勝まで試合が開催されていた東京も、大谷 翔平投手(エンゼルス=花巻東出身)ら侍ジャパンの快進撃のおかげで、熱気に包まれた。
東京プールを語る上で、チェコの活躍も東京ドームに駆け付けた世界中の野球ファンを熱くさせた。特に日本国内で大きく取り上げられたのは、チェコの選手たちが見せてきたスポーツマンシップだ。
7番左翼でスタメン出場したW.エスカラ内野手は、先発登板した佐々木 朗希投手(ロッテ=大船渡高出身)から死球を受けた。痛みに耐えながら一塁へ進んだものの、その後ファウルゾーンを全力疾走するなど紳士的な対応を見せた。
他にも試合終了後に侍ジャパンベンチへチェコナインが祝福の拍手を送るなど、試合中のプレーの様子を含めてSNSを中心に国内で話題を呼んだ。
かつてチェコでプロ選手、そして指導者として2シーズン携わり、今大会も直前の宮崎キャンプからサポートに加わった田久保賢植さんに後日話を聞くと、こんな答えが返ってきた。
「彼らにとっては普段通りのことをしただけだと思うんです。チェコのリーグ戦をやっていても、マウンドあたりで両チームが握手をしてから試合が終わる感じなんです。ただあの試合は、多くの観客が試合に来てくれたことが選手たちも嬉しくて、一生懸命やって、ランキング1位の日本も応えてくれたので、『ありがとう』という感謝の思いで、普段のことをやっただけだと思っています」
「普段通り」の行動が、いつもと違う国際試合の場でもできることからも、いかに文化として根付いているのか。チェコという国の素晴らしさを改めて認識できた。
チェコ国内の普段はどうなのか。田久保さんは当時の体験談を交えながら話してくれた。
「良い人が多いといいますか、フレンドリーな雰囲気が印象的です。当時、チェコでは外国人選手である私がチームから孤立したり、嫌な思いをしたりしないように、休みの日にはどこか連れて行ってくれましたね。そういうおもてなしを通じたケアというのは日本と似ているかもしれないです」

田久保賢植さん ※本人写真提供
この試合、ネット配信のゲスト解説として試合当日は中継に参加していたが、「チェコの魅力は何でしょうか」という質問があったという。そのときも親切にしてくれた仲間たちを思い出し、「人が魅力だと思います」と答えるほど、他人のことを思いやるチェコの人柄は田久保さんの心にも深く刻まれている。
だからこそ、「恩返しをしたい」と自ら志願して、チーム関係者にコンタクトを取り、ボランティアで大会前の宮崎キャンプからサポートメンバーとして参加。ホテルや練習会場の調整、練習試合の対戦相手のブッキングなど、チームの窓口としてコミュニケーションをとったり、ときには報道関係に写真を提供したりと、自身が現役時代にチェコの選手たちからしてもらったおもてなしを、今度は自分がサポートすることで返した。
田久保さんのみならず、侍ジャパンも試合後に大谷はSNSを通じてチェコへのリストペクトへの思いを伝えたり、佐々木も死球を当ててしまったエスカラへのお詫びにお菓子を渡しに行ったことが報じられた。
「恩返しをしたい」と思わせる人たちが集まっているのがチェコであり、魅力だから多くの人たちが惹かれて自然と行動に移したに違いない。
一方で、田久保さんが、日本に対する危機感を覚えたという。
「これだけチェコチームのリスペクトの姿勢が日本で話題になっているのは、日本人が求めているからだと思うんです。けれど本来は日本人にとって大事にしているはずの礼儀や礼節の中にリスペクトが含まれていて、日本が世界に誇れることであるはずで、当たり前だろうと感じてもいいマインドなはず。それがこれだけ注目されるということは、日本人にとって礼儀や礼節がどこか形式的になっている風潮があって、その本質を見失っているからだと感じています」
チェコにとって「普段通り」なことだが、日本にとってはそうではなかったのだろうか。だから話題を呼んだという構図であるとしたら、非常に悲しいことではある。だが、チェコというスポーツマンシップに溢れた国と出会えたことで再確認できたことも事実だ。
18日にセンバツが開幕し、高校野球も日に日に盛り上がってきた。勝負である以上、勝つことを目指すのは当然だが、あくまで学校教育の一環であることは変わりない。チェコの選手たちが見せてくれたスポーツマンシップに溢れたプレーを見せてくれることや、センバツに出場していない多くの学校が、チェコという国を通じて、改めて相手をリスペクトするスポーツマンシップを当たり前のように見せてくれることを今後も願いたい。
(取材=編集部)