Column

そのマネジメントはまるで社長。就任1年目で甲子園出場を経験した鬼塚佳幸監督(沖学園)の指導法とは

2020.03.02

 2018年、就任1年目にして沖学園を甲子園に導いた鬼塚佳幸監督。鬼塚監督は、まるで社長のような監督である。高校野球の監督というイメージからは程遠いところに位置していると言えるだろう。

 なぜ社長という言葉を選び、ビジネスマンと言わなかったのか。それはマネジメントのプロだからだ。ビジネスマンと言うよりは、社長という表現がぴったりである。

 では早速、鬼塚監督の指導方法をユニークなキャリアと共に紐解いていきたい。

異色の経験・ホテルマン

そのマネジメントはまるで社長。就任1年目で甲子園出場を経験した鬼塚佳幸監督(沖学園)の指導法とは | 高校野球ドットコム
鬼塚佳幸監督(沖学園)

 鬼塚監督といえば、神村学園時代に副部長として春夏で計4回[stadium]甲子園[/stadium]の出場を経験している。今回は指導者以上にユニークなキャリアに注目したい。

 鬼塚監督は「ホテルマン」を経験している。ホテルマンと野球の指導にあまり相関関係を感じないかもしれない。選手指導の話題の際に鬼塚監督は面白い言葉を語ってくれた。

 「ホテルマンはあまり怒らないですよね。ぐっと堪えますよね。言われた側の立場でも語ってしまうので、こんな言われ方されたら嫌だよなとか。そういうのを先に考えてしまいます。それがホテルでの仕事の経験とかも活きているんじゃないかと。お客さんに対して(怒りなどなど感情を表す)態度を見せないとか、相手に気持ちよく旅行期間を過ごしてほしい、楽しい時間にしてほしい、だからこちらも柔らかく接しないといけない。でも ピリッとしないといけないときもある、接し方の 「TPO」 じゃないのですけどもそういうのを学んだというかですね」

 鬼塚監督は上からものを言って、押さえつけないのである。TPO(Time:時、Place:場所、Occasion:場合)によって指摘の仕方を変えているのである。大事なポイントの1つ目である。相手の状況を汲み取る、相手の立場に立って考えるという点である。だからこそ、指導する際に怒らないのである。相手が今どのように感じるかを瞬時に考えるからである。

 また、指導するにしても、周りに相手以外の他の人がいるのか、伝える場所は適切なのかなど多くの情報を短時間で処理して対応するのである。これこそ、ホテルマン時代に数え切れないほどのお客さんと接し、一瞬の判断を多くしてきたからこそ磨かれたスキルの1つだろう。

 さらに、相手の状況を一瞬で理解した後のアウトプット力である。

「伝える時に相手の感情を読みながら、一歩通行にならないようにというのは心がけてはいます。その日の顔とか、言葉をかけてやらないといけないなとか、そういうのは見ていますし、考えますよね」

 瞬時に感じた感覚を、言葉で伝えられるこれも鬼塚監督の強みである。このホテルマン時代に磨かれたスキルは高校野球の指導者としても非常に有益なのは理解できるだろう。

[page_break:専門学校で磨いたアンガーマネージメント]

専門学校で磨いたアンガーマネージメント

そのマネジメントはまるで社長。就任1年目で甲子園出場を経験した鬼塚佳幸監督(沖学園)の指導法とは | 高校野球ドットコム
練習を見守る、鬼塚佳幸監督(沖学園) 一番左

 鬼塚監督のユニークな経歴のもう1つが専門学校の教員である。ここでは、「怒らない」というキーワードを掘り下げたい。

 神村学園で副部長(コーチ)をしていた時期は、まさに熱い指導という言葉が当てはまる指導方針だった。ただこの後、専門学校に移ったことで大きな気付きが生まれる。それが「怒らずに、褒めて伸ばす」だ。

