Column

高橋源一郎監督「選手の成長のためにはいろんな方の協力は惜しまない」

2020.01.10

 令和がスタートし、高校野球は指導者の世代交代が緩やかに進んでいく。平成では昭和30年~40年代生まれの指導者がトップを走る時代。

 今では昭和50年~60年代の指導者が実績を残す時代になってきている。その代表的な指導者として期待されるのが中京大中京の高橋源一郎監督だろう。1979年生まれの高橋監督は、1997年センバツでは主将として準優勝を経験。

 その後は中京大に進み、中京大、三重中京大中京のコーチを経て、2010年から監督に就任した。それまで2009年に甲子園優勝に導いた大藤敏行監督の後継者として、期待された。

 高橋監督は「全国最多の優勝回数を誇るチームですから、日本一は常に目指していくチームです」とその目標に到達するためのチーム作りを行ってきた。

 超名門ゆえ、外部からのプレッシャーが強い中、2015年、2017年と二度の甲子園出場。そして2019年の明治神宮大会では優勝を果たし、今年は全国制覇に期待がかかっている。30歳ながら中京大中京の指揮を執ることになった高橋監督はこの9年間で、どんな指導哲学を築いてきたのか。

グラウンドは共用。雨天練習場も、寮もない中、質を高めるには選手にとってためになる指導者を増やすこと

高橋源一郎監督「選手の成長のためにはいろんな方の協力は惜しまない」 | 高校野球ドットコム
高橋源一郎監督

 全国最多の11度の甲子園優勝を誇る中京大中京。そのフレーズを聞いてしまうと、グラウンドも豪華と思ってしまうが、同じ愛知私学4強として注目される東邦愛工大名電享栄のように、学校から離れた野球部専用グラウンドがあるわけではなく、学校の敷地内にある。そのため全面に使えるわけではなく、他部活との共用だ。

 また雨天練習場もない。寮もないので、リクルートは愛知県が中心。超トップクラスのチームのように、全国から選手が集まるわけではない。

 設備について寮、専用球場などが完備されたチームと比べると、どうしても劣る。
 それでもなぜ中京大中京は全国トップクラスのチームでいられるのか…。それはこれまで築き上げたブランドを最大活用しているからだ。

 高橋監督は語る。
 「選手たちにはできることをやっていこうと話をしていますが、それでも私たち指導者は選手たちが練習に打ち込める環境作りが仕事なので、だからOBの方々の力は今の中京の環境にとっては重要です」

 まず雨天の日。高橋監督はOBを頼って雨天練習場を借りられるよう、お願いする。また、選手のレベルアップにOB、学生コーチが指導を行う。選手をあまり迷わせないよう、チームの方向性がバラバラにしないよう、そのチームの技術論などを統一する考えもあるだろう。

 ただ高橋監督は違う。いろいろな人の教えが入ることは選手の伸びしろが大きく変わってくる。
 「私1人だけでは、これぐらい(小さく腕を広げる)しか成長しないものを、こんなにも(大きく腕を広げながら)変わってくるんです」

 また選手にとって成長を促す技術論は人それぞれ。ある程度のセオリーはあっても、正解というものはない。高橋監督は「私の感覚だけでは、成長できるとは限らない。だからいろいろな方の教えが必要なんです」

 今年の主力選手たちも学生コーチや先輩、OBの力を借りながら伸びてきた。たとえば、この世代を代表する速球派右腕・高橋宏斗は学生コーチからフォーム、間の取り方など投手の基礎を学び、正捕手の印出太一は1学年先輩の捕手・関岡隼也からストッピングなどを捕手技術を学び、正遊撃手の中山礼都は朝早くきて学生コーチにノックを受けてもらい、鍛えてもらうなど、選手が主体的になって取り組む様子が見えた。

[page_break:地道に努力を継続する選手が花開く瞬間を逃さないことが指導者の役割]

地道に努力を継続する選手が花開く瞬間を逃さないことが指導者の役割

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トレーナーの指導に耳を傾ける中京大中京の選手たち

 高橋監督はこの方針が固まってきたのは、最近になってから。2010年秋から就任し、指導者として経験を重ねてきた。ここまで甲子園をあと一歩に逃すなど、悔しい負けが数多くあった。それでも甲子園にいく、より優れた選手を育て上げるにはどうすればいいか?を考えたとき、現在の方針に行きついた。

 日々の活動を追っていくと、高橋監督はその道のスペシャリストの方々をしっかりと任せる度量が見える。

 たとえば取材日は冬のトレーニング移行期で、トレーニング中は完全にトレーナー任せ。その内容に口をはさむことはない。また、明治神宮大会期間中は 中京大中京OBで、現在、法政大のコーチを務める難波真史氏にお願いして、法政大のグラウンドで練習をしたり、内野手の守備技術を教えるのに定評のある国学院大の上月健太コーチのもとで内野守備を学んだ。

 また東海地区の社会人野球チームに送り込んで、練習をさせたりと、選手のレベルアップには、いろいろな方の協力を仰いできた。

 そんな高橋監督の役割は選手を勘違いさせないこと。昨秋の明治神宮大会優勝で期待が高い分、選手はこのままでいいと満足をしてしまっては、伸びしろがとまってしまう。

 「考え方が明らかにおかしい。勘違いをしている選手に対してはしっかりと指摘しますし、練習、試合の中でも明らかな凡ミス、怠慢なプレーに対しても指摘をする形です」

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グラウンドで体を動かす中京大中京の選手たち

 高橋監督は地道に取り組める選手こそ輝くと思っている。
 「本当に野球は難しいスポーツ。だからいろいろな方の協力を仰ぎますし、いつ花が開くか分からない。高校時代、あまり活躍できなかった選手が、大学時代に活躍できるケースがあります。それは地道に努力を継続できた選手にだけ花開くものなのです」

 また高橋監督はこの夏は甲子園に行けなかったが、地道に努力した選手が花を開いた一例を紹介した。
 「佐藤啓介という選手なのですが、彼は夏にかけてぐっと伸びた選手で、背番号15でベンチ入りさせたんです。そしたら2試合連続本塁打。さらには打率6割と大きく活躍してくれました。
 佐藤は、中学時代から多くの学校から勧誘されるほどの実力ある選手でしたが、わざわざ中京大中京でやりたいと志望して入学した選手でした。苦しい時期は続きましたが、いつも早朝から練習を行い、努力を惜しまない選手でした。野球だけではなく、中学時代から成績は優秀で、今では国立大を目指して受験勉強に取り組んでいます」

 佐藤の例から見てわかるのは伸びてきた選手をしっかりと抜擢できることだ。
 「選手の成長を見逃さない。それを指導者の役割であり、だからずっと見続けることが大事ではないでしょうか」

 名門校で指揮を執り、結果を残すことは非常に難しい。その中でも高橋監督は、勝利に固執しすぎず、選手が主体的に練習を取り組める環境を作り続けてきた。また、多くのOB、野球関係者が中京大中京の選手のために力を貸すのは高橋監督の人徳が成すものではないだろうか。

 こうした助け合いの精神が、中京大中京の野球と強さを形作っているのだ。

文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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