予選でキラリと光った7人衆!東海地区から手束 仁氏が選抜!今井、神尾、稲垣、それから?
全国で熱戦が繰り広げられた第98回全国高等学校野球選手権の地区大会。今回は、各地区の著名ライターが、独自の視点で話題の『7人衆』を選抜!まずは、東海地区も観戦した手束仁氏より、東海地区の有望選手を7名選んでいただいた。
多くの普通の高校生投手に自信と勇気を与えた稲垣 淳之介(袋井)
稲垣 淳之介(袋井)
新チームで挑んだ昨年の秋季大会、西部地区大会で一勝もできないまま敗退してしまったチーム。それが、春季西部地区大会では2位に浮上。その原動力となって自信を得たが、県大会では大敗。それをバネに、夏はチームも大躍進で決勝進出。もちろん、エースとしてその投球は光ったが、特に制球のよさは守りのリズムにもいい影響を与えて、野手の好プレーも飛び出したが、それを導き出したのが稲垣君の投球だった。そして、制球以上に度胸のよさが光った。
ことに、準々決勝で第2シード日大三島との息詰まる白熱の投手戦は、その真骨頂ともいうべき見事な投球だった。身長177cm体重63kgと細身の身体だが、それ以上に大きく見えた。普通の高校生投手が、ガンバレば十分に県内上位の強豪チームに投げられるということを証明して見せた。そういう意味では、多くの普通の高校生にも自信と勇気を与えてくれた投球は称えられていいだろう。
【選手名鑑】稲垣 淳之介
親子鷹で甲子園を目指して!5安打を放ち父親を驚かせた小林 宗弘(常葉橘)
小林 宗弘(常葉橘)
学園内人事で、小林 正具監督が常葉橘の監督に復帰したのは、この3月だった。こうして、親子鷹で甲子園を目指すことになった。春季県大会は、強豪校の間をすり抜けるかのようにスルスルと勝ち上がっていって優勝を果たした。その勢いで、東海地区大会も県岐阜商に逆転勝ちして優勝を果たした。その試合では先発して序盤に5失点してしまったか、後半に味方がその失点を返してくれた。自分自身は、本来は2番を打つ外野手であるが、マウンドで結果が出せないことには悔いが残った。
そして迎えた夏、チームは一躍優勝候補となって注目される存在となった。好投手横尾 蓮太君を擁する静清との準々決勝は、エース谷脇 亮介君がつかまって、終始リードされる苦しい展開だった。2点を追いかける8回に一死三塁で1点差と迫る安打を放つと、相手失策で三塁まで進み、犠飛でついに同点のホームを踏んだ。そして延長に入っていった試合、10回には一死から内野安打で出塁して、味方の3連打を導き出して勝ち越しのホームを踏んだ。終わってみたら、この試合では5安打。「試合展開も想定外でしたが、あいつの5安打が、一番想定外でした」
監督は父親の笑顔を見せていた。
【選手名鑑】小林 宗弘
先輩・岩瀬仁紀の話に発奮し、4強の原動力となった神尾 明星(西尾東)
神尾 明星(西尾東)
本人はそう思っていなくても、周囲は思わず“岩瀬二世”と称えてしまう。そんな素晴らしい投打の活躍だった。チームは4年ぶりのベスト4進出となったが、当時の西尾東の活躍を見て、「地元の学校で、甲子園を目指したい」という思いで集まったのが、この世代だった。高校時代は岩瀬 仁紀投手の1年下で、投手と外野手をやっていたという寺澤 康明監督からは、「とにかく、岩瀬さんはよく走っていた。時間を見つけては走っていた」ということを聞かされて、自分もしっかり地道に努力していこうと思うようになった。
チーム内にはライバルともいえる川崎 ライアン君もいた。リードしていた試合が雨天中止となって、仕切り直しとなった準々決勝。投手としては先発して、6回のピンチでは一旦外野に退きながら、7回から再登板していた。4対4で迎えた9回、このままいけば延長もありかという流れだった。一死満塁で3番打者として迎えた打席、初球から振っていって2球目、捉えた打球は左翼線に落ちた。まさに、投げて打っての大活躍だった。
【選手名鑑】神尾 明星
1人三役を背負い、その期待に応えた藤嶋 健人(東邦)
藤嶋 健人(東邦)
1年に今の夏に甲子園デビューした注目の男が、最後の夏に甲子園に戻ることができた。「エースで4番打者で主将」名門東邦のユニフォームを着て、一人で背負うものが多すぎるのではないだろうか…と心配してしまう向きもあるが、森田 泰弘監督はきっぱり。「藤嶋は1人三役を背負える選手であるということですから大丈夫です」。絶対の信頼を置かれている。そして、その言葉に十分にこたえる活躍でチームを2年ぶり、春夏連続の甲子園に導いた。