 「専門学校にいって、年齢も社会人になる前で(高校生とは)違いますし、高校卒業して二十歳ぐらいの子に、怒鳴って怒る教育をした方がいいのかと考えた時に、理解できる専門学校生は、(対話を通して)行動に移せるというところがあったので、そこは改めてこういうのもあるのだなと。相手にしっかりと答えさせて、それを理解した上で、 それは間違っているよねというのを指導していく、理解させた上で行動を改めていくというのを学びましたね」

 これは鬼塚監督の言葉である。この専門学校の教員時代に生徒に理解をさせて行動に移させるという事を再確認したのである。「一方的に怒鳴ることは、子供にとって威圧的で、彼らに答える猶予すら与えない」だからこそ、鬼塚監督は対話によって相手の意見をきちんと聞き、行動を修正していく方を選んだのである。

 このように、ホテルマンや専門学校の教員というユニークな経験は、元々話すことや、相手を理解するという点に長けていた鬼塚監督の才能を更に伸ばす経験になったと言えるだろう。

高校野球の監督らしくない監督

そのマネジメントはまるで社長。就任1年目で甲子園出場を経験した鬼塚佳幸監督(沖学園)の指導法とは | 高校野球ドットコム
鬼塚佳幸監督(沖学園)

 ここで本題に戻りたい。鬼塚監督が様々なキャリアを経験してきて、自身の能力を磨いてきたが、磨いてきたのはまさにマネジメント力である。チーム全体の力を伸ばすために、一人一人にあった指導法をする(TPOを考える)。

 また、怒って怒鳴りつける訳ではなく、まず相手の考えを理解して、指導して軌道修正する。どれもこれもビジネスで社長やマネージャーに必要とされる能力である。

 冒頭で触れたが、鬼塚監督はビジネスマンでもホテルマンでもないのである。敢えて言うのならば社長である。社長として必要なスキルを、ホテルマンや専門学校の教員などの経験を通して磨いたのだ。そして、今沖学園の監督としてその手腕を思う存分に振っているのである。

 だからこそ、鬼塚監督は「高校野球の監督らしくない監督」なのだろう。

 鬼塚監督が話してくれた。
「高校3年間だけのためというスパンでは見てないです。ここを通過点として、良い人生を送ってもらいたいというのはあるので。ここに来たからには、沖学園に来て良かったなと。3年間勝てなかったとしても、ここで3年間野球して良かったなと思ってもらいたいなと思います」

 鬼塚監督は、沖学園を通して野球以外にも活躍できる立派な社会人を育成しているのである。人間的に魅力の詰まった鬼塚監督に注目したい。

文=田中 実

関連記事
他の名将たちの記事はこちら
鍛治舎巧監督(県立岐阜商)具体的な数字の達成で成功体験を積み重ねる
大須賀総監督(福井工大福井)『野球部員である前に高校生たれ』!

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.27

【福岡】飯塚、鞍手、北筑などがベスト16入り<春季大会の結果>

2024.03.27

青森山田がミラクルサヨナラ劇で初8強、広陵・髙尾が力尽きる

2024.03.27

【神奈川】慶應義塾、横浜、星槎国際湘南、東海大相模などが勝利<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.27

中央学院が2戦連続2ケタ安打でセンバツ初8強、宇治山田商の反撃届かず

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.24

【神奈川】桐光学園、慶應義塾、横浜、東海大相模らが初戦白星<春季県大会地区予選の結果>

2024.03.23

【東京】日本学園、堀越などが都大会に進出<春季都大会1次予選>

2024.03.27

報徳学園が投打で常総学院に圧倒し、出場3大会連続の8強入り

2024.03.22

報徳学園が延長10回タイブレークで逆転サヨナラ勝ち、愛工大名電・伊東の粘投も報われず

2024.03.08

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.03.17

【東京】帝京はコールド発進 東亜学園も44得点の快勝<春季都大会1次予選>

2024.03.11

立教大が卒業生の進路を発表!智弁和歌山出身のエースは三菱重工Eastへ、明石商出身のスラッガーは証券マンに!

2024.03.23

【春季東京大会】予選突破48校が出そろう! 都大会初戦で國學院久我山と共栄学園など好カード

2024.03.01

今年も強力な新人が続々入社!【社会人野球部新人一覧】