Column

3年生座談会 鹿児島実業高等学校(鹿児島)「夏の決勝戦・延長再試合を戦った先に」 vol.3

2016.09.23

 第2回では、鹿児島実業ナインがこの夏の鹿児島大会決勝戦での樟南との延長再試合の秘話をたっぷりと語ってくださいましたが、まだまだ話しは尽きません!第3回でも、再試合終盤に起きたストーリーを語りつくします!

「兄貴の分まで頑張って、甲子園に連れて行く」

井戸田 貴也(鹿児島実業高等学校)

――そこで樟南は浜屋君から畠中君にスイッチします。ここで鹿児島実は3人連続で抑えられて、点が取れませんでした。

佐々木:三塁にいて浜屋君がこの調子なら1点ぐらいは取れるだろうと思っていました。畠中君に代わったのはびっくりでした。自分たちにスキがあったとは思いたくないけれど、やはりここで1点も取れなかったのが悔しかったです。

綿屋:3回に樟南が無死満塁で1点しかとれなかったので、監督さんが「うちらはビッグイニングを作るぞ!」と言っていたら本当に満塁のチャンスだったので「よっしゃ!」と思いました。僕は歩かされましたが、その後が板越(夕桂・3年)、追立、智也(井戸田・2年)だったので1点は入ると思いました。板越の当たりはボテボテのファーストゴロで、佐々木の足なら生還できると思いましたがホームアウト。追立、智也が三振。中心打者を打ち取られたのは痛かったです。

井戸田:試合前、弟の智也が「兄貴の分まで頑張って甲子園に連れて行ってやるから!」と言われて「だったら、ここで打ってくれ!」と念じてベンチで見守っていました。結果は空振り三振。普段はあまり兄弟と意識しないようにしているけど、やっぱり弟なので、誰よりも悔しい気持ちになりました。

 グラウンドでは先輩、後輩なので敬語だけど、野球を離れれば普通に兄弟の感覚で話す。そんなときは弟から厳しいことも言われたりするけど、それが逆に良い関係でいられたような気がします。だからこそ、あの場面は弟が打って決めて欲しいと思っていましたが、打てなくて本当に悔しかったです。

谷村:板越、追立だったので1点は取れると思ったのに、取れなくて「なんで取れないんだ」と悔しい気持ちになりましたが、まだ1点差だったので、こいつらだったらまたチャンスは作ってくれると信じて、これ以上相手に追加点をやらないことに気持ちを集中しました。

――6回以降は、畠中君に完璧に抑えられてしまいます。前の試合で先発した時と、このときリリーフした時と、畠中君はどう違いましたか?

綿屋:最初の時は「後ろに浜屋がいる」という安心感があって、余裕を持って投げていました。でもこのときは浜屋からマウンドを受け継ぎ、後には誰もいない、俺が抑えてやるという気持ちが出ていて、マウンドで立っている姿も違ったと思います。

佐々木:球威もあったけれども、何より気迫と躍動感がありました。それでも打てないボールはないと思っていたし、当たってでもどんなかたちでも自分の仕事は塁に出ることと思ってずっとバットを振っていました。

――淡々と試合が進んで9回表二死となり、追い詰められたところで、加川君がヒットで出て佐々木君の打席になりました。

佐々木:加川は絶対出てくれる、何か持っていると思っていて、その通りのことをやってくれて、僕も絶対後ろにつなぐ気持ちでいました。でも2球で簡単に追い込まれ、心に余裕がなかったのかもしれません。打ちにいって左の二の腕に当たったのが、故意に当たりに行ったということで死球になりませんでした。何で死球じゃないのかというのもありましたが、そこは審判の判断なので仕方がありません。

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[page_break:最大のライバルと最高のゲームを]

最大のライバルと最高のゲームを

佐々木 幸大(鹿児島実業高等学校)

――その後、しばらく治療の時間があって、何とも言えない間がありました。結果はショートゴロで試合終了でした。

佐々木:何としても打ちたいという気持ちが強かったです。あそこで代打を出されることもなく、監督さんが頭をなでてくれて「まだあと1球ある。お前なら絶対打てる」と声をかけてくれました。多分、この2年半で一番優しい言葉をかけてくれたことで、この2年半のことが急に思い出されて感極まってしまって涙が出てしまいました。

綿屋:自分に回してくれれば返すイメージはできていました。佐々木の打席の当たったボールは普通の打席なら避けているところですが、当たってでも出たいという3年生の意地みたいなものが出ていたと思います。治療中、佐々木がベンチ前で監督さんに「絶対打ってきます」と。まだ終わっていないから泣いちゃいけなかったけど、あの場面であんなこと言われたら、ヤバいじゃないですか!(笑) あれは反則。本当にかっこ良かったです(笑)。

