久保 聖也さん 「世界に一つしかない、僕のグラブと共に」 (桐蔭学園出身/2013年卒業)
野球選手であれば、誰でも特別な思い出が詰まっている野球のグラブ。初めて買ってもらったグラブ。自分で気に入って選んだグラブ。選手一人ひとりに、それぞれの思い出が詰まったグラブがあります。今回は、高校野球で活躍を残した選手たちに、高校時代のお話と、その時代をともに過ごした「グラブ」へのエピソードを伺いました。
第2回は、神奈川の桐蔭学園出身の久保 聖也さんのお話です。甲子園を目指して戦い続けた高校3年間。毎日、ユニフォームもグラブも真っ黒になるまで守備練習に打ち込んだ日々の記憶とともに、グラブとの思い出を語っていただきました。
誇りでもあるけれど、悔しさの残る高校野球
桐蔭学園時代の久保 聖也さん(本人提供)
僕にとって、激戦区・神奈川で甲子園を目指して野球に取り組んだことは、今でも自分の中での誇りだ。入学当初は、同級生には中学からのトップレベルの選手たちも多くいて、入部前から、僕らの学年は「黄金世代」と言われていた。このメンバーなら甲子園もいけるだろうと周囲からの期待も高かった。だから、その時は夏の甲子園に、これから3年連続で行けると本気で思っていた。
まずは、1年生の夏。大会前に試合で4番に起用されたこともあったんだけど、夏の大会ではベンチ入りは叶わなかった。チームは準々決勝まで勝ち上がるも、横浜に2対6で敗れた。
秋の新チームでは、僕はレギュラーを勝ち取った。それでも、神奈川を勝ち抜くのは難しかった。2年生の夏も準決勝まで勝ち上がったけど、桐光学園に4対5で惜敗。いざ、自分たちのチームになって、春の神奈川県大会でも準決勝まで進むも、ここでも横浜の前に、逆転負け。ラストチャンスとなった最後の夏。チームも良い雰囲気で、1つずつ勝ち進んで、ついに決勝戦までたどりついた。
この時の相手は、前年の夏と同じ桐光学園。マウンドには、松井 裕樹君(東北楽天ゴールデンイーグルス)がいた。先制したのは、僕らのチームだったけど、4対5の1点ビハインドで迎えた8回裏に、桐光学園に一挙6点を取られて、試合は4対10で敗れた。
甲子園にあと一歩、届くところまで行ったけど、僕たちは神奈川の頂点に立つことができなかった。僕たちの力なら届くと思っていた夏の甲子園。でも、上には上がいた。甲子園は遠かった。
相棒と共に挑み、自信を持てた守備
桐蔭学園時代の久保 聖也さん(本人提供)
僕は甲子園に行けなかったけど、桐蔭学園野球部に入って良かったと、卒業した今でも心から思っている。僕は、桐蔭学園の野球からたくさんのことを学んだ。
桐蔭学園はとにかく守備でも基本を大事にするチームだった。守備コーチの片桐 健一先生と一緒に、延々と何百球ものゴロ捕球を繰り返した。片桐さんは、かつて平野 恵一(現・阪神タイガース二軍守備走塁コーチ)など、名選手を多く指導された方。そんな片桐さんから様々な守備練習方法を教わって、捕球やカットプレー。それを何セットも延々と繰り返す。
仕上げにノックで終わる日もあれば、そのまま地道な基本練習で終わる日もあった。もう、そんな練習が毎日終わるころには、グラブも真っ黒。ホントに地味なんですけど、それでも、そういった練習が「だんだん上手くなってきた」という実感がわいてくる。
僕の3年間といえば、基本練習をやって、ノックをやって、試合をするのサイクルで、試合でエラーをしたらまた基本練習に戻る。その繰り返し。だけど、守備にスランプはないから、やればやるほど上手くなった。高校時代はよく、「守備にセンスなんて無い!だからこそ、基本練習だけは大事にしろ」って常に言われました。その3年間があったからこそ、自分の守備に自信があるって言えるまでになれた。だって、入部した頃は本当に下手くそだったから。反復練習の繰り返しで、その後、公式戦でササッと捌けた時には、「あ、この練習やってて良かった!」って思えたんだ。