1年生の時から注目を浴びる存在となっていたが、そのことに奢ることもなければ、プレッシャーと感じて自分で崩れていくこともなかった。打順では自分の一つ前を打つ松山 仁彦君(関連記事)も、自分と同様に投げて打っての選手であったことも刺激になった。ことに、春季大会では投手としては松山君が中心となってベスト8にまで進み、そのことがチームの底上げとなり、森田監督も評価していた。それが、自分自身のさらなる成長にもなった。
大本命として挑んだ夏の愛知大会で、その下馬評通り、堂々と勝ち上がってきて、藤嶋君は投打でその期待に応えた。檜舞台での活躍が期待される。
【選手名鑑】藤嶋 健人
藤嶋選手インタビュー:最高の仲間とともに全国制覇へ
[page_break:憧れ続けた聖地へ到達 岐阜県ナンバーワンスラッガー・今井 順之助(中京)]憧れ続けた聖地へ到達 岐阜県ナンバーワンスラッガー・今井 順之助(中京)
今井 順之助(中京)
憧れ続けた甲子園に、最後の夏に出場することができた。高校通算60本以上の本塁打を放っているが、177cm88kgの身体から放たれる打球は、早くからプロ野球のスカウトたちの注目も浴びていた。中学生の岐阜東濃シニア時代から注目されて、県内外の多くの有力校から声がかかったが、地元の中京に進んで1年生の夏から4番を任される存在となった。
社会人野球の強豪NTT西日本で監督経験のある橋本 哲也監督が就任して、バットを振る前に14kgのダンベルを20回ほど上げ下げして、負荷を与えてから打席に入るという、社会人並みのトレーニングを導入して、そのパワーがさらに磨かれるようになった。
ただ、昨秋の東海大会では意識しすぎて期待に応えきれなかったということもあり、いくらか調子の波もあった。また、警戒して歩かされることを避けるために1番を打ったこともあったが、最終的には4番打者としてどっしりとしていたことが相手に対してもプレッシャーを与えられる存在となった。前を打つ北川 竜之介君が成長してクリーンナップとしての機能がより増していったとも言えよう。
折しも、先の6月に開催された全日本大学野球選手権では同じ安達学園の中京学院大が全国制覇を果たした。追い風が吹いていることは確かである。
今井選手インタビュー:世代ナンバーワンスラッガーを目指して
【選手名鑑】今井 順之助
三重大会準優勝の原動力となった広翔 悟(津田学園)
広翔 悟(津田学園)
悲願の甲子園出場はならなかった。それでも、チーム躍進の中心選手としてその存在は大いに注目された。176cm87kgという数字からでも推測されるように、一見するとずんぐりとしたタイプだ。そのパンチ力は一目置かれているが、見た目以上に動きもシャープで、三塁手としても確かな守備を見せている。近鉄などでプレーした中村 紀洋をイメージしてみるといいだろう。打撃も、プルヒッターかと思われがちだが、比較的広角にも打ち分けられることができる。そういった器用さ、バットコントロールの巧みさも持ち合わせている。
甲子園という舞台で、全国のファンにも知ってもらいたい選手ではあったが、第一シードとして挑んだこの夏は、順調に決勝までは勝ち上がっていった。最後に、今春のセンバツにも出場しているいなべ総合学園の前に屈したが、リードされても、追い上げる本塁打を放つなど、その存在感は十分に示すことができた。
【選手名鑑】広翔 悟
ついに夏の甲子園切符を手にした山内 智貴(いなべ総合)
山内 智貴(いなべ総合)
1学年下の渡辺 啓五投手が、昨年の秋季大会以降大きくクローズアップされてきていた。センバツではエースナンバーを渡辺君に譲ることになった。先発したが、内容的にはもう一つ不本意だった。反省としては、横ブレしやすいと言われていたフォーム修正に努めたが、5月には右足の内腿を痛めて、せっかく取り戻した背番号1で臨んだ東海大会でも登板機会を得られなかった。
それでも、腐らずしっかりと準備をしてきて、層の厚いいなべ総合の柱として、最後の三重大会決勝で、先発マウンドを託された。そして、尾崎 英也監督の起用に応えて、ほとんどぶっつけ本番に近い先発だったが、エースとして責任の5イニングを2失点で抑えた。あとは水谷 優君に託して、一塁の守備に入った。
夏の甲子園は悲願でもあった。昨年は、2年生ながら投手の軸の一人としてベンチ入りしていた。3点リードして9回、ピンチに自分が行くことになるかもしれないと思いブルペンで肩を作りながら、チームは5点を奪われ逆転されて、手の届きかかった甲子園を逃したのを目の当たりにしていた。
【選手名鑑】山内 智貴
(文=手束仁)