世代交代が進まない背景

イ・ジョンフ
今回エドマンが代表に加わったのは、メジャーリーグのゴールドグラブ賞を受賞した好守備で、若手投手を助けてほしいという思いがあったからだ。
韓国は今回欠場した柳賢振(リュ・ヒョンジン/ブルージェイズ)や金広鉉のあと、若手投手が伸び悩んでいる。韓国のスポーツを見るとき、その10年前の状況を知っておく必要がある。競技に興味を持った少年が、本格的にエリートの道に進むのか、それとも、やっても趣味程度で、勉強に集中するのかを決めるのが10歳前後だからだ。
87年生まれの柳賢振、88年生まれの金広鉉が10歳のころは、ドジャースで活躍する朴賛浩(パク・チャンホ)の全盛期。野球少年たちの憧れの存在になっていた。
ところがその後、韓国は金融経営危機に陥り、維持するのが困難な球団もあった。おまけに2002年は日韓共催のサッカーW杯が開催され、人々の関心はサッカーに向かった。さらにアテネ五輪の出場を逃したことが、危機に追い打ちをかけた。
そんな中でも、優秀な選手はいた。しかしその多くは、高校時代の酷使で故障を抱え、プロに入って芽が出なかった。
追い詰められていた韓国野球は、2006年の第1回、09年の第2回WBCでの健闘、08年の金メダルで盛り返し、最高の人気スポーツの座を不動のものにした。
そこで98年生まれの李政厚(イ・ジョンフ/キウム)、99年生まれの姜白虎(カン・ベクホ/KT)などが登場する。その後、高校野球で日本よりはるかに厳しい球数制限が導入され、01年生まれの蘇珩準(ソ・ヒョンジュン/KT)や02年生まれの李義理(イ・ウィリ/KIA)という投手も台頭してきた。ただし韓国の場合、兵役があるため早く結果を残す必要があり、じっくり育てられない現実がある。
誰も選手の人間形成に関心を持たないことの歪な構造
韓国のプロ野球は近年、極端な打高投低が続いている。昨年、防御率2点台は外国人投手を除けば、安佑鎮(アン・ウジン/キウム)と金広鉉だけ。一昨年は白正鉉(ペク・チョンヒョン/サムスン)と高永表(コ・ヨンピョ/KT)の2人だけ。しかも白が活躍したのはこの1年だけで、高の防御率は2.92とギリギリ2点台であった。そして3年前は1人もいなかった。
そうした中で昨年、防御率(2.11)と奪三振(224)のタイトルを獲得した安佑鎮が過去の暴力事件が問題になり、今回出場できなかったことは痛手であった。
暴力事件の被害者が、過去の被害を告発するいわゆる「スポーツme too」は、スポーツ界で大きな広がりをみせている。暴力はもちろん許されない。ただ韓国の事案をみて不思議に思うのは、選手ばかりが責められ、監督や責任教師の責任がほとんど問われていないことだ。韓国の高校球児はほとんど合宿生活をしているが、1日の大半を占める野球部内の行動に、大人はほとんど見て見ぬふりをしているようだ。これでは、選手の人格が育つのは難しい。
オーストラリア戦で二塁打を打った姜白虎が、ガッツポーズをしようとして、一瞬ベースから足が離れアウトになった。東京五輪ではベンチで物憂げな表情でガムを噛んでいる場面が放送され、バッシングを浴びた。姜は類まれな素質を持った選手で、韓国最高の打者になる可能性を秘めている。けれども、人間の内面をしっかりさせないと、その素質は中途半端に終わってしまうかもしれない。
韓国の高校球児は、プロの3軍か4軍といった意識だ。しっかりマナーを身に着けることがほとんどなく、プロの真似をしてパフォーマンスをする選手が多い。本塁打を打ったり、試合に勝ったりすると、ペットボトルに入れた水を浴びせたり、中には、ドリンクを冷やしているバケツごとぶっかける選手もいる。プロならまでしも、高校野球でこんなことをやる必要があるのか。
韓国野球の問題の根は、意外とこんなところにあるように思う。プロに入ることのみが目的となり、人間性や考える力というのがおざなりになっている。
そこを改めなければ、一時的に好成績を収めることがあっても、韓国野球の土台は弱いままだろう。もちろんそれは、日本も他山の石とすべきことである。
(文=大島 裕史)