谷村井戸田:あれはずるいよなぁ(笑)。

――2日間、壮絶な試合を戦い抜いて、結果わずかの差で、樟南夏の甲子園に行くことになりました。

綿屋:この1年間で2回甲子園に行ったことがあるチームと、1回も行けてないチームと、甲子園に対する想いの差があったと思います。僕らは昨年夏甲子園に出て最高に良い思いをして、春は春で楽しくて、だからまた行ってみたいと思っていました。しかし、樟南は1回も行けていなくて何が何でも出たいという気持ちが強かった。その差がどこかにあったような気がしています。

井戸田:2日間、ベンチで見ていることしかできませんでしたが、意地と意地のぶつかり合いみたいなものは十分伝わってきました。どちらも技術的な部分で差はなかった。ほんの少しの差ですが、最後は樟南が気持ちの面で僕たちを上回っていたと思います。僕は愛知の中学の出身で、鹿児島実樟南のライバル話は中学時代の指導者から聞いて知っていましたが、それをこの3年間、身をもって体験できて光栄でした。

佐々木:僕は鹿児島実で甲子園に行きたくて野球をやってきました。樟南とは1年生大会の頃からライバルであり、一番負けたくないと思っていた相手でした。負けてしまったのは甲子園に対する想いのわずかな差だったと思います。全国制覇を目指してやってきて、悔いはないけれども引っかかるところもある。でもこのメンバーと一緒にやってきたことは間違いじゃなかったし、幸せなことだと思っています。

谷村:5年前の先輩たちに憧れて鹿児島実を目指して、春行ったけれども夏行けなかった先輩たちの悔しさを晴らすつもりでやってきましたが、結果は先輩たちと同じく春夏連続を果たすことができませんでした。その悔しさはありますが、その代わりに歴史に残る試合をしたことで、先輩たちにも良い思い出をプレゼントすることができたのかなと考えています。

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[page_break:引退後の決意]

引退後の決意

座談会に出席した鹿児島実3年生の4名

――最後に、今後の進路と、この試合を経験したことで、これからに向けて決意したことなどがあれば教えてください。

谷村:僕は大学に進学して野球を続けます。大学では畠中君も同じリーグの大学と聞いているので、今度こそは負けないように、次こそは勝って神宮の全国制覇を目指したいと思います。

佐々木:僕は就職です。本格的に野球をすることからは離れるかもしれませんが、鹿児島実野球部で学んだ精神力や、人を思いやる気持ちを忘れず立派な大人になりたいです。一緒に野球を頑張ってきた仲間、指導者の方、応援してくださった方々に、これからも頑張っている姿をみせられるようにします。

井戸田:僕も就職で、本格的に野球をやることには区切りをつけたつもりです。人生の中で一番苦しい2年半を過ごして、他の学校だったら絶対経験できないことを学ぶことができました。これからの人生で苦しいことがあってもこの2年半を思い出して乗り越えていきたいです。こののちまた野球に関わりたいと思う時がくると思いますが、その時はプレーヤーではなく、指導者として、ここで学んだことを自分よりも下の世代の子供たちに伝えられるような指導者になりたいと考えています。

綿屋:社会人で野球を続けます。1年目から何が何でもレギュラーで試合に出られるよう頑張ります。同じ社会人野球出身の監督さんも都市対抗の優勝は果たせませんでしたので、その分も都市対抗で優勝し、最後はプロに行って自分の実力を確かめたいです。夏の甲子園に出ていたら、多分僕もU-18の代表に選ばれていたと思います(笑)。社会人ではそのメンバーとも対戦することになると思うので、何が何でも負けないようにしたいです。


1時間半あまりの座談会があっという間に感じられた。少し時間が経った今だから思い出せること、当事者にしかわからなかった心境を聞くことができた。
彼らの言葉から冷静に分析すれば、樟南のエース浜屋に対する意識が強くて、畠中に対する対策が十分でなかったことが鹿児島実の敗因の一つとして浮かんでくる。それ以外の部分では両者ともに死力を尽くし、互いに負けたくない意地と意地がぶつかり合い、歴史に残る延長15回引き分け再試合につながった。

 あと少しの差で一番負けたくないライバルに敗れ、甲子園に行けなかった悔しさが消えることはない。しかし彼らなりに精一杯の力を出し尽くしたからこそ、「楽しかった」と心から言えるのだろう。「時間が経って話したら、もっと楽しいでしょうね」と綿屋主将が言う。5年後、10年後、今度は酒でも飲みながら彼らと話してみたいものだ。同時に勝った樟南の選手たちはどんな思いであの試合を戦っていたのか、聞いてみたくなった。

(取材・写真=政 純一郎

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【僕らの熱い夏2016 特設ページ】

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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