3年生座談会 北海道栄高等学校(北海道)「涙で終わった夏も輝いた思い出の1ページに」【後編】
前編では高校3年間での練習の思い出を中心にたっぷりと北海道栄の3年生部員の皆さんに語っていただきました。後編では、昨秋の快進撃の裏にあった思い出や、高校野球生活が終わった今夏を振り返って思うこと。また自分達の経験を踏まえ、後輩たちへのアドバイスをいただきました。
今だから語れる練習のエピソードは?
上西 孝希(北海道栄高等学校)
――“罰走”っていうのは、どんな時にやることになるんですか?
公平:人に迷惑をかけてしまった時ですね。自分たちの代は1年生の時に多かったんですけど、宿泊研修で2階から落ちてケガしたヤツがいたんです。先生方に迷惑をかけてしまって、帰ってきたら「お前らに野球をする資格はない」って監督に言われて。春季大会中だったんですけど、永遠に走ってました。
上西:修学旅行の前日に学校のカギをなくしたヤツもいてたり…
林:加藤はミーティングにいなかったことあったよな。
加藤:あれは遠征中で試合の後にトイレに行ってたら、もうミーティングが始まっていて…。途中から入りにくいから、遠巻きに見てたんですけど、すぐに終わるのかなって思ったら1時間以上経っても終わらなかった。そのうち、いないのに気付かれてしまいました。その後は雨の中、ラグビー場を延々と走ってました。
――逆に一番楽しかった思い出は?
上西:去年の秋の全道大会ですね。
傳法:そうそう。勝つたびにどんどんおやつがグレードアップしていったんですよ。
公平:最初はプリンだったのが、シュークリーム、ケーキとなっていって、最後は温泉ってことになって。試合をやっていてもおもしろかったし、試合が終わってからも楽しかったですね。
――あの快進撃には、そんな裏話があったんですね。今年チームがこれまでのチームと決定的に違うと言える点はどんなところだったでしょう?
林:いい意味でも、悪い意味でも「自由」っていうことですかね。
上西:これまでのチームもみんな仲が良かったんですけど、僕たちのチームはどんな場面でも本音をバーンっとぶつけていくところがあった。「個」が強かったんで、ぶつかることも多かったけど、その分本気でお互いを高めあっていた。そこが良かったんだと思います。
上野:みんな考えていることが分かっていたので、何も言わなくても、みんなが思った通りの動きをしていた。試合中もマウンドに集まらなくても、ピッチャーやキャッチャーと目を合わせるだけで、お互いに相づちを打って意思統一ができていました。雰囲気もすごく良かったと思います。
林:まとめるのは大変でしたけど、ここ一番では1つになれていました。大会を1つひとつ重ねるたびに、みんな声を掛ける言葉の質も上がっていきました。そんな雰囲気の中でやってきてたんで、最後の夏を迎える前も「これが最後」という感覚はなかったですね。
金澤:秋、負けた時もあんまり変わらなかったですからね。「あぁ、また明日から練習だなあ」っていう感じで。みんなと野球をやっているのが、あまりにも普通のことになっていたんだと思います。
最後の夏は甲子園で終わりたかった
上野 風(北海道栄高等学校)
――それでもさすがに夏が終わった時には、感じるものがあったんじゃないですか?
上西:今年のメンバーは1年の時から試合に出ている選手が多かったので、「これで終わり」という気持ちがなかった。というより、負けを受け止められなかったのかもしれません。そういう意味では「もっとできたんじゃないか」という気持ちもあります。
上野:準決勝、決勝とテレビ放送しているのをみていた時、「勝ってたらここでしていたのかなあ」って思って、初めて自分たちは負けたんだと思いました。
加藤:終わった瞬間は「こんなもんかなあ」って、冷静でしたね。でもロッカーに帰ってきてからじわじわと感情が崩れてきて…。試合後のミーティングでは、みんな号泣してました。
金澤:最後の札幌第一戦では、0対1から9回に自分が打たれて点を取られてしまって。2年生の北村(悠貴)に代わってベンチに帰った時、「また自分が打たれて終わってしまうのかな」って思うとすごく悔しかった。試合が終わって整列した時は泣いてなかったんですけど、スタンドにあいさつしたら、これまで支えてくれた人や親の顔が浮かんできて、申し訳ない気持ちで一杯になって泣いていました。
林:最後まで「なんとかしてやろう」って思ってたんですけど、上出に見事になすすべなくやられてしまって…。最後は甲子園で終わりたいという気持ちが強かっただけに、本当に悔しかった。
傳法:チームが負ける時には、必ず自分が大事な場面で金澤の球を弾いてしまって、進塁されていたんです。秋(決勝)の札幌第一戦も、春(決勝)の札幌大谷戦も、1つだけ自分がミスして負けていたんです。ヒットを打たれるのは仕方がないと思うんですけど、「自分がミスしていなかったら…」って思いました。金澤を最後まで投げさせられなかったことも悔しかったですし、心残りです。
――秋も春も「あと1つ」で優勝を逃し、最後は秋の決勝の相手に負けてしまいました。自分たちに足りなかったものは、何だと思いますか?