それから、監督さんから口酸っぱく言われていたことがある。
「普段からいいことをしていれば、必ずプレーに出る。悪いことをすれば、必ず悪いプレーが出る」って。
それと一緒で、僕はグラブを粗末に使うやつは必ず大事な部分でエラーをするって思っている。実は、高校の時に自分のエラーで試合に負けたことがあった。その時は、もう少しグラブを磨いていれば良かったって思った。今では、グラブを磨かないで使うと、逆に捕れる気がしない。常に磨いた状態でないとムズムズしちゃう。僕の“相棒”なので、当然のことだ。人間が体を毎日洗うのと、同じ感覚だった。
僕のグラブの手入れ方法は、まずは、汚れをクレンジングローションで入念に取る。その後、1回乾かす。そうすると、汚れが落ちてくる。さらに、その後にグラブオイルを自分の手でなじませてあげる。タオルとかじゃなくて、自分の手で、というのがポイント。手を洗う時は、指の間とか爪先までしっかり洗うから、それと同じ感じでグラブも隅々まで磨いてあげる。時間にしておよそ20分。もちろん汚れ具合にもよるけど、乾拭きするだけくらいの時もありますし、革と会話をしてその時の状態を見極めて「今日はキープオイル塗ろう」なんて日もある。
良いグラブに出会えれば守備も変わる
久保 聖也さん(桐蔭学園出身/2013年卒業)
周りからは、「ずいぶん入念だな」と思われることもあったけど、自分にとってはこれが普通。野球は、道具が必要なスポーツだから、その道具は自分の体と一緒。体の一部だと思って接しているんだ。
グラブに話しかけながら磨いたり、そうすると、古くなってきても劣化ではなく、味が出てくる。それを高校時代から続けるのが大切だと思うんだ。練習量が多いからこそ、グラブも体と同じように酷使するから、その時、しっかりしたグラブであれば、ちゃんとケアをすることで、機能を維持しながら使うことができる!
僕は高校の最後の夏はオーダーグラブを使っていた。2年生の秋くらいに親に買ってもらったものだ。高校野球って新品のグラブを使っているやつってほとんどいなくて、みんな使い込んだグラブを使っていて、それなりの思い出もある。そうやって愛用したものこそ、最後の最後に、自分の自信にもつながってくる。
ただ、僕の場合は、それだけ大事にして思い入れがあったグラブだったけど、実は今使っているグラブをもし高校の時にも使っていたら、もっと上手くやれたんじゃないかな?って思うことがある。
高校野球を卒業してから、今度は大学野球の道に進んだ。その時に出会ったのが、ウイルソンのグラブだった。使ってみたら、もう衝撃的だった。ショートバウンドだったり、難しいボールに対して吸い付いてくれる感覚。
グラブの革もしっとりしていて、形も良い。ギリギリの球も入ってくれる。デザインも、本当に一目ぼれ。僕は道具をコロコロ変えるタイプではないんだけど、このグラブは出会って、すぐに替えた。運命というか、夫婦みたいな感じ。ちょっと大げさかもしれないけど、本当に最強なんだ。
高校の時にこのグラブがあれば、心中じゃないですけど、もっと共に戦えたと思えるくらい。もちろん、高校の時に使っていたものが悪かったというわけじゃないんだけど、もっと早くウイルソンのこのグラブに出会っていたら、もっと僕の守備は変われていたんじゃないかなって。だからこそ、オーダーグラブはやっぱりオススメだ。世界に一つしかないそいつと、一生に一度しかできない高校野球で甲子園目指せるんだから。
(語り=久保 聖也さん)
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