金澤:自分はまだ分からないですね。
傳法:最後の冷静さが足りなかったんだと思います。
林:ここ一番でやるべきことができなかったことが、全大会を通しての敗因だったのかと思います。あの場面でどうするべきだったかというのをもっと考えてやれていたら、と思います。
公平:ただ「試合に負けた」という感じです。実力の差があったわけでもないし、ミスをしたわけでもない。ただ試合には負けたという思いですね。
上西:技術も経験も、どこのチームよりも上回っていたし、実力もあったと思います。ただ個人的には1年生から試合に出させてもらっていて、野球ができることが当たり前になりすぎていたのかなと。細かいことの大切さや、サポートしてくれている人たちの気持ちを考えきれなかったところだと思います。
上野:自分もまだ思い浮かばないですね。それぐらい今年のチームだったら勝てるという自信がありましたから。
加藤:能力とかじゃなくて、最終的に勝ち切る力というのがなかったのかなと思います。
後輩たちへ伝えたいメッセージ
加藤 泰行(北海道栄高等学校)
――最後に自分たちの経験を踏まえて、後輩たちへのアドバイスをお願いします。
金澤:自分は投手だったので、投手陣には初回の入り方をしっかり意識してほしいですね。自分が結構、立ち上がりに点を取られてしまったというのがありますから。いきなり勝負しにいくのではなく、野手を信じてコントロール重視の打たせる投球を意識してもらいたいと思います。
傳法:ピンチをピンチと思わないことですね。「走者が得点圏にいってしまった」とマイナス思考になったら、体が動かなくなってくる。捕手だったら頭が回らなくなって、相手にとって有利にしかならない。野球は時間制限のあるスポーツじゃないんで、ピンチの時こそ、時間を多く使ってほしいと思います。何回声を掛けに行ってもいい。まだ点を取られているわけじゃないんだから、とにかく冷静さを失わないようにしてほしいですね。
林:自分たちが抜けて、新チームは1からのスタート。後輩たちには「経験者も少ないから、すべてにおいて相当の覚悟を持ってやれ」と伝えました。「中途半端な考え方じゃ、自分たちの成績は越えられないぞ」と。
公平:自分に自信を持って、自分が一番うまいと思ってやってほしい。僕は小さい頃から消極的なことが嫌いでした。もっとうまくなろうとか、もっと上のレベルを目指そうと思って練習も試合もしていれば、必ず自信もついてくると思います。
上西:自分は三塁手で「声を出してナンボ」でしたから。投手も近かったし、声を出すことでチームを盛り上げていこうと思ってやっていました。練習試合ではあまり結果を出せなかったんですけど、公式戦では気持ちを出せばヒットになった。だから気持ちでは絶対に負けてほしくないですね。
上野:自分たちのチームは試合でも笑って楽しくやっていた。新チームは初めて試合に出る選手も多いけど、試合を楽しめるぐらいの余裕を持ってやってもらいたいですね。それには自信を持つことだと思います。
加藤:どれだけ頑張っても、負けたら必ず後悔すると思うんです。だから「甲子園出場」じゃなく「全国制覇」を目標にやってもらいたいですね。自分たちがやってきたことに自信を持って、公式戦でも同じような気持ちで出来るぐらいに練習して、甲子園をつかんでほしいと思います。
自由奔放な空気の中でも、核心部分になると表情がガラリと変わった個性派集団からは、野球に対する強烈なこだわりが感じられた。この日集まってくれた7人は、当然のように今後も野球を続けていくことを明言した。「最強の敗者」の背中をみてきた後輩たちが、必ず夢を実現してくれるはずだ。
(取材・写真=京田 剛)